2019年・第2期(第23回公募選考会)選考委員評

選考の様子

選考会の様子

選考委員
上田 義彦
(写真家 多摩美術大学グラフィックデザイン学科教授)
速水 惟広
(T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO(東京国際写真祭)ファウンダー)

2020年4月~2020年10月までの期間にエプサイトギャラリーにて写真展を開催する作品を選出する公募選考会を行い、5組の出展者を決定しました。選出された作品と選考委員のコメントは以下のとおりです。
また、今後応募を希望される方へ選考委員からのアドバイスを掲載していますので、こちらもご覧ください。

選出作品(50音順)

新井 隆弘 「END」

新井 隆弘「END」

[プロフィール]
新井 隆弘 (Takahiro Arai)
1972年 埼玉県生まれ。
小学生の頃、星に興味を持ち、より淡い星を捉えるために写真撮影をおこなう。
その後 、大阪芸術大学 芸術学部写真学科に4年間在籍した後に中退
1995年 ロングアイランド大学サマーワークショップに参加
2019年 京都国際写真祭インターナショナル・ポートフォリオレビュー ファイナリスト
http://sitearai.org

【上田 評】
タイトルどおり「END」、行き止まりの場所を集めた作品。こうした写真は、ともすると行き止まりの場所をコレクターのように集めただけのものになってしまいがちだが、本作は1枚1枚の写真がしっかりと丁寧に撮られていて、まるでその場に立っているかのような臨場感さえ感じられる作品に昇華されている。加えて、撮っているのは“ありがちな日常の風景”のはずだが、本作からは既視感といったものがほとんど感じられず、新鮮な印象を受ける。この点は、作者の“狙い”や“目の付け所”の良さによるものだと思う。
【速水 評】
多くの写真に“行き止まり”の標識が写り込み、「END」であることを象徴している。組写真では、こうした標識や看板は目障りなものになりがちだ。しかし、この作品では、そうした邪魔な印象がなく、それぞれの写真のアクセントとして上手く機能している。これは、1枚1枚の写真の完成度の高さだけでなく、トータルでのバランスのよさに起因しているものだと思う。展示では、主要な写真をできるだけ大きくプリントしてメリハリを付けつつ、多くの写真を見せるブックの活用なども検討すると面白いのではないだろうか。

佐藤 友昭 「時の記憶」

佐藤 友昭「時の記憶」

[プロフィール]
佐藤 友昭(Tomoaki Sato)
福島県出身 東京在住
日本大学卒業後、写真事務所を経て独立。
2017年 個展 「3776 神奈備」 (リコーイメジングスクエア新宿)
http://satoutomoaki.com

【上田 評】
本作は既視感のない新鮮な写真、作者のオリジナルな写真が数多く存在している点を評価した。そうした写真を今一度厳選して核となる写真を見つけそれを軸に展示すると、より印象的な展示にできるはずだ。なかには既視感の強い写真もあるが、これはおそらく、他者の作品などを見て影響されたもの。オリジナルな作品を生み出すには、あえて他者の作品とは距離を置き、自らのテーマなどを見つめ直して撮り、選ぶことも大切だ。展示では無理にたくさん見せようとせず、他者に影響されながらもオリジナルを目指す、あるいはそうした写真を選び出すことを目指したい。
【速水 評】
現代は、巷に風景写真が数多く溢れている。しかも、カメラ性能の高度化で、だれでも失敗なく風景撮影を楽しめる時代だ。そうしたなかで、作品として“新しい風景写真”を生み出すのは難しく、多くの人が撮っているために評価もされるのも難しい。今回の応募作品を見ると、作者は1枚1枚丁寧に撮影していて、スタンダードなものから、オリジナル性の高いものまで撮れる実力のある方だと感じた。作品中には、目を見張るべき“新しい風景写真”も含まれている。ぜひ、それらを抽出し、メリハリの効いた展示に仕上げてほしい。

関根大樹 「Wandering Nature」

関根大樹「Wandering Nature」

[プロフィール]
関根 大樹 (Daiju Sekine)
1982年 東京都生まれ。早稲田大学第一文学部 卒業。夜の写真学校 28期修了。
2015年 個展「このようにして無限に進む」(Place M/東京)
2017年 清里フォトアートミュージアム「ヤング・ポートフォリオ」作品収蔵
2018年 個展「反遠近法 <contra-perspective>」(銀座ニコンサロン・大阪ニコンサロン/東京・大阪)
https://skenographia.net/

【上田 評】
都市に存在する様々な“壁面”などを捉えた作品。建物の持つ物語性等は引き出さず、客観的、即物的な視点で撮っているからこその面白さがある。作者は、立ち並んでいた家の1つがなくなったことで見えた壁面など、何かがなくなったことで見えるモノに惹かれているようだが、故意になくなったものと自然となくなったものの2種があり、見るものを飽きさせない。しかも、クリアにカットされた断面を思わせるほど大胆に画面や被写体が構成され、快感さえ感じる。その“クリアカット”な印象を引き出すプリントや展示を期待する。
【速水 評】
斬新な視点で“不思議の国”といった印象の漂う作品だ。一般に日常のなかでこうした壁面などに出会うことはあっても、撮影してそれだけを集めることはしないはず。だが、それを実行することで、写真ならではの世界観を作り出し、ユニークな視点を得ている。加えて、モノ(壁面など)をモノとして捉え、スナップとは違う独特の指向性を示している点が面白い。日本で撮っていながら、ドメスティックな印象は薄く、作者は世界のどこへ行っても同じ視点で作品を撮り続けることができるのではないだろうか。そうした作品も見てみたい。

