写真展の鍵はプリントにあり!
3ステップで学ぶ展示のためのプリントづくり
3ステップで学ぶ展示のためのプリントづくり

写真展の鍵はプリントにあり!
写真展は、SNSで写真をスクロールして見るのとは異なり、「作品を体験する場」です。質感や階調、空気感は、紙に定着したプリントだからこそ豊かに伝わります。さらに、サイズや用紙、仕上げによって写真の印象は大きく変わります。こうした要素を通じて作家の意図が表現されるのは、展示ならではの魅力です。
ここでは、渋谷ヒカリエで開催された『PRINTING×CREATORS』展での写真家・藤原嘉騎さんの作品制作の事例をもとに、展示プリント制作の3つのステップをご紹介します。
『PRINTING×CREATORS』は、2025年11月13日から15日まで、渋谷ヒカリエ8/COURTで開催された写真展です。「不確かなものを形にする」をテーマに写真家の藤原嘉騎氏と渡部さとる氏の2人が作品を展示しました。
『PRINTING×CREATORS』展覧会情報
写真展準備の最初のステップは、展示会場の下見です。現場で展示条件を確認し、展示点数や作品サイズ、並べ方を検討します。
これらを把握し、作品がもっとも印象的に見える展示構成を考えていきます。
入口から出口までの流れを意識して作品順を組み立てると、写真集をめくるように一枚一枚の作品をじっくり味わえる展示に。さらに、途中にサイズの異なるプリントを挟むと、空間に心地よいリズムも生まれます。
展示全体にリズムが生まれ、壁面全体で世界観を伝えやすくなります。一方で組み合わせの選択肢が多いため、全体のバランスを見極めて構成することが重要です。
異なるテーマが混在する場合は、あらかじめサイズと組み合わせ方のルールを決めておくと統一感を出しやすくなります。縦横比やプリントサイズを揃えて構成することで、全体がすっきりとまとまります。
『PRINTING×CREATORS』展での藤原嘉騎さんの作品は、内容に合わせて2パターンのサイズで構成されています。雄大な自然風景は、B1~B0の大判サイズを採用し、臨場感を際立たせています。
一方、静謐な印象の作品はA4サイズで仕上げ、広いマットで余白を強調することで、視線を作品に集中させています。
作品を飾る高さは、鑑賞者の目線の高さに合わせるのが基本です。作品の中心点を床から約145cmに設定すると、多くの人の目線をカバーでき、見やすくなります。中心点を145cmより低くすると親しみやすい印象に、高くすると崇高な印象になります。
写真展では、モニターで見るのと異なり、「紙」そのものも作品の一部として鑑賞されます。インクジェット専用紙には多様な種類があり、それぞれに質感や発色の特性があります。
用紙の素材によって、色の再現性や階調表現、光沢感が異なります。
光沢紙は色再現に優れ、階調も豊か。ツヤと透明感があり、鮮やかな色表現が可能です。
半光沢紙はほどよい光沢感と発色を保ちながら、映り込みが少なく、しっとりとした仕上がりになります。
マット系の紙は光沢紙に比べると色の再現域が狭いものの、落ち着いた雰囲気に仕上がります。また、凹凸のある画材調のマット紙は質感表現に優れています。
用紙の「白」にはさまざまな種類があります。青みの強い紙は、コントラストが高く冴えた印象に、黄みを帯びた紙は、やわらかくあたたかみのある仕上がりとなります。
特にモノクロ写真では、紙白が作品の印象を大きく左右します。
『PRINTING×CREATORS』展の藤原嘉騎さんの作品では、内容と作品サイズに合わせ、2つの用紙を使い分けました。
B1サイズ以上の大判作品では色の再現性が重視されましたが、光沢紙は反射が強く映り込みが気になることも。そこで、重厚感と繊細な質感を兼ね備え、色再現にも優れるバライタ紙が採用されました。
A4サイズの作品は、落ち着いた雰囲気に仕上げるため、マット紙が選ばれました。今回使用したハーネミューレ「トーション」は、大きなテクスチャーで絵画的な仕上がりが特長で、青の再現性が高い点も採用の決め手となりました。
展示では、プリントは壁に設置された状態で鑑賞されます。
そのため、用紙はテーブルに平置きしたまま確認するのではなく、壁に貼る、または手に持って縦向きで確認するのがおすすめです。平置きと縦向きでは光の当たり方が異なり、テクスチャーや紙の質感の見え方が大きく変わります。
展示用プリントを仕上げる際には、3つのポイントを意識します。
調整を始める前に、まずは本番と同じ用紙でテストプリントをします。サイズは小さくても作品全体が収まるサイズで出力し、明るさや色など全体の印象を確認します。
展示がA2サイズ以上の大判となる場合は、画像を拡大し、主題部分を原寸サイズでプリントして確認します。モニター上では分かりにくいピントや階調の状態を予め実際のプリントサイズでチェックすることが重要です。
調整は、不要な要素の除去から始めます(トリミングや埃の除去)。次に明るさを整え、シャドーは黒つぶれに注意し、ハイライトは白とびやにごりが出ないように調整します。その後、コントラストや色合いを調整し、必要に応じて部分補正を加えます。本番サイズがテストプリントより大きくなる場合は、仕上げに明るさをわずかに暗めにすると引き締まった印象になります。
写真展では複数作品を展示するため、1点ごとの仕上げよりも全体のトーンを揃えることが重要です。統一感を意識することで、展示全体がまとまりのある印象になります。
『PRINTING×CREATORS』展の展示プリント制作では、まずすべての作品をA4サイズでテストプリントし、階調や全体のトーンを確認しました。
さらに、B1サイズ以上の大判作品については、主題部分を原寸サイズでプリントし、ピントの状態などをチェックしました。
テストプリントの結果を踏まえ、必要箇所を調整し、本番サイズでのプリントを行いました。
マット系のアート紙を使用する際には、紙の繊維が粉状(紙粉)になって剥がれる場合があるため、静電除去ブラシで用紙の表面を払ってからプリント作業を行います。
本番サイズでのプリントの際には、手袋を着用し、用紙に指紋や汚れが付着しないよう注意しました。
プリンターには顔料インクと染料インクがありますが、顔料インクは色の安定が早く、作業効率に優れているほか、環境光による色の見え方の変化が少ないという特長があります。そのため、展示環境下でも作品の印象が変わりにくく、展示用プリントの制作に適しています。
顔料インクと染料インクの違いについて詳しくはこちら
今回の展示の感想や、展示とSNSの違い、プリント用紙の選び方などについて写真家・藤原嘉騎氏に伺いました。