最高のアウトプットを出すための会議術

会議には“4種類” しかないんです。-ピョートル・フィリクス・グジバチ

【実践・会議術】アウトプットの質は、“会議前”に決まる

2時間も続いた会議で結論が出ない。1日の予定の2/3は会議で埋まり、自分の仕事に集中できない──。こんな悩みを抱えるビジネスパーソンは、少なくないのではないだろうか。

なぜ私たちは、会議で「決められない」のだろうか? それを解くヒントは、“会議を始める前”にあるという。

『グーグル、モルガン・スタンレーで学んだ日本人の知らない会議の鉄則』の著者で、組織開発のコンサルティングを行うプロノイア・グループ代表取締役のピョートル・フェリクス・グジバチ氏が、最高のアウトプットを出すための「会議術」を語る。

ピョートル流会議術、5つのメソッド

「本音を言えない」日本の会議

── ピョートルさんは、グーグルやモルガン・スタンレーなどの外資企業でのご経験をお持ちですね。「会議」の観点から、日系企業との違いは感じますか?

 僕がもっとも違和感を覚えるのは、日系企業では「本音を言えない」会議が多いこと。会議中は誰も異議を唱えないのに、会議が終わった後の飲み会で不平不満を言う。これでは、会議の意味が全くありませんよね。

プロノイア・グループ代表取締役 モティファイ取締役 ピョートル・フェリクス・グジバチ

 こうなってしまう要因の一つは、日本が「ハイコンテクスト」社会であること。民族の多様性が小さい日本は、価値観や慣習が似通っていることから、明確に言葉で表現しなくても相手の意図するところが分かってしまう。顔の微妙な表情や場の空気から、「察する」コミュニケーションが成立しやすいんです。

 一方、僕の母国であるポーランドや欧米の国々は、人種も文化も価値観もバラバラなので、言葉でストレートに情報交換をする必要があります。つまり、自分の意見を相手にはっきりと伝えて会話が成り立つ「ローコンテクスト」な社会。

ハイコンテクストとローコンテクストの違い

 どちらが良い悪い、ではないのですが、ビジネス、特に会議の場で互いの感情を探り合って「本音を言えない」状態では、確実に生産性が落ちてしまいます。会議で参加者が率直な意見を言えた上で、適切な結論が導き出される。それが次のアクションにつながって、仕事はうまく回り出すんです。

 だからこそ、生産性の高い会議の根底には「チームビルディング」があるのです。仮にハイコンテクストな文化でも、チームで信頼性が保たれていれば、対立する意見でも素直に発言し、建設的な議論ができる。この「心理的安全性」のあるチーム作りは、会議を成功させる上で非常に重要な要素です。

日本の会議には“ゴール”がない

── ピョートルさん自身が会議を開く時に、気をつけているポイントを教えていただけますか?

 事前にその会議の「ゴールを決める」こと。“会議が始まる前”のこのプロセスこそが、会議を成功に導くのです。

 日系企業には、「ゴール」がない会議が多いと感じます。たとえば、「イノベーション人材を育てる」という会議が行われたとします。ですが、これはゴールではなくテーマ。これだけでは、どんなアウトプットを出したら良いか分からず、結果的にダラダラと話し合うだけになってしまう。

 僕が会議を開くなら、会議で出すアウトプットの解像度を上げた上でゴールを設定し、事前に参加者に共有します。たとえば先ほどの「イノベーション人材を育てる」テーマだったら、会議のゴールを「当社が求めるイノベーション人材の要件をまとめる」と設定できれば、何を議論したら良いか明確になりますよね。結果的にアウトプットの質も高まります。

── 会議のゴールは、どのように設定したら良いでしょうか。

 会議には、「決める会議」「生み出す会議」「伝える会議」「つながる会議」の4種類しかないんです。それらのゴールから逆算して、会議を開く場所から時間帯、進行方向を考えれば良いのです。

会議には4種類しかない

「決める会議」は、複数の選択肢から結論を選ぶ、意思決定のための会議です。当たり前のことですが、こういった会議ではその場で結論を出すことが、生産性を高める上で重要です。

 そのためには、結論を出すまでに何が足りていないのか考えてください。もし情報が足りないなら、その情報を持っている人にその場で電話して聞けば良いのです。

 仮にその場で結論を出せなくても、「じゃあ結論は次回に…」と曖昧に終わらせてはいけません。「決められたこと」「決まっていないこと」を整理した上で、次の会議に臨むことが必要。そうすれば、誰が何を準備すれば良いかが分かり、次の会議の生産性が高まります。