和田 剛一 「路傍の石たちの肖像」

和田 剛一「路傍の石たちの肖像」

[プロフィール]
和田剛一(Goichi Wada)
1948年 高知県生まれ。
野鳥の生活感ある姿をもとめて、全国を巡って撮影を続けてきたが
2007年 高知の山奥にアトリエを建て、撮影の重点を四国に移す。
ミラーレスカメラの機能を生かしながら、生き物たちの生息環境に留意しながらの撮影を続けている。

【上田 評】
四国の森や川、海に限定して撮影しているとのことだが、鳥やイノシシなどの動物、水中の魚たちにまで視野を広げ、非常に幅広く丁寧に撮られた力作。感性が若く、フレッシュさの感じられる作品だ。作者が被写体に対して感じた「かわいい」「愛おしい」といった気持ちが1枚1枚の写真に素直に反映されている点に引き込まれる。被写体の様子や動き、場合によっては生態などをずっと観察していないと撮れない写真であり、それを数多く撮り集めるのは、多くの時間と労力が必要だっただろうと思う。
【速水 評】
本作は生き物やシチュエーションの種類が豊富で写真点数も多く、ずっと見ていたくなる素晴らしい作品だ。撮影にかなりの時間と労力がかけられているのも伝わってくる。それだけに、同じサイズのプリントで壁面を埋め尽くすような、圧倒的なボリューム感を見せる展示が似合っていると思う。そうすることで、多種多様な生き物たちを愛情たっぷりに撮っている作者の姿勢や、生き物たちのかわいらしさなどをストレートに伝えられる。プリントは生き物たちの表情などを際立たせるなら、少しナチュラルな仕上がりがおすすめ。

王 華 「Box Of Dreams」

王 華「Box Of Dreams」

[プロフィール]
王 華 (Hua Wang)
2013年 渡伊
2017年 多摩美術大学美術研究科博士前期課程修了
2017年 キヤノン写真新世紀にて佳作受賞
huawang.format.com

【上田 評】
自作のピンホールカメラを使って撮り進めた作品。カラーとモノクロが混在しているのが新鮮で、カメラや色彩の有無を上手く使って自らの“記憶”を写真に閉じ込めている。ずっと見ていたいと思わせる力のある作品であり、プリントが大きければその迫力とディテールを、小さければ覗き込んで見る楽しさや視覚的な美しさを味わえると思う。そうした変化を明確に付けながら展示することで、この作品の良さが際立って行くはずだ。作者は非常に力を持った作家であり、今後もこの方向性で撮り続けて行ってもらいたい。
【速水 評】
自身の記憶を感覚的にとらえ、それをピンホールカメラを活用して表現しようと試行錯誤している様子が伝わってくる作品だ。体感的で短時間に薄れて行くような記憶や感覚を、どうにかして視覚化しようと注力する行為は身体的であり、新鮮味を感じた。ピンホールカメラを使うという手法はもちろん、タイトルの「Box Of Dreams」は、まさに“写真とは何か”といったプリミティブなテーマに根差していると思われ、それぞれの写真はもちろん、全体として優れた作品にまとまっている。どのような展示になるかが楽しみだ。

選考委員総評

  • 上田前回同様に全体としてとても質の高い作品が集まってきていると感じました。しかも、少数のジャンルに偏ることもなく、さまざまなジャンルの作品が集まってきていて、それぞれに写真としての訴求力がある。この点は、この公募の1つの特徴であり、魅力にもなっていると思います。選者である私たちも、さまざまなジャンルの写真をピックアップしたいと考えている面があり、今回もネイチャーやスナップ、ファインアートなど、多岐に渡る作品を選びました。ただ、単に多ジャンルの作品を選んでいるのではなく、その根本には写真としての“力”や“喜び”が感じられるものが選ばれているはずです。
  • 速水選出したものだけを見ても、ネイチャー、ランドスケープ、ファインアートなど、さまざまなジャンルの作品が集まっています。ジャンルを限らず、特に方向性も定めていない公募なので、各作品を並列で比較するのは難しいのですが、そうしたなかでも本当に良い作品、例えば、同じネイチャーフォトでも見ていて喜びの感じられるような作品や、ランドスケープでも見たことのない風景に出会えたものなど、枠にはまらない“ありきたりではない作品”が選ばれていると思います。

選考委員からのアドバイス

  • 上田素直に撮り、作られた作品に好感を持ちます。そうした写真は、結果的に既視感のあるものであったりとか、狙いすぎたもの、ジャンルにこだわりすぎたものなどが排除され、撮影者の写真が好きな気持ちであったり、撮ったときの驚きや喜びといったものが、見ていても感じられる、訴求力の高い作品になると思います。加えて、写真をセレクトする力も重要です。何に向かって写真をセレクトするのかを考えながら、厳選してみてほしいと思います。
  • 速水上田先生のアドバイスに加え、展示における作品の写真点数は、数多くの写真で壁面などを埋め尽くすのが向くものもありますが、そうしたものは例外的で、少し点数を絞ったほうが良いケースが多いと思います。無理に点数を増やすと、労力がかかり達成感はあると思いますが、作品全体の濃度が薄まっているように感じられることも少なくありません。展示するサイズなども考慮して、最適な点数での応募、展示が好ましいと思います。