花撮影のプロ今道しげみに聞く1:
爽やかに花を写す方法

「今道先生、ポストカードのようなおしゃれな写真が撮りたいです!」

花撮影のプロ今道しげみに聞く1:爽やかに花を写す方法

花撮影のプロ今道しげみに聞く1:
爽やかに花を写す方法

「今道先生、ポストカードのようなおしゃれな写真が撮りたいです!」

「写真はプリントで完結する。そして、撮影とプリントは直結する」をテーマに、GANREF( https://ganref.jp)の写真愛好家がプロに同行して撮影とプリントのノウハウを学ぶこの企画。今回は、ようやく登場した女性写真家・今道しげみさんに花の撮り方とプリントの仕方を教わります。今道さんのユニークな活動スタイルに驚かされること間違いなしです。(TEXT:桐生彩希)

今道しげみ(いまみちしげみ)

神戸女学院大学を卒業後、全日空の客室乗務員として勤務。結婚と同時にロンドンに6年間滞在し、フラワーデザインを学ぶ。1990年より、フラワースクール『Salon de Sylvie』をロンドン・香港・東京で主宰し、フラワーデザイナーとして活動。2005年から、サロンスタイルのフォトスクール「LIVING PHOTO」を主宰し、全国5か所の「リビングフォト アソシエイツサロン」をサポート。
より美しく、自分らしく表現したいと願う女性たちにわかりやすく楽しいレッスンとして、絶大な支持を得て国内外からの受講者は5,000人を超える。

今道しげみ(いまみちしげみ)
谷津翆(やつみどり)

GANREFユーザーであり、今道さんの写真教室の生徒。フラワーコーディネーターやインテリアコーディネーター、カラーコーディネーターとして活動しつつ、写真を撮るのも大好きという芸術家肌の写真愛好家。
「写真をプリントすることは、あまりないです……。あれはします。年賀状!」と答える、作品プリントの魅力を伝えるこの企画にピッタリの存在。

谷津翆(やつみどり)

01今回の撮影地

■今道さんのサロン

生徒を招いた写真教室、そして広告作品の制作と、今道さんがすべての活動を行う場。今回はそのサロンで、撮影とプリントの両方の作業を行う。

02オンリーワンの写真家

このシリーズも6回目。つまり、6人の写真家が登場しているのですが、今回も驚きです。

もちろん、これまでの写真家さんにも驚かされました。それは撮影の技術だったり、フットワークの軽さだったり、被写体に対する知識だったり。

でも、今道さんは、それとは異なる次元で驚きです。「プロの写真家」の概念が覆ったほど。

プロの写真家って、屋外のフィールドを現場にしているタイプと、撮影スタジオを現場にしているタイプがあると思うのですが、今道さんはそのどちらとも異なります。作品を撮るのに、「家(サロン)から出ない」というのですから。
今道:私の写真はすべて、ここ(サロン)で撮ってます。広告の写真や、企業のカレンダーにする写真も同様です。普段の作品は、生徒さんと一緒に撮ってます。だって、独りで準備をして撮影するのって、寂しいじゃないですか。
「サロン」とは、今道さんのご自宅の一角に作られた、撮影や写真教室を行う場のことです。サンサンと外光の射すリビングのような空間で作品を生み出していて、自らそのスタイルを「リビングフォト」と呼んでいます。

ちなみに、今道さんのサロンでは、月に20日も写真教室が行われているとのこと。大人気です。
サロンが作品制作の場
サロンが作品制作の場。自宅でも作品が撮れる「リビングフォト」のスタイルを提唱し、第一線のプロとして活躍している
プロとしての活動が自宅で完結するスタイルを貫けるのは、それだけ作品が魅力的であり、求められるからこそ。そして、多くの生徒さんが集まるのは、今道さんの言葉が心に響くからというか。言動にブレを感じず、確固たる芯があり、つい耳を傾けてしまうからだと思います。

ふわふわとしたチャーミングな方なのですが、垣間見える振る舞いやカメラを構えた姿がとても凛としていて。学校の先生のようであるけれど、そこまで堅苦しくなく。フレンドリーであり、高いコミュニケーション力をもって接してくれます。そういう方をなんと表現すればよいのか。ふさわしい言葉が見つからなくて。

写真家らしからぬこの存在感はどこから来るのだろうと不思議でした。でも、経歴を伺って納得です。大手航空会社でCAとして活躍されていたとのことですから。

そうです。飛行機でお世話になるCAさんの雰囲気なんです。その印象を何倍も友好的にして、やさしさと面白さを足したような。写真家・今道さんは、そんな方です。
今道さんはとにかくフレンドリー
今道さんはとにかくフレンドリー。トップに掲載する写真を撮影している最中も、周囲に話題を振りまきシャッターチャンスをくれないほど。本来は使わないカットですが、今道さんの魅力を少しでも伝えたくて……

