LABEL MAGAZINE

INTERVIEW 桜美林大学・向坂文宏専任講師に聞く 思わず手に取りたくなるラベルデザインとは?

商品にとってラベルは自己紹介であり、購買者に商品を選ぶ基準を与える大切なプロモーション・ツールを担っています。現代では手軽でコンパクトなカラーラベルプリンターの登場によって、誰でも簡単に、高品質な商品ラベルを作れる時代になりました。

販売するうえで鍵となるのが、キャッチコピーやラベルのデザイン。店頭で消費者が思わず手にとってしまうようなコピーやデザインを生み出すには、どうしたらいいのでしょうか? 店頭プロモーション・ツールのトレンドは?今回はそうした疑問を解消するために「店頭プロモーションのプロ」と言われる人物を訪ねました。

お話をお聞きした向坂文宏さんは、印刷会社やプロモーション会社勤務時代にラベルやPOP、什器など多種多様で膨大な店頭販売ツールの企画、制作を経験。日本POP広告協会主催のアワード受賞歴もある、店頭プロモーション界の第一人者です。現在は販売の現場で得てきた知見をもとにストア・コミュニケーション・プランナーとして活動しながら、桜美林大学でビジュアル・アーツ分野の教鞭を執られています。向坂さんの経験によれば、たとえ専門知識や絵心がなくても、消費者を惹き付けるラベルデザインは作ることができるそうです。

使う人のメリットは何かを直接的に訴求

ーーPOPやポスター、什器など数多くの店頭販売ツールがある中で、商品ラベルに求められる役割とは何でしょうか?

向坂さん 現代ではメーカーによるマス広告も、パンフレットやポスターといった店頭販売ツール、テレビCMといった昔ながらの方法に加え、インターネットを利用したプロモーションが当たり前になるなど、手法が多様化してきています。また最近では、店舗独自の個性的なPOPも注目されており、従来とは異なる動きも出てきました。

そうした変わりゆく状況の中にあっても、ラベルは商品の見た目を決め、特徴を説明するデザインの起点であると同時に、消費者が商品をレジに運ぶ、最後のプロセスまで追っていける重要な販売ツールであるという事実は変わりません。ただ、かつては店頭に行くことでしか手に入らなかった商品の情報が、現在はウェブサイトなどを通して簡単に知ることができ、購買先も店頭とは限らなくなってきました。購買行動の入口と出口が昔とは違っているのです。店頭で商品を見てからネットで購入する「ショールーミング」、その逆に商品をネットで見てから店舗で買う「ウェブルーミング」といった新しい購買行動を意識しながら、かつ購入層や商品性、店舗の特性などに応じたラベルデザインが求められています。

ーー消費者が思わず手にとってしまうようなラベルデザイン、店頭プロモーションは、どのような発想から生まれるのでしょうか?

向坂さん それは「買い物客視点を突き詰める」ということに尽きる、と私は考えています。言葉で説明しても分かりにくいので、具体例を挙げましょう。近年、大成功した事例として、エアコンの「10年お手入れ不要!」というキャッチコピーがありました。これはフィルター自動装置機能をもったエアコンの宣伝文句なのですが、同じ機能をもった製品は以前にも出ていたんですね。ところが、このコピーを用いたプロモーションを行うようになってから、爆発的にヒットした。なぜかというと、エアコンを買う際の決定権を持っているのが、奥様だったからです。

消費者は「フィルター自動装置機能付き」という文字を見ただけでは、ベネフィット(利益)をイメージしにくい。しかし「10年お手入れ不要!」となれば、日頃からフィルターの掃除が面倒だと感じていた奥様が「買い替えてもいいかも」という発想になるというわけです。

購買にいたるストーリーを想像しながらデザインする

ーー商品を売る側が「買い物客視点を身に付ける」にはどうしたら良いのでしょう?

向坂さん すべては消費者の購買行動をよく観察することから始まります。自社の商品をどんな客層が買っているのか、どのようなデザインを好み、どうしたら手に取ってくれるのか、どうような動線を通って購入にいたっているのか等を観察し、分析することが大切。消費者が買い物するときの流れ、ストーリーを思い浮かべるのがポイントです。

また商品棚にあるのは一つの商品だけではありませんから、店舗全体の中での存在感をふまえてデザインすることも重要でしょう。最適なラベルデザイン、コピーは店舗を訪れる客層によっても変わりますので、メーカーによるマス広告がベストというわけではありません。今、消費者と最も近い距離にいる販売員自身が行う店頭プロモーションが注目されているのは、そこに理由があるのです。最近、ホームセンターなどでは台風が接近すると、すぐにレインブーツを店先に並べ「台風接近中」といったPOPを掲げる店が少なくありません。周辺で行われるイベントや季節、天候など「今」起きている事象にタイミングをぴったりあわせたプロモーションを素早く行えるのも、地域密着型店舗ならではのメリットですね。

使えるものは何でも使うチャレンジ精神が大切

ーープロモーションが本業でない販売員や小規模メーカーの事業主、社員にとって、ラベルなどのデザインを考えるのはハードルが高い、と感じているかもしれません。

向坂さん 必ずしも見た目に美しいデザインが、消費者の購買行動を引き寄せるとは限りません。むしろ大切なのは、メッセージ性。誰に向けて発信しているのか、どんなニーズを掘り起こそうとしているのかを明確にすることです。これは企画力と言うこともできるでしょう。

ただ、販売員にとっての本業はあくまで営業ですから、ラベルなどの制作に多くの時間を費やしてしまっては本末転倒ですよね。そのためにも、ラベル・プリンターなどの便利な機器はどんどん活用すべきだと思います。即時性、地域性のあるプロモーションを展開する上でも、そうしたデバイスを活用することは大いにメリットがあります。

消費者に「自分ごと」と感じてもらうことが、店頭プロモーションにおける最終到達地点、と語る向坂さん。商品ラベルを見た瞬間、自分に向けたメッセージなのだ、と感じてもらえたら大成功ということでしょう。効果を肌で感じ、必要とあらばすぐにデザインやプロモーション施策を変更できるのも、小回りの利く販売店ならではの強み。顧客のニーズを深く考えた上で、まずは販売を伸ばすアイデアを形にしてみませんか

向坂 文宏
大手印刷会社、広告代理店にて20年間、家電/自動車/日用雑貨/化粧品/医薬品業界などメーカーを主なクライアントとして、多くの店頭コミュニケーション施策の企画・実施を行う。2016年より現職。現在は、ストア・コミュニケーション・プランナーとして講演活動やコンサルティングを行いつつ、POP研究家として店頭ツールの事例研究を行っている。月刊販促会議にて最新店頭ツールのレポートを連載中。
日本プロモーショナル・マーケティング協会参与。相模女子大学非常勤講師。プロモーショナル・マーケター。VMDインストラクター。

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