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展覧会情報

展覧会連動企画レポート

one day preview “ホンマタカシのWORKSHOP” 2011年5月に開催されたホンマタカシ写真展「ユキ/under construction」にあわせ、「one day preview  “ホンマタカシのWORKSHOP”」を開催しました。その模様をお伝えします。

 この日の参加者は約30人。青山ブックセンターで開催されたワークショップ「たのしい写真 よい子のための写真教室」でホンマさんと生徒さんが実際に経験したこと・学んだことを、作品を見せながら語ってくれました。
 オブザーバーとして編集者のタカザワケンジさん、進行役としてキュレーターの本尾久子さんが参加されました。
 まずはワークショップの概略をホンマさん自身に語っていただきました。

「決定的瞬間」と「ニュー・カラー」の実践から

ホンマタカシ(以下「ホ」と表記):僕はワークショップを主宰しているんですが、今回は、実際にそれをやるのではなく、今までワークショップを体験してくれた人の作品を見ることで、それに代えようと思います。
 僕のワークショップはテクニカルなことを教えるのではなく、いろんな種類の写真が世の中にあるけれど、その現代的な写真をどのように見てどのように扱うのか、一緒に考えよう、というものです。これだけデジタルカメラなどが普及している中、テクニックを教えてもしょうがないし「こんな構図で撮りなさい」なんて教えてもまったく意味がないと僕は考えています。それよりも、世間的にいいと言われている写真がなぜいいのか、自分の写真やブログの写真と、美術館などに展示される写真の違いを一緒に考えていこう、というワークショップです。

 そのためにはどうすればよいのでしょうか。ホンマさんは、「写真の歴史を知り、いま自分たちがどういう歴史の延長線上にいるのかを考える必要がある」と語ります。

ホ:クラシカルな写真は大きな2つの山で構成されていると、僕は思っています。その1つは「決定的瞬間」を撮る写真、もう1つは「ニュー・カラー」という考え方。その大きな2つで写真のモダニズムは完成されたと、僕は定義しています。
 決定的瞬間の写真は、撮影者が歩き回って特別な瞬間を素晴らしい写真的構図でとらえる。それを完成させたのがアンリ・カルティエ=ブレッソンで、ワークショップではまず、写真が誕生してそこへたどり着くまでの歴史を説明します。そしてそれを生徒のみなさんに実際に撮ってきてもらいます。
 その後にウィリアム・エグルストンなどで有名な、ニュー・カラーを学びます。ニュー・カラーは「アンチ・クライマックス」という風にも言われます。決定的瞬間と逆で、ただただいつも同じような日常の中でどういう風に写真を撮れるかと考える、そういう風に世界を見るというのがニュー・カラーだと僕は思っています。生徒たちは、先ほどの決定的瞬間から一転して、今度はニュー・カラーを撮ってくるという課題をやるわけです。
 これはどういうことかというと、「決定的瞬間とニュー・カラーね」と頭で思うのと、実際に撮ってみる体験とは、まったく違うものだということです。別にカメラはどんなものでもいいわけで、とにかくこの2種類の撮り方があるということを実感してもらいたいのです。
 そしてニュー・カラーが終わるとやっと現代写真になるんです。現代写真って「ポスト・モダン」って言っているんですけど、「決定的瞬間」「ニュー・カラー」っていうラインが壊れて、本当に“何でもあり”な状態になるんです。そうすると、例えばベッヒャースクールであるとか、セットアップの写真とか、1つの流れではなくいくつものグループが同時に存在するのがポスト・モダン。いろんなカテゴリーの写真が同時に存在しているのが今の情景なんです。

 そのための課題というのが、1つずつやること。例えば「すごく抽象的に撮ってみる」とか、「加工する」とか、「自分で撮らない写真で作品をつくる」とか、そういう課題を順にやる。
 これらの課題を出していく中で気づいたんですけど、“決定的瞬間は撮れるんだけどニュー・カラーはいいのが撮れない”という人とか、その逆の人とか、あるいは“加工してきて”という課題になるととても面白い写真を出してくる人とか、いろいろな人がいるんです。世界をどう見ているのかが個々に違うんだな、というのが僕の発見で、それはすごく面白いと思いました。

