田沼武能
鯨の写真というと、これまでは尾を水面に叩きつけて水しぶきを上げているシーンを撮っているものなどが多く出ていました。どちらかというと荒々しいイメージで捉えていたように思います。しかしこの作品は、非常に静かでさわやかな作品に仕上げています。これはめずらしいですし、鯨の写真の新しいスタイルに繋がっていくように思います。3点の作品それぞれで鯨の違う姿をよく捉えており、撮影者が何を見せたいのかという狙いと、鯨に対する愛情が伝わってきます。新しいドラマを見せてくれるような作品です。
中村征夫
地球最大の哺乳動物ですが、見た瞬間、その姿がこれほどまでに美しいのかと思い知らされました。おそらく鯨を追いかけて撮っているというのではなく、むこうから近づいて来るまで船の上でじっと待って、近づいてきたところを瞬時に捉えているのだと思います。海況も非常に穏やかで、作品全体から鯨の大きさや美しさを超えて海の雄大さまでも感じさせてくれる作品です。
-この度はネイチャー部門グランプリ受賞おめでとうございます。受賞作品の題材になったクジラは、結構長く撮っていたのですか?
ありがとうございます。受賞の知らせを電話で聞いた時はドキドキッとしましてね(笑)。興奮して頭の中が真っ白になってしまいました。
ホエールウォッチングの写真をはじめたのは10年前です。以前は東京で写真を撮る仕事をしていましたが、沖縄に住むようになって空や海といった自然が、それまでとは全く違う素晴らしさで目に飛び込んでくるようになりました。その感動がきっかけとなって始まったテーマのひとつです。ホエールウォッチングのシーズンは1月から4月初旬で、その期間になると週2回くらい渡嘉敷島の方まで行って撮っていました。クジラが海面を飛び上がることをブリージングといいますが、はじめはそれが撮りたかったのです。
−でも今回の作品はブリージングのような荒々しいイメージではなく、むしろすごく静かですね。
そうですね。この作品は3月31日、ホエールウォッチングシーズンの最終日に偶然遭遇したクジラを撮ったものです。その日も渡嘉敷島の方で撮影をしたのですが、帰る途中親仔クジラが船の100メートルくらい先にスーッとあらわれて、しずかに横切っていったのです。普段ですと波でクジラの身体はほとんど見えないのですが、この日は波ひとつないベタ凪で、偶然が重なって静かな水面を泳ぐクジラを撮ることが出来たのです。後日家でこれまでの作品と並べてみましたが、この3枚だけは他とは違い詩のようなストーリーを感じることが出来たので、これはうまく撮れたなって思いました。
−作品づくりはどのような行程で行っているのですか?
撮影した写真はフォトストレージビューアーに入れて、そこからプリンターに繋いでダイレクトに印刷しています。紙はクリスピアがほとんどです。この紙大好きなんですよ(笑)。レタッチが必要なものだけはパソコンでいじりますが、普段はあまり使いませんね。
−現在は次の作品にも挑戦されているんですか?
今は野鳥を撮っています。マングローブ林の河口でミサゴやサギ等が捕食するシーンをモノクロで表現したいと思っています。この作品ではベルベットファインアートペーパーなど、マット系の紙を使って仕上げたいと思っています。