01ポートレート撮影のポイント
ソニーα7RIII FE 135mm F1.8 GM マニュアル露出 F1.8 1/125秒 ISO400 RAW
撮影ポイント1
[光の使い方を意識する]
女性ポートレートを撮影するときに注意しているポイントは何ですか?
魚住:まず、光の使い方がポイントになります。上の写真では光が透ける素材の白いワンピースを着ていますが、普通に屋外で撮ると「白とび」してしまう可能性が高く、素材の質感を表現しにくくなります。そこで、モデルに建物の開口部(出入口)付近に立ってもらい「逆光+サイド光」の状態で屋内から撮っています。これにより、立体感のある写りになり、光が透ける感じを美しく再現できました。ただし、背景は露出オーバーになるので、緑の植栽を適度に入れるようにしています。加えて、背景は水平・垂直を正しく合わせて構図のバランスを整えています。
ソニーα7RIII Planar T* FE 50mm F1.4 ZA マニュアル露出 F1.4 1/125秒 ISO800 RAW
撮影ポイント2
[ピントの位置をシビアに合わせる]
ポートレート撮影での機材の選び方にポイントはありますか?
魚住:特にレンズの選び方は、重要なポイントです。上の写真は、50㎜ F1.4のレンズを絞り開放で撮っていますが、バストアップで撮っていることもあり、ピントの合う範囲がかなり浅くなってしまいます。ポートレートのピント位置は、まつ毛の根本に合わせるのが基本ですが、「瞳AF」などのオートフォーカスでピント合わせしても、わずかにずれてしまう場合があります。オートフォーカス後に手動でピントの微調整が行える機能を使って、ピントをより正確に合わせるようにします。レンズの焦点距離に関しては、ボケ描写を狙うなら50㎜から135㎜程度の大口径単焦点レンズをおすすめします。特に高性能タイプなら、絞り開放で美しいボケ描写が期待できます。
02ポートレートの画像レタッチのコツ
レタッチポイント1
[白とびを調整して質の高いデータを作る]
撮影後の画像レタッチはどのような点に注意していますか?
魚住:ポートレートの画像レタッチは、肌荒れやシミなどの修整や、場合によっては人物のフォルムの修整なども行うこともあります。ただ、その前段階であるRAW現像時に、明るさや色味を最適な状態に調整するのが一番のポイントです。これはプリントの仕上がりに大きく影響するので注意していただきたいです。
Adobe® Photoshop® CCに付属の「Camera Raw」でのRAW現像画面。ここでは主に、撮影時に「白とび」してしまった画像右側の部分を補正するために「ハイライト」「白レベル」「周辺光量」を調整した。全体のトーンと白とび警告を見ながら自分の好みの雰囲気になるよう調整していく。
「ハイライト」「白レベル」「周辺光量」に加え、「露光量」や「コントラスト」なども調整し、人物と背景の明るさなどのバランス調整も行っている。
レタッチポイント2
[色味を調整して画像を仕上げる]
魚住:色味に関しては、HSL調整の色相「オレンジ」をコントロールすることで、肌の色の印象が大きく変化します。マイナスにすると日焼けしたかのような効果、プラスにすると、いわゆる“美白”効果が得られます。肌のシミなどもオレンジ色の要素が強いので、プラスにすれば細かいシミが目立たなくなる効果もあります。
「Camera Raw」のHSL調整の色相設定画面。レッド、オレンジ、イエローなど、色ごとに調整できるが、人物ではオレンジの効果が大きい。
日焼け風から美白風まで効果が得られるが、適度にプラスにすることで透明感のある肌に仕上げられる。また「覆い焼きツール」で眼の白目部分をクリアにしている。
03ポートレートに適した用紙選び&
プリントのポイント
[紙による仕上がりの差を実感してほしい]
ポートレートにおすすめの用紙はありますか?
魚住:用紙を選ぶというと、マニアックな印象や、用紙自体が高価といった印象を持っている人が多いと思います。しかし、実際に試してみると同じ写真でも仕上がりが変わって面白いと思います。とはいえ、様々な紙を使ってみるというのは、費用がかかってしまいます。
そこでおすすめな商品が、エプソンから販売中の「ファインアート紙バラエティパック」(在庫がなくなり次第、販売終了となります)です。このパックは、メーカーの異なる7種類(A4サイズの場合)の用紙を試すことができます。高級感のあるピクトラン「局紙」や、アワガミファクトリー・伊勢和紙などの和紙は、独特の風合いが楽しめます。
この中でもポートレートでは、ILFORD「サテンフォト」とピクトリコプロ「ソフトグロスペーパー」が使いやすいと思います。
7種の用紙の中でも、この写真には、ILFORD「サテンフォト」がマッチした。
用紙の白地が比較的ニュートラルな白色なので、白いワンピースに合っている。
魚住:写真は見る環境によってその印象を変えていきます。例えば、記念写真などを人にプレゼントする場合は細かい部分まではっきり見える光沢紙が喜ばれますし、ギャラリーなどで展示する場合は、どちらかというと光が反射しにくい用紙のほうが見やすいと思います。被写体に合わせて用紙の表面の質感や紙白までこだわることで、写真の最終形はプリントだということが実感できると思います。
ILFORD 「サテンフォト」はきめ細やかな質感の半光沢紙で、ポートレートとの相性は抜群です。
[紙白の違いによって受ける印象が変わる]
魚住:プリント作品に仕上げる場合は、どのような用紙を使うかを意識して画像調整を行います。なかでも変化が大きいのが、用紙の地色である「紙白」です。プリンターの特性として紙白よりも白い色は再現できず、視覚的にも紙白の影響を受けます。そのため黄味の強い用紙であれば、テストプリントを見ながら、レタッチでわずかに黄味を弱めるといった調整が必要な場合があります。
左がピクトリコプロ「ソフトグロスペーパー」、右がピクトラン「局紙」
同じ画像をモノクロに仕上げてプリントしてみた。画像をやや温黒調に仕上げているが、モノクロ写真でも、紙白による仕上がりの差が出やすい。
左がピクトリコプロ「ソフトグロスペーパー」、右がピクトラン「局紙」
正直、用紙を使い分ける事は、かなりマニアックな楽しみ方だと思います。ただ一度試してみると、表現が広がることを実感できます。
質感や紙白、光沢感などが異なる用紙を7種類も試せるという点でエプソンから販売中の「ファインアート紙バラエティパック」は価値のあるものだと思います。
ポートレートに限らず、被写体と用紙の組み合わせでの仕上がりの変化を楽しんでみてください。