技術者インタビュー

『カラーコントロールテクノロジー』で思い描く色の表現を

エプソンのカラーコントロールテクノロジーは、お客様の思い描く色を色分版・色解析・色変換・色最適化・色予測の5つの技術で再現する画像処理技術です。同技術により、フォト・プルーフ、サイネージ(看板、ポスター)、捺染などさまざまな用途のメディアで、短時間・高精度で理想通りの色を安定して再現するエプソンの印刷品質が支えられています。

ハードウェアが中心であるものづくり企業においてエプソン初となる純正RIP(産業用向け印刷ソフトウェア)が開発された経緯や、その中で得られたブレイクスルー、そして今後の展望について、技術開発本部 ソフトウェア技術開発部の布川と松坂が語ります。

技術開発本部 ソフトウェア技術開発部 部長 布川 博一

技術開発本部
ソフトウェア技術開発部
部長 布川

技術開発本部 ソフトウェア技術開発部 課長 松坂 健治

技術開発本部
ソフトウェア技術開発部
課長 松坂

お客様の声を聞くことから
純正RIPの開発ははじまった

どのようにしてエプソンのカラーコントロールテクノロジーの開発はスタートしたのでしょうか?

インタビューに答える 布川 博一

布川2012年ごろに写真の印刷で培ったエプソンの高精度なプリンティング技術を、もっと広く使っていただければと商業・産業市場に参入しました。熱を使わないエプソンのマイクロピエゾ技術は、ソルベントインクやレジンインクなど、さまざまな種類のインクを使うことができるという特徴を持っています。 正直なところ、すでにフォト・プルーフ市場で多くのお客様に画質の良さを認められていたエプソンは、その品質を受け入れてもらえるのではないかと考えていました。しかし、エプソンを選んでいただいたお客様から、すぐに好評を得ることはできませんでした。

というのも、印刷物そのものが商品となる商業・産業市場では、期待されるものがフォト・プルーフ市場と大きく異なっていたんです。プリンターメーカーが提供する写真用紙等の純正紙と純正紙向けに社内の職人が作りこんだ印刷環境を使うのがフォト・プルーフ市場では当たり前でしたが、サイネージ市場では、屋外やウィンドディスプレイ、のぼり旗、壁紙などお客様の用途や使用する紙メディアに合わせて、お客様が画質を作りこむ必要がありました。高精度と引き換えに設定の調整が複雑なエプソンのプリンターは、クライアントから持ち込まれたデザインのグラデーションの再現や複数のプリンター間の色合わせなど、印刷環境の構築作業に時間がかかると評価されたんです。

そこから、2年近い歳月をかけて台湾、中国、アメリカなど世界中のお客様のもとへ訪問し、要望やクレーム内容のヒアリングを開始しました。その結果、自社の純正RIP(印刷ソフトウェア)を開発するべきだという結論に達し、そのコアとなる画像処理技術の開発に取り組みました。

当時はまだ3rdRIP(ISV(Independent Software Vendor)が作った印刷ソフトウェア)
を使用するのが業界の当たり前でした。
エプソンはどのような経緯で純正RIPが必要だという結論に達したのでしょうか?

インタビューに答える 松坂 健治

松坂台湾における印刷大手のお客様のもとへ訪問した際、画像処理技術開発のターニングポイントに直面しました。現地では、エプソンの高画質が他社との差別化となることは、当然期待されていましたし、そのポテンシャルは認められていました。一方で競争の中心は、そのエプソンのプリンターを使いこなすためのISV-RIPの選定・活用だったんです。

現地ではエプソンのプリンターのスペックを最大限に引き出せる“職人”が必要とされ、その技術によって他社との差が生じる状況にありました。しかし、それは全世界のユーザーにあまねく高画質な印刷体験を提供するというエプソンの目指すところとは異なります。我々は、エプソンの使命を果たすため、純正RIPの開発が不可欠だという結論に達しました。

色最適化・色予測の開発による
ブレイクスルー

実際の画像処理技術の開発はどのように進められましたか?

インタビューに答える 布川 博一

布川部内でテーマ起案計画を行い、5名ほどのチームで開発がスタートしました。エプソンのカラーコントロールテクノロジーは色分版・色解析・色変換・色最適化・色予測の5つの技術で構成されています。

最初に着手したのは階調性(グラデーション)再現を重視した「色分版」の開発です。続いて2014年には、プリンターが再現可能な色を正確に割り出す「色解析」と、実際に色解析で作成したICCプロファイルを使って、モニターの色をプリンターの色に高速・高精度で変換する「色変換」を開発しました。これらの技術により、サイネージ市場のお客様が抱えるメディアに合わせた色合わせや印刷環境の構築作業にかかる手間・時間を大きく減らすことに成功し、多くのお客様に好評を持って受け入れていただくことができました。

そこで新たに浮上したのが、昇華転写式印刷市場におけるお客様の課題です。リピートオーダー色再現やクライアントから持ち込まれた現物への色合わせといったサイネージ市場とは大きく異なる同市場の要望に応えるため、エプソンは「色予測」と「色最適化」の開発に着手しました。同技術がリリースされたのが2016年ごろのことです。そして、2018年にはカラーコントロールテクノロジーの対外発表に至りました。

具体的にどのような技術的ブレイクスルーがありましたか?

インタビューに答える 松坂 健治

松坂「色予測」と「色最適化」の開発により、昇華転写式印刷市場のお客様が1週間かけて行っていた色調整の作業を、わずか半日で完了させられるようになりました。

例えばスポーツアパレル市場では