振動測定(振動値測定)とは?

振動測定とは、構造物や地面がどの程度揺れているかを数値化することです。構造物には道路やビル、トンネル、ダムといった大きく重量のあるものだけでなく、自動車のボディやエンジン、モーター、ポンプなど様々なものがあります。振動測定は様々な分野で活用されています。たとえば、構造物の開発・設計の現場をイメージすると理解しやすいでしょう。振動から構造物の強度や特性を解析することで、より軽くて強い構造を検討し、長く安心して使えるものを作るために実施されています。また、環境における振動の測定も理解しやすい分野です。鉄道や道路、工事現場などの振動は、近隣住民の生活に悪影響を及ぼす可能性があります。そこで振動測定によって数値化し、基準を超える振動が起きていないか確認します。こうした意味で、振動測定は社会にとって、なくてはならない技術だと言えます。

振動測定の目的

振動測定の目的は主に2つあります。

構造物自体の振動を測る

1つ目の目的は、構造物自体が発する振動を測ることです。たとえば、モーターについて考えてみます。モーターの構造上、振動をゼロにすることは難しいです。しかし、振動が大きすぎる場合は設計に問題がある可能性があります。こうした事態を避けるために、シミュレーションと実際の振動測定による評価を重ね、開発・設計を進めていきます。また、振動はそのまま製品の劣化具合を表します。多くの場合、製品が劣化すると振動が大きくなります。そこで、振動の大きさから交換やオーバーホールの時期を検討するために、振動測定が実施されます。

振動を受けて生じる構造物の劣化を分析する

2つ目の目的は、振動による構造物の劣化を分析することです。たとえば、橋梁自体は揺れていませんが、自動車や風の影響を受けて常に振動しています。この揺れが長期間続けば、橋梁の劣化につながります。そこで、振動測定で継続的にデータを記録することで、劣化具合を予測します。また、実際に橋梁のどこかに不具合が生じた場合は、データを過去に遡って確認することで、どの時期に劣化の兆候が表れたのかを確認できます。これが改修や修繕、消耗品の交換の適切なタイミングでの実施につながります。

振動測定器の原理・仕組み

振動測定器の原理・仕組み自体はシンプルです。一般的には振動を検知するセンサーと検知した振動を測定する機器が一体化しています。振動センサーの中には錘(おもり)とバネが入っており、振動を受けた錘の動きを何らかの形で電気信号に変換して、測定器に送信します。揺れや運動を電気信号に変換する仕組みは様々ありますが、力が加わると電気を発する材料を使うのが一般的です。振動の大きさに比例した大きさの電気を発するので、この電気を取り出すことで電気信号に変換できます。この仕組みで作られているものは「圧電型振動センサー」と呼ばれており、昔からあるベーシックなタイプの振動センサーと言えるでしょう。

振動測定器の基本的な仕組み図

どうやって振動測定するのか?振動測定の方法

具体的には、どのように振動を測定するのでしょうか。2つの方法が考えられます。

振動測定器を使って振動を測定する

最も一般的なのは、振動センサーが組み込まれた測定器で測ることです。測定できる振動の大きさや周波数は、測定器の仕様によって異なります。振動の大きさや周波数が予想できる場合は、そのレンジに対応した測定器を選び、予想が難しい場合は、測定器をいくつか用意し、一つ一つ試しながら適切な測定器を選びましょう。また、振動測定器には「接触型」と「非接触型」があります。測定の対象となる構造物の大きさや重さ、形状、温度、構造物までの距離などによって適切な方を選ぶとよいでしょう。

原始的な仕組みを利用して振動を測定する

非常に原始的な仕組みですが、バネと錘、ペンを用いた簡易的な装置で測定することも考えられます。まず、構造物の上に置いた板に枠を立て、その上部から錘を吊るします。そして、その錘の先にペンを付けておき、一定のスピードで送られてくる紙に触れるようにしておきます。構造物が振動すると、装置自体も揺れますが、吊るされた錘は揺れません。この錘は「不動点」と呼ばれ、常に静止した状態を維持しようとします。つまり、構造物が揺れる一方で、錘は止まっていることになります。そのため、錘につけられたペンによって、紙に振動の大きさが波形として記録されます。この仕組みはベーシックな地震計に活用されていました。現在は電気信号によって振動を記録する形式に変わっています。

バネと錘、ペンを用いた簡易的な装置

どんな構造物の振動を測定している?