03「リビングフォト」というスタイル

今道さんは、自宅でもきれいな写真が撮れると語ります。そして今回、その言葉どおりに実践してくれました。

必要なのは陽の当たる窓辺のシーンですが、曇りの日でも夜でも撮り方と工夫でなんとでもなるそう。それを教えているのが、今道さんが開催している撮影教室とのことです。

今道さんの「リビングフォト」は、被写体(花や小物、料理など)を準備するところからはじまります。今回は花の撮影なので、小さなブーケ作りからはじまりました。

「ブーケ作りは花屋さんに頼むもの」と思っていたのですが、今道さんはあらかじめ用意していた切り花を花瓶から抜き取ると、手際よくまとめていきます。
今道:空間を飾るためのものではないので、いかにフォトジェニックに(ブーケを)作るかという点がポイントになります。たくさんのお花を使わずに、少量のお花でいかにかわいく見せていくか、ということです。
フラワーアレンジメントの技術は本場のロンドンで習得
フラワーアレンジメントの技術は本場のロンドンで習得。その腕前で、被写体となるブーケを次々と作っていく
前ぼけ、後ろぼけで見せる花を考えながらブーケを作っていきます。ひとつひとつは決して大きなものではなくて、片手でもてるほどの小さなサイズ。

ということは、お店で買うときも立派なブーケである必要はなくて、小さなブーケで前ボケや後ろぼけの要素を作ればよいということです。

今回は、最初の撮影用としてアネモネとラケナリア、次の被写体としてパンジーを主役にしたブーケを作りました。

ちなみに、今道さんの「リビングフォト」という撮影スタイルの発想は、写真家になる以前にさかのぼります。そしてそのエピソードがまたユニーク。
今道:以前、ロンドンに6年間住んでいて、そこでフラワーアレンジメントをはじめたんです。で、日本に帰ってきて、またフラワーアレンジメントやって。香港に5年半いてフラワーアレンジメントやって。最初は、雑誌に掲載する写真を撮ってもらっていたんです。本格的なカメラで。だから、自分で撮れるという感じはしなかったですね。
当時、フラワーアレンジメントを本場で習ったひとが少なかったため、毎月のように雑誌の撮影が入っていたそう。でもそのときは写真家ではなく、アレンジした花が作品で、それを撮ってもらっていたといいます。

そして、自ら撮るようになったのは、今回の撮影現場でもあるリビングがきっかけらしく。
今道:すごいスタジオで、複雑なライティングで撮ってもらった写真と、ここ(自宅のリビングルーム)で自然光で撮った写真を比べたとき、こっちで撮ったほうが断然よかったんです。それで、光はここでも撮れるんだなっていう発想があって。それからです。「リビングフォト」っていう名前で作品を撮ろうって決めたのは。
そんな話をしながら、窓際に撮影の空間を作りはじめました。この「場所作り」がリビングフォトでは大切な要素となります。

とはいっても、ストロボやLEDなどの照明は使いません。あくまでも「自然光」のみ。撮影に使う道具といえば、乳白色のプラスチック段ボール(通販の梱包に入っていたそう)とか、半透明のごみ袋とか、白い厚紙とか。

撮影日はとくに陽射しが強かったので、乳白色のアクリル板を窓辺に立てかけて太陽光をディフューズして、さらにレースのカーテンを重ねていました。
今道:花の写真は自然光です。乳白色のアクリル板やプラダン、半透明のビニール袋などを使えば光が柔らかくなるし、花の後ろの白い背景が抜けるので。
窓に乳白色のシートなどを貼り付けて撮影スペースに作り替えていく
乳白色のアクリル板を持ち出すと、それを窓辺に配置。参加者の谷津さんも加わり、窓に乳白色のシートなどを貼り付けて撮影スペースに作り替えていく
撮影のスペースができたら、ブーケを配置します。その際、手前に背の高いものを置いて前ぼけの要素にするのが、リビングフォトのポイントとのこと。

カメラに近い順から、背の高いもの、メインとなるアネモネとラケナリアのブーケ、そして後ろぼけ用の花、になります。

なにかをディスプレイするときは、手前は背の低いもの、奥に行くほど高いもの、と配置したくなりますが、それとは異なるということです。
今道:忘れちゃいけないのが、レフ板。レフを当てる(光を反射して暗い陰を明るく照らす)か当てないかで、仕上がりがぜんぜん違うので。
窓辺に作った撮影スペースに被写体を配置
窓辺に作った撮影スペースに被写体を配置。照明は自然光のみで、それを弱める(陰を柔らかくする)ための乳白色のディフューザーと、光を反射するレフ板(ここでは白い厚紙を折ったものを使用)で構成。手前に置いた背の高い花は前ぼけの素材となる

