統合報告書とは何か?

サステナビリティと経営が切っても切り離せない環境になって久しく、近年ではSSBJ基準をはじめとして、各社のサステナビリティ情報についての開示フレームワークが整備され始めています。本記事では、数ある開示手法の一つ「統合報告書」について、そもそもの役割や課題を解説します。

そもそも統合報告書とは?

統合報告書は、世界的な非営利団体IIRCという機関が2013年に発表した「国際統合報告フレームワーク」の中で生まれた概念であり、10年経った2023年には、国内開示企業数が1,000社を超えるなど、作成に取り組む企業が年々増加している開示物です。
統合報告書とはそもそも何なのでしょうか?「国際統合報告フレームワーク」の中では、統合報告書とは、「組織の外部環境を背景として、組織の戦略、ガバナンス、実績、および見通しが、どのように短、中、長期の価値創造を導くかについての簡潔なコミュニケーションである」と定義されています。また、特徴として、①さまざまな情報が統合的に開示されていること(財務・非財務の統合、事業間・全体の統合など)、②株主などの特定のステークホルダーのみでなく、従業員、顧客、地域社会など多方面のステークホルダーの利用を想定していること、などが挙げられます。

統合報告書の特徴 イメージ図
統合報告書の特徴

つまり、統合報告書とは有価証券報告書などその他の開示媒体とは異なり、多方面のステークホルダーに対し、企業の統合的な情報とその企業が生む短中長期な価値・その創造方法を提供する媒体と捉えられます。

統合報告書の作成状況と課題

国内の統合報告書作成企業数は、2013年の90社から2023年の1017社と大幅に増加しています。また、直近一年間では10%程度開示企業が増加しており、今後も増加傾向が見込まれます。このように年々作成する企業数が増加する中、統合報告の開示の在り方についての指摘も近年増加しています。特に主要なものとして、①開示項目が不足している、②全体として読みにくい(ストーリーがない)が挙げられます。また、それらを改善していくための③フィードバックの仕組みがないことも指摘される点です。
①開示項目が不足しているについて、日本企業では特にトップメッセージ、財務情報の不足が指摘されます。トップメッセージでは、本来代表が目指す姿、成果と課題、今後の取組、取組に対してのトップとしての責任・役割などが明確に記載されていることが望ましい一方、多くの企業では当たり障りない内容にとどまってしまっているという印象があります。また、財務情報については創出したキャッシュを今後どの分野にどのくらい分配するのか(アロケーションという)が記載されていないものが多いことが指摘されています。
次に、②全体として読みにくい(ストーリーがない)について、よくあるパターンでは、「さまざまな情報を寄せ集めているだけ」の資料となってしまっている報告書が指摘されています。そのため、トップメッセージと実際の取組がきっちり連動しておらず違和感のある報告書になっているものや、全社的な課題の記載がないため記載されている取組が何のために実施されているのがわからない、といった報告書が散見されます。
最後に、③フィードバックの仕組みがないについて、上記の2点とはやや視点が異なりますが、開示した資料について、企業側が能動的に改善を企図しない限り、株主をはじめとするステークホルダーからの指摘が入らないため、良いものになっていかないという問題点もあります。

国内自己表明型統合報告書 発行企業等数の推移 グラフ
出典:エッジ・インターナショナル「日本の持続的成長を支える統合報告の動向2023」より当社作成
(注1)「国内自己表明型統合報告書」:統合レポートであることや財務・非財務情報を包括的に記載している、企業価値創造に関する報告等の統合報告を意識したと思われる表現があるレポート

"よい"統合報告書とは?

では、"よい"統合報告書とはどのようなものなのでしょうか?日本経済新聞社が毎年実施している日経統合報告書アワードの審査基準を見てみましょう。
日経統合報告書アワードでは、主に前述した課題①開示項目が不足している、について審査ポイントとして言及されており、さらに実際の審査員の方のコメントでは②全体として読みにくい(ストーリーがない)、について言及されていることも多いです。
こういった評価項目にも鑑みると、"よい"統合報告書とは、開示項目についてステークホルダーが求める事項を十分に開示しており、それらの情報がトップメッセージを最上段としてストーリーだって整理されており、かつステークホルダーの意見を反映して年々改善・修正されていくものであることが望ましいと考えられます。
本記事では、開示項目についての細かい点については言及できていませんが、上記のようなことを意識して、統合報告書の作成をしてみてはいかがでしょうか。

日経統合報告書アワードの審査基準について
出典:日経統合報告書アワード 2024年審査基準より当社作成

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