 同じ課題でも、それを他の人がどう解釈したのかを見るのは「すごく勉強になる」のだそう。今回のイベントでは、ワークショップを終えた5名の生徒さんが課題とどう向き合ったかを、実際に制作した作品とともに発表してくれました。撮影して作品をつくる実践型の人、研究に重きを置く人など多様でしたが、その中の1人、嶋崎さんの課題との向き合い方を、そのコメントとともにご紹介しましょう。

名作をまねることから見えてくること

 ワークショップでは、実際に著名な写真家たちが撮影している様子をとらえた映像を見ることもあったそうで、嶋崎さんは、決定的瞬間の授業で見たブレッソンの撮影スタイルが印象的だったと言います。

嶋崎(以下「嶋」と表記):ブレッソンは撮影している間、ずっとファインダーから目を離さずにいて、ものすごい速さで巻き上げていました。自分もそれをまねて、ファインダーを覗いたまま被写体を追いました。動いているときしか決定的瞬間はとらえられないと思ったので。

 それまで主に風景を撮っていた彼女にとって、それはとてもチャレンジングなことだったようです。
 また、ニュー・カラーの課題については、「絞り込んで撮るのがニュー・カラー」と思っていたけれど、エグルストンの写真を改めて見てみると開放で撮っているものも多く、パンフォーカスじゃなくてもいいのでは、と思うようになったとのこと。

嶋:「アンチ・クライマックス」とも言われるけど、光の映り込みとか影の出方をうまくいかしているので、そこをどうやってやろうかなと考えました。

 この後、エグルストンのまねを徹底してやってみることになり、レンズを少し長くしてみたり、縦位置も撮ったり、撮影場所を限定したりと、ニュー・カラーの実践は進んでいったそう。この嶋崎さんの“エグルストン写真”について、タカザワ氏からは「エグルストンに似せようとしているんだけど、嶋崎さんらしさが出てきている」との感想が。規制するからこそ、その人が一番気になっているところが明確になるということや、“まねる”という意味に話は及びます。

ホ:「まねる」にしても僕が一番よくないなと思うのは、チラっと見たくらいで無意識にまねしちゃうこと。それで、なんとなく影響されて“あたしこういうのが好きだから”って。そういうのんきな人がけっこう多いけど、それは好きだと言った人にも表現に対しても失礼だと思うんですよね。やるなら「この人を参照してやっています」と堂々と公表して、きちんとやる。その中から自分の個性によってはみ出るところが、その人の作家性だと思います。

 また、生徒さんたちには、事前にプライベートラボで作品をプリントすることにも挑戦していただきました。PX-20000という大きなプリンターで、紙も44インチ、1メートル以上あるものを使っています。プリントを見て、会場からは感嘆の声も。

嶋:卒業制作の作品集をキュレーターの方に見てもらったら、「マットみたいな、光沢じゃない感じがする」って。それで、セミグロスの用紙「プロフェッショナルフォトペーパー<厚手 絹目>」にしてプリントしたんです。
タ:嶋崎さんはフィルムカメラですよね?
嶋:はい。うちでスキャンしてきたデータがよくなかったので、エプサイトでスキャンし直しました。
タ:カメラは何ですか?
嶋:ニコンの35ミリ一眼レフですけど、すごいきれいに伸びてる!
ホ:自分の写真がこんな大きくなって、どうですか?
し:大きくすると見え方が変わってきます。
ホ:嶋崎さん、過去最大の大きさじゃない?
嶋:人生最大ですね。

 プリントにすると、単なる画像だった場合とは異なる印象が生まれます。大きさや紙の質感によっても写真の印象が大きく変わってくるということを他の生徒さんのプリントとも検討し合いながら、イベントは締めくくられました。