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04明暗差補正を効かせて撮影する

準備が整い、いよいよ撮影開始です。

今回の参加者である谷津さんは、普段使っているニコンのデジタル一眼レフカメラD5200から、最新のミラーレスカメラZ 50(レンズはNIKKOR Z 35mm f/1.8 S)に持ち替えて撮影に臨みます。今道さんは、フルサイズミラーレスカメラのZ 7を使用しています。
今道さんの撮影機材。ニコンZ 7に、NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sをセット
今道さんの撮影機材。ニコンZ 7に、NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sをセット。花の撮影のときは、(35mm判換算で)50mmの単焦点レンズを推奨しているとのこと
Z 7: https://www.nikon-image.com/products/mirrorless/lineup/z_7/
今道:カメラは絞り優先の「Aモード」にしています。ピクチャーコントロールは「ビビッド」。ホワイトバランスは「オート」ですが、少しだけブルーに調整します。ブルーに寄せたほうが緑がフレッシュな見た目になる。そうすると、花もそれに合わせてフレッシュに見えてくる。黄色っぽいと、枯れた風に見えてしまうので。
ホワイトバランスを「オート」にセットしてから、わずかにブルーが強くなるように微調整
ホワイトバランスを「オート」にセットしてから、わずかにブルーが強くなるように微調整。これで、フレッシュな色彩で花が写せるようになる
そのほかの設定としては、ISO感度はオートにしていて、シャッター速度の低速限界設定を「1/30秒」にしています。焦点距離が50mmのレンズを使っているので、本来なら1/50秒(焦点距離分の1)のシャッター速度が手ぶれを防ぐ目安となるのですが、Z 7には約5段の手ぶれ補正機能が搭載されています。そのため、より遅いシャッター速度で、できるだけ低ISO感度で撮れるようにしていました。

リビングフォトは花や食べ物が相手のため、被写体が動いてぶれることがないのも、1/30秒という低速なシャッター速度が使える理由でもあります。
今道:逆光で撮っていくとどうしても暗くなるので、露出補正を高めにしていくんですけども、露出補正を強くするほど白とびしやすくなります。そこで、明暗差補正。メーカーによって呼び名が異なりますが、ニコンの場合は「アクティブD-ライティング」という名前になってます。この設定を、デフォルトの「オート」から「より強め」に変更する。これで白とびを抑えつつ、露出補正を高くして明るく撮れるようになります。明暗差補正を使って強めの露出補正で撮ることがすごく大事。
普通に状況を写すと、これくらい明暗差の激しいシーン
普通に状況を写すと、これくらい明暗差の激しいシーン。この状況でも白とびさせず、なおかつ明るく写すために、明暗差補正の「アクティブD-ライティング」を「強め」にセット。さらに、プラスの露出補正でより明るい色彩を作り出す
NIKON Z 7/NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/Aモード(F3.2、1/100秒)/露出補正:+1.3/ISO 100/WB:オート(ブルー寄りに微調整)/アクティブD-ライティング:強め
NIKON Z 7/NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/Aモード(F3.2、1/100秒)/露出補正:+1.3/ISO 100/WB:オート(ブルー寄りに微調整)/アクティブD-ライティング:強め

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今道さんにZ 50のレクチャーを受け、谷津さんも撮影に臨みます。

「ホワイトバランスはブルー寄りに、ここのダイヤルで露出を補正して、アクティブDなんちゃらを――」と、教えどおりにカメラを設定し、ファインダーを覗くと……。
谷津:どうしてだろう? すごい。ああ、すごい。なんでしょう、覗いているだけできれい!
所有する一眼レフカメラのD5200と異なり、ミラーレスカメラのZ 50は、ファインダーを覗くと設定したとおりの色で世界が見渡せます。露出をプラスに補正すれば視界は明るく、ブルーに寄せればフレッシュな色彩で。

そんなカメラの存在を知らなかった谷津さんは、もう大興奮。
谷津:どうしよう。ほしい! 困った。これほしいです。
撮影する前からテンションが上がり、そして、撮影した写真を見てさらにテンションを上げます。もしかして、今道さんはこの反応を期待して谷津さんに最新の機種を託したのではないかと疑いたくなるほど、随所でよい反応を見せてくれます。
カメラの設定と撮り方のレクチャーを受け、谷津さんも撮影開始
カメラの設定と撮り方のレクチャーを受け、谷津さんも撮影開始。撮った写真を確認すると……。「どうしましょう。私が撮ったとは思えないんですけど」と大喜び