実社会ではどのようなものの振動を測るために、振動測定が実施されているのでしょうか。

機械設備・装置(ポンプや空調機など)・モーターの振動を測定する

振動測定は、様々な機械設備や装置の揺れを測るために実施されています。測定対象として多いのは、上下水道設備や排水ポンプ、水冷用のポンプなどの水流ポンプです。これらの振動は不具合の兆候となります。人々の生活の安全性や快適性を保つためにも、定期的な測定による不具合の検知は欠かせません。工作機械の分野では、掘削機の歯の摩耗を振動測定によって監視しています。歯の摩耗については掘削中の音で察知することもできますが、振動測定による数値的なデータの方が早く正確に検知できます。その結果、設備自体の維持管理につながるだけでなく、製造した製品の品質維持にもつながります。また、近年では大型の空調機の振動を測りたいというニーズがあります。空調機が大きく振動すると、それに伴って音が大きくなります。振動によって生じた音は空間全体の快適性を損ないます。そこで音の発生源である振動を抑えるために、振動測定を実施して不具合の早期検知に役立てています。

エンジンの振動を測定する

エンジンの振動測定も行われています。たとえば、航空機エンジンの場合、整備・点検中だけでなく、飛行中もリアルタイムで測定されています。自動車のエンジンは開発・設計段階で振動測定が実施されています。これによって、燃費や快適性の向上、車内エンターテインメントといった車内空間が充実されることが考えられます。

振動測定をする理由 | その必要性とメリット

なぜ振動測定する必要があるのでしょうか。具体的なメリットを紹介します。

機械・設備の寿命を縮めるのを防ぐ

まず、機械や設備の維持・管理が挙げられます。機械や設備の不具合には、多くの場合、兆候があります。その小さな兆候を見逃さず、大きなトラブルになるのを避けなければなりません。そこで、振動測定が役立ちます。振動測定によって検知され、素早く適切な処置をすることで、機械や設備を最適なコンディションに保つことができるので、寿命を延ばすことができます。

生産ロスの削減と生産計画の維持

機械や設備の劣化具合については、昔から電流値の変化によって察知する方法が取られてきました。機械には劣化すると消費電力が大きくなる特徴があります。そこで、電流値を測定し、不具合の有無を確認しています。ただ、この方法には欠点があります。電流値は、故障が起きる直前や故障が起きた後でないと変化しません。つまり、事前の察知が難しいため、不具合が突然発生することになります。故障した状態で製造してしまった製品は廃棄するしかなくなり、余計なコストがかかってしまいます。また、復旧するまで生産ラインが止まってしまい、生産計画が狂ってしまうことにもつながります。一方、振動測定であれば、機械や設備に大きな問題が生じる前に異常を検知できます。そのため、生産ロスの削減や生産計画の維持につながります。

不慮の事故を防ぐ

振動測定は事故の防止にも役立ちます。たとえば、橋梁が崩落してしまうと多くの犠牲者が出てしまいます。こうした事故を防ぐために、作業員が日夜、保守点検に努めています。ただ、人間が休むことなく点検作業を続けるのは難しいものです。一方、振動センサーを利用すれば、24時間365日監視を続けることができます。人間が実際に目で見て点検することは非常に重要ですが、目視検査に加えて機器による振動測定を実施すれば、さらに高い確率で事故を防止することができます。

構造体の特性を知り、製品の品質向上を図る

振動測定は、製品の品質向上にも役立てられています。プロジェクターやプリンターを例にしましょう。たとえば、排熱ファンがプロジェクター全体を揺らすことがあれば、投映する画像も一緒に揺れてしまいます。また、プリンター内部の部品の動きから振動が発生すると、印字品質に悪影響を及ぼしかねません。こうした問題を回避するために、設計・開発段階で振動測定を実施すれば、製品の仕組み自体を改善したり、振動の影響を受けにくい強い材料に変更したりできます。これが製品の品質向上につながります。