「生み出す会議」として挙げられるのは、自由に意見やアイディアを出すブレーンストーミングです。この時に陥りがちな罠が、事前準備なしに会議を開いてしまうこと。

 たとえば組織改善の案を出す会議なら、「このチームの改善点を、事前に3つ考えてきてください」と伝えておく。そうすれば、思いつきのアイディアではなく、個人がきちんと考え抜いたアイディアをもとに議論できるので、実現性の高いアウトプットを生みやすくなるのです。

セミナーの様子①

「伝える会議」は、全社会議でのトップからのメッセージなどが当てはまります。これは意外とメールや動画で済むものが多いのですが、だからこそ顔を突き合わせて「伝える会議」をするなら、「メンバーを動かすこと」までコミットすることが大切です。

「決定事項を伝えること」は、次のアクションまでの1ステップにすぎません。それを聞いた社員が、「このプロジェクトならやってみたいな」「この会社の方針変更に伴い、自分は何ができるだろう?」と、心を動かされることまで想定して、会議設定や資料作成をしましょう。

 最後に、「つながる会議」。これは、チームビルディング、つまりより良い組織を作るための会議です。そのためには、互いが気兼ねなく本音を言える会議設計が必須です。

 必ずしも会議室で行う必要はありません。必要に応じて個別に時間をとって近況を聞く、もしくはオープンスペースなどで、ざっくばらんに意見交換しても良いかもしれませんね。

セミナーの様子②

会議はもっと「軽く」しよう

── 働き方改革の文脈で、“会議をなくそう”という「会議不要論」も出てきています。

 働き方改革で会議をなくそうという風潮は、僕は間違っていると思います。メールを何往復もしたり、返事を待ったりすることを考えれば、実は会議は一番スピード感のある課題解決ツールです。私がいた当時グーグルは、意外かもしれませんが会議の「数」は多かったんですよ。

 会議をなくすよりも、もっと“気軽に”開けるようにしたら良い。わざわざ会議室に集まらなくても、10分の立ち話でもゴールさえ明確にすれば、質の高いアウトプットが出せるはずです。

セミナーの様子③

片手で持ち運び可能なエプソンのコンパクトプロジェクターなら、オープンスペースやオフィスの壁に資料を映し、どこでも会議室に変えられる。数人で集まる気軽な会議に、重宝しそうだ。「会議室が空いていなくても、壁に資料を投写できれば、どこでもカジュアルに会議が開けますね」とピョートル氏。

── 会議中の生産性を上げるためのポイントや、有効なツールを教えてください。

 僕はGoogle documentなどのクラウドツールを活用しています。会議中に出た意見をそのまま書き込め、議事録にできるので効率的。どうしても会議に参加できない時は、オンラインで会話を聞きながら、リアルタイムで意見を書き込むなどしています。

 また紙の資料は効率を下げるので、配らないこと。ワークショップなら紙があった方がいいこともありますが、議事録もアジェンダもクラウド上にあれば十分です。

 ただ、それだと会議中に全員がパソコンの画面を見ることになり、目線を合わせなくなります。人は顔の表情に敏感な生き物で、顔を見ながら議論することでチームも活性化される。

 そこでよく活用しているのが、プロジェクターやホワイトボード。人の目線を集められるので、重宝しています。

── エプソン製のこのプロジェクターは、ホワイトボードのように書き込め、内容を議事録として保存・シェアできるツールです。こんなツールも、会議の生産性を上げるには有効でしょうか?

 投写するだけでなく書き込めるのは、面白い。たとえば開発中のサービスを投写して、直接改善案を書き込んで議論できれば、分かりやすいですね。

セミナーの様子④

プロジェクターとホワイトボードの一台二役。投写資料へ直接書き込めるほか、書き込んだ内容はデジタルデータとしてすぐに共有できる。

 しかもホワイトボードは、アナログに聞こえて意外に便利。ホワイトボードなら、書式や改行を気にせずに直感的に書き込めるので、議論が進みやすいんです。

 特にブレーンストーミングなどは、複数人が同時にアイディアを書き出していくので、最後のまとめが大変。このツールを使えばそのまま議事録として保存・シェアできるので、生産性が上がりそうです。

セミナーの様子⑤

ホワイトボードの向きを変え、テーブルのような角度に固定し、情報を書き込むことも可能だ。

 こういった、議論しながら書き込めるツールを使うことで、 “本音を言えない”会議から“言える”会議に変えていけるかもしれません。フリースペースに常備してあれば、会議室をわざわざ取らない、気軽に集まる会議の習慣もできそうですね。

 会議は目指すゴールに向かうためのプロセスにおいて、大切な意思決定の場です。組織や個人が最適なアクションを取り続けられるよう、“日本型会議”の罠に陥らないことが、日本企業の競争力向上につながるのではないでしょうか。

(制作:NewsPicks Brand Design、取材・編集:NewsPicks 金井明日香、構成:田村朋美、写真:森カズシゲ、デザイン:小鈴キリカ)

会議をもっと軽くしよう