(注)YouTube™のサービスを使って提供しています。

05家だからできるセッティングの柔軟さ

撮影している最中も、太陽光の状態は刻々と変化します。自然光で撮影するリビングフォトも当然、光の加減で作品の印象が変わってきます。

今道さんは、その光線状態に合わせて、撮影スペースや被写体を次々に変えていきます。この小回りの利く撮影がリビングフォトの特徴であり、面白さのひとつなのかもしれません。
今道:後ろ(レースのカーテンに落ちる)の木の陰もいい感じ。せっかくですから、これも撮りましょう。
変化する太陽光の状態を読みながら、撮影するポジションやセットを組み替えていく
変化する太陽光の状態を読みながら、撮影するポジションやセットを組み替えていく。室内の撮影なのに天気や時間帯に左右される。それもリビングフォトの面白さのひとつ
撮影していたセットの隣に素早く新しいセットを組むと、次なる撮影の開始です。今度の主役はパンジーです。

カスミソウを手前に入れて前ボケにしたり、俯瞰で撮影したり。いろいろなアングルで次々とシャッターを切っていきます。
今道:これ(背景の白い部分)、とばしちゃっていいので。パンジーさえ可愛ければいいの。パンジーが主役。パンジーさえ可愛ければ!
NIKON Z 7/NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/Aモード(F3.5、1/60秒)/露出補正:+2.6/ISO 100/WB:オート(ブルー寄りに微調整)/アクティブD-ライティング:強め
NIKON Z 7/NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/Aモード(F3.5、1/60秒)/露出補正:+2.6/ISO 100/WB:オート(ブルー寄りに微調整)/アクティブD-ライティング:強め
主役となるパンジーが白とびしないように、「ハイライト警告」を確認しながら明るくてフレッシュな写りを狙います。

最新カメラに振り回され気味だった谷津さんも、次第に操作に慣れてきた様子。今道さんにアドバイスを受けつつシャッターを切ります。そして、感激します。

撮影も大詰め。「そろそろ潮時では?」と思ったのですが、今道さんは第3のセットを用意しはじめました。素早い手つきで、アンティークの本やコイン、マッチ、シーリングスタンプなどなどを次々と並べていきます。

規則的に配置された小物類を上から眺めてみると……。これ、おしゃれなポストカードとかで見かける写真です!

新たなセットには、赤い被写体がちらほらと。後半のプリント編で紹介する予定だったのですが、使用するプリンターは、レッドインクを搭載したカラリオ「EP-10VA」。赤の発色が美しいプリンターです。

花の撮影の回なのですが、赤い被写体を撮って美しくプリントするために、適した小物も用意してくれていました。撮影後のプリント作業も楽しみです。
NIKON Z 7/NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/Aモード(F3.5、1/30秒)/露出補正:+0.3/ISO 220/WB:オート(ブルー寄りに微調整)/アクティブD-ライティング:オート
NIKON Z 7/NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/Aモード(F3.5、1/30秒)/露出補正:+0.3/ISO 220/WB:オート(ブルー寄りに微調整)/アクティブD-ライティング:オート
というわけで、小物の撮影をはじめます。今度は逆光のシーンではないので、アクティブD-ライティングは「オート」に戻して撮影しましょうと、谷津さんに告げます。

慣れた様子でサクッと写す今道さん。対照的に、背伸びをしたり、踏み台に乗ったりと、アクロバティックな姿勢で撮影する谷津さん。

「Z 50は液晶画面がチルトする」と教えられ、「すごいすごい。ラクに見えます」と感激するも、カメラを縦に構えると。
谷津:あぁ……見えなくなってしまいました。縦だとダメなんですね。もうちょっと、全体像をまっすぐ撮りたいんです。
今道:曲がってるね。ふふふふ。結構曲がってる。
谷津:そうだ。なんのために線(グリッド)を出したんでしたっけ。あれ、なんで線を出しているのに曲がっているんでしょう?
第3の被写体に四苦八苦する谷津さん
第3の被写体に四苦八苦する谷津さん。あの手この手で“まっすぐ”な構図に挑戦するも……
なんだろう? この方、今道さんとは異なるベクトルでひとを惹きつけるなにかをもっているような。そんな気がしてなりません。

そんな谷津さんの試行錯誤を見守りつつ、前半の撮影編は無事に終了です。(後半に続く)
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