写真家による作品プリント制作事例

むらいさち氏スペシャルインタビュー インクジェットプリントが広げる作品表現

9月に開催した個展「きせきのしま」~ちいさな島の夢のはなし~で、インクジェットプリンターで印刷した大判の作品を展示し、好評を博したうみカメラマンのむらいさちさん。インクジェットプリンターでの作品づくりの面白さや魅力についてお話しいただきました。

人を幸せにする風景を届けたい

世界中の海に潜ったり撮影したりしてきましたが、「きせきのしま」は、島の周囲がすべて元気な状態のサンゴ礁に囲まれている貴重な場所です。そんな美しい島や海の姿を写真に撮って人に伝えたいし、写真を見た人が幸せな気持ちになってくれたらいいなと思っています。

見た通りの美しい色合いや風景をそのまま写真として作品にしたい――その思いを結実できたのが今回の個展でした。頭の中に残った色や景色をそのまま作品に落とし込めたのはまさにインクジェットプリンターのおかげで、その出会いがなければこれほど納得できる作品には仕上がらなかったと思っています。

コニカミノルタプラザで開催されたむらいさち氏個展会場の様子
■むらいさち氏個展会場の様子

インクジェットプリントとの出会いで得た発見

私の写真は淡い色合い、明るい色味が多く、白飛びしないギリギリのところで撮るのが特徴です。そのため、階調が飛んでしまったり、水の色が緑になってしまったりと、なかなか思い通りの仕上がりにならないのが悩みどころでした。私はフィルム時代から写真を撮っているので、「フィルムで撮って銀塩でプリントするのが王道」という思い込みがあり、当初はインクジェットプリンターを使うことにやや抵抗がありました。それに、銀塩で表現できない色合いがインクジェットで出るはずはないと思い込み、諦めていたのです。

ところが、前回の個展の時に知り合いのプリンティングディレクターの方にエプソンのインクジェットプリンターで印刷してもらったところ、淡い色合いも階調もきちんと表現できたきれいな仕上がりで、それまでのストレスが一気に解消されました。そして、私の写真の色はインクジェットプリンターとの相性がすごく良いことに気づいたのです。

インクジェットプリントは用紙の種類も豊富で、自分の写真の雰囲気に合った用紙をセレクトして写真にプラスαの雰囲気を生み出すことができます。今回の個展では(株)トクヤマ製用紙「フレスコジクレー」を使いましたが、プリントしてみて初めて、この紙は淡い色がきれいに出るだけでなく予想外のムラがうまく調和して豊かな表現が加わると分かりました。どんな仕上がりになるのか、紙と対話しながら作品を作っていける点もインクジェットプリントの魅力ですね。

撮影からプリントまですべて自分のこだわりで

今回の個展では初めて、大判サイズ用紙を使いました。それは、見る人が実際に島を訪れたかのように、島の雰囲気を体感してほしいという思いがあったからです。しかし個人で大判プリントをするとなると自宅では難しいです。そこで今回、はじめて エプサイトのプライベートラボ を利用しました。

プライベートラボ
■これまで大判サイズをプリントする場合は、外部にお願いしていましたが、プライベートラボでは、テストプリントから用紙選びを行いながら、心行くまでプリントできるのが大きな魅力です。

まず最初はA4サイズで、光沢用紙からマットタイプなどさまざまな種類の用紙でテストプリントをしました。モニターとプリントの色味を合わせるのはなかなか大変な作業だと思います。

私の場合、今まで作品のプリントは外部のお店に預けて、仕上がったものを受け取っていました。そのため、過程を見たり何度も調整してもらうことはできませんでした。もし出来たとしても、私と意見や方向性が合わなかったりうまく思いが伝えられなければ、いい作品は出来ません。

その点、テストプリントから本番プリントまで自分で確認しながら作業できるので、作品に対してすべてこだわりを持つことができます。昔、暗室で自分で写真を現像して「どう出てくるんだろう」と期待に胸を膨らませて仕上がりを待った、あのワクワク感を思い出しましたね。

■ プライベートラボではモニターの色はもちろん、照明などの環境が整えられていて、何度もプリントして色や雰囲気を確認することができます。

作品表現の幅を広げる手段として

写真はそもそも最終的なアウトプットはプリントしたものであり、そこを人手に頼っていると「撮影からプリントまで作品すべてにこだわりを持つ」ことができません。人に任せると、どうしてもその人の色が出てしまいます。私はすべて自分の思い描いたようにやりたいという思いが強いので、インクジェットプリントは大きな魅力でした。

また、今回の個展のためにプライベートラボで3日間ずっと紙を触り、紙と対話しながら作品づくりをしました。すると、紙の性格が分かるようになり、「これは色がちゃんと出るな」「これは難しいかも」という手応えが感じられるようになったのです。今までは紙を意識して写真を撮ることはありませんでしたが、これからは「あの紙に合うな」と、仕上がりを意識しながら撮影する場面も出てきそうです。

今回の個展は、インクジェットプリントでしか表現できないものになっています。いろいろな用紙を使うことで表現の幅も広がりました。自分の表現したい世界観を形にするための手段の1つとして、インクジェットプリントは大きな力になってくれると考えています。

うみカメラマン むらいさち Sachi Murai

20歳から4年間、沖縄・座間味島でダイビングインストラクターを経験後、東京で広告カメラマンの助手を務める。水中やリゾートの雑誌を出版する「水中造形センター」で世界の海を取材し、2005年にフリーカメラマンとして独立。現在は雑誌や広告を中心に、水中写真、リゾートや旅、カフェの撮影などで活躍。写真集「ALOHEART」、著書「カメラ*好き1&2」(撮影Howto本/毎日コミュニケーションズ)を出版。2014年9月、写真集「きせきのしま」(小学館)を出版。