振動測定するときの注意点

振動測定を実施する際には、いくつか注意したい点があります。

適切な振動の大きさを測れる振動センサーを選ぶ

振動センサーによって、測定できる揺れの大きさが異なります。測定したい構造物の揺れがレンジに入っているものを選びましょう。たとえば、ポンプのように大きなものや、速く回っているモーターは振動が大きくなるので、対象物が何かによって、揺れの大きさをある程度予測できます。どの程度の大きさであるか事前に予想できない場合は、振動センサーをいくつか用意し、対応する可能性の高そうなものから試すとよいです。

測りたい周波数を測れる振動センサーを選ぶ

振動センサーによって、測定できる周波数も異なります。測定したい構造物の周波数がレンジに入っているものを選びましょう。周波数についても、製品の種類によって特徴があるので、周波数をある程度予測して適切なセンサーの見当をつけることができます。ただし、低い周波数の振動を測れる測定器は多くありません。測りたい周波数をしっかり測れる振動センサーであるか注意する必要があります。

「接触型」と「非接触型」の特性を知り、適切な方を選ぶ

振動測定センサーには「接触型」と「非接触型」があります。接触型のセンサーは文字通り、振動する対象物に接触させて振動を測定するものです。小型で安価なものが多い反面、表面が平らでないものや熱を持っているものには使えないことがあります。たとえば、モーターのベアリング部やエンジンのようなものに接触型センサーを使うのは難しいです。接触型センサーは、センサーの重さや大きさに注意しましょう。対象物に接触させるため、センサーの重みで振動を消してしまうことがあります。また、精度の高いセンサーは一般的に大きい傾向がありますが、対象物に対してあまりに大きいと、振動を消してしまうので、適切な重さ、大きさのセンサーを選びましょう。一方、非接触型の振動センサーは構造物にレーザー光を照射し、その光の変化から振動を測定するものです。熱を持ったものや凹凸のあるもの、計測地点から離れたところにあるものも測定できます。ただ、非接触型センサーは対象の構造物と測定器の2点間で振動を測定します。測定器が揺れてしまうと、測定値に誤差が生じます。そのため、対象物と測定器の距離をある程度離し、対象物の振動が伝わらないように気を付けなければなりません。また、センサーや測定器を設置する場所自体が揺れていないことも確認しましょう。

複数の振動源があるときは複数箇所で測定する

橋梁や構造物(ビル・建物など)のように、複数の振動源があるときは、1つの振動センサーでは測定をカバーできないため、複数箇所で振動測定しなければなりません。

エプソンの振動センサーは?その特長、仕組みを解説

エプソンでは橋梁やトンネル、ダム、水門、ビル、清掃工場、風車発電といった社会インフラ、大型モーターをはじめとする機械装置類を対象とした振動測定器を開発・販売しています。ダムや水門の振動測定にあたっては、国交省が2018年に制定した「ダム用及び河川用水門設備状態監視ガイドライン」に準拠しているので、ユーザーが自分で閾値を設定する必要はありません。エプソンの振動センサーの特長は、これまで難しかった微細でゆっくりした揺れを「誰でも」「簡単に」「高精度で」測定できることです。1Hz~100Hzといった低周波数の振動を検知できます。これを実現するために、開発したのが水晶を素材にした独自の振動センサーです。水晶は単結晶で他の物質と反応しづらく化学的に安定しているだけでなく、振動の温度安定性が高いので周波数デバイスやセンサーに向いています。また、エプソンの振動センサーはアナログ回路を極限まで排除した、周波数デジタル計測IPを採用しています。一般的な振動センサーは、1軸ごとにアンプ、フィルター、積分回路を用意してアナログ信号で出力、A/Dコンバータでデジタル信号に変換してからPCに入力しなければなりません。一方、エプソンの振動センサーはコンパクトでありながら3軸(X、Y、Z)を搭載。組み込まれた周波数カウンター、フィルター補償、演算処理を経て直接デジタル信号で出力します。そのため、周辺機器をあらたに用意せず、すぐにPCや解析システムに接続して測定できるのが魅力です。