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サプライヤーエンゲージメントとは? 企業に求められる対応も解説
脱炭素経営においては、自社の取り組みだけでなく、取引先や調達先を含めた温室効果ガス(GHG)削減に取り組むことが重要です。環境に対する企業の取り組みを評価する国際NGOのCDPは、企業が気候変動などの課題に対してどのように効果的にサプライヤーと協働しているかを評価する「サプライヤーエンゲージメント評価」を行っています。
この記事では、「サプライヤーエンゲージメント」とは何か、企業にどのような対応が求められているのかについて解説します。

サプライヤーエンゲージメントとは

サプライヤーエンゲージメントとは

サプライヤーエンゲージメントとは、直訳すると「調達先との対話」。つまり、企業が調達先(サプライヤー)などと一緒に、温室効果ガス(GHG)排出量の削減といった気候変動対策などについてのコミュニケーションを深めることをさします。
なぜ、自社による排出削減の取り組みだけでなく、調達先との取り組みが重視されるのでしょうか。
そもそも、GHG排出量は、原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など、一連の流れ全体から発生しています。そのため、事業活動によるGHG排出量を効果的に削減するには、自社による排出削減の取り組みだけでなく、製品の原材料などを供給する調達先や取引先とともに取り組みを進めることが大切なのです。
こうした考え方に基づき、GHG排出量の報告・算定に関する国際的な枠組みである「GHGプロトコル」では、自社による直接的な排出だけでなく、事業に伴う間接的な排出を合計したものを「サプライチェーン排出量」として、報告・算定の対象に含めています。

英国を拠点とする国際NGOのCDPは、気候変動など環境に対する企業や各種団体の取り組みをGHGプロトコルに基づいて評価し、レポートとして毎年公表しています。CDPのレポートは、主要国の時価総額上位の大手企業を対象にしています。そのため、情報開示を通じて、投資家や政策決定者などが環境への影響を考慮した意思決定を行うように期待されているのです。
CDPは2016年から、企業が気候変動などの課題に対してどのように効果的にサプライヤーと協働しているかを評価する「サプライヤーエンゲージメント評価」を始めています。調達先との排出削減に関する取り組みを評価することで、サプライチェーン全体の排出削減を促しています。
サプライヤーエンゲージメント評価で最高評価を獲得した企業は「サプライヤー・エンゲージメント・リーダー」に選定されます。2023年度は、評価対象となった企業の上位2%がサプライヤー・エンゲージメント・リーダーに選定されました。世界で458社が選定され、そのうち日本企業は109社でした。

サプライヤーエンゲージメントが注目される背景

しかし、現在、調達先を含めた排出削減は十分に進んでいるとは言えません。CDPによると、2023年はCDP気候変動質問書に回答した企業のうち、サプライヤーと排出削減や気候変動戦略についてエンゲージメントしていると回答したのは38%だったといいます。
つまり、約6割の回答企業は、調達先との間で排出削減に関して具体的な約束ができていないということになります。
前述の通り、GHG排出量を効果的に削減するには、自社の事業活動だけでなく、調達先も含めた排出削減に取り組むことが重要です。排出削減の取り組みをサプライチェーン全体に拡大して気候変動対策を進めるために、サプライヤーエンゲージメントの重要性が高まっているのです。
調達先に対して排出削減を求めた事例として代表的なものは、2022年10月にAppleが「グローバルサプライチェーンに対して2030年までに脱炭素化することを要請する」と発表したことでしょう。同社は、主要な製造パートナーに対して、Apple関連商品の生産を再生可能エネルギー100%の電気で行うなどの脱炭素化を求め、毎年評価を行うと公表しました。

サプライヤーエンゲージメントが注目される背景

国内でも、東京海上ホールディングスが2023年9月に「脱炭素社会の実現に向けたお客様との対話(エンゲージメント)に関する目標」を設定し、大口顧客200社との対話を通じて脱炭素化を支援することなどを掲げています。
他にも、イオンは、プライベートブランドの製造委託先と気候変動対策に関するコミュニケーションを深めるとしています。

企業に求められる対応

こうした国内外の動向から、あらゆる企業に対してサプライチェーン全体でのGHG削減に向けた取り組みが求められるようになると考えられます。自社の事業活動によるGHG排出量の削減に取り組むことはもちろん、原材料の調達先などに対しても排出削減に向けた取り組みを促すことが重視されます。
そのため前提として、自社の事業活動によるGHG排出量を正しく把握することが調達側・調達先どちらにとっても欠かせません。GHGプロトコルに基づいて、自社の直接排出量であるスコープ1、自社の間接排出量であるスコープ2の算定・報告を行った上で、自社以外の排出量であるスコープ3の算定にも取り組むことが求められます。

出典:環境省
出典:環境省

調達側となる大手企業の場合、自社以外の排出量の算定・削減には、適切な対話やコミュニケーション(=エンゲージメント)が必要です。自社の方向性を確立し、ガイドラインなどを作成した上で、調達先に対し説明会を行うなどの働きかけが重要になるでしょう。
一方で調達先となる多くの中小・中堅企業の場合は、現在取引先から排出量削減などの対応を求められている状況にある、もしくは今後求められることは間違いありません。サプライチェーンの大部分を占める調達先の取り組みは、大きな意味を持つことになります。
自社の排出量の把握は最低限として、環境負荷の低い原料・部品の取り扱いや、脱炭素事業を進めていくことが期待されています。それによって、失注のリスクを軽減し、既存の取引先との関係を継続・拡大し、新規顧客獲得にもつなげることができるでしょう。

サプライヤーエンゲージメントの取り組みは持続可能性を高める

サプライチェーン全体でのGHG排出量を算定・報告することは、多くの手間やコストが伴います。しかし、GHG削減に取り組むことで、次のようなメリットが期待できます。
GHG排出削減に積極的な企業であるという姿勢を対外的に示すことで、投資家や消費者に対して広くアピールすることができ、企業のブランディングに役立つだけでなく、環境・社会・ガバナンスを重視するESG投資の対象になるなど、新たな資金調達の機会につながります。また、環境に関する規制に先回りして対応することで、規制リスクなどを回避できるでしょう。
世界的に気候変動対策の重要性が高まっている今、サプライヤーエンゲージメントに取り組むことは、企業価値を高めることにつながるでしょう。それによって、事業活動に関連するリスクを回避し、持続可能性を向上させることも期待できます。GHG削減は一部の大手企業だけに求められているのではなく、中小・中堅企業も含めたあらゆる企業に必須の取り組みになっています。

サプライヤーエンゲージメントの取り組みは持続可能性を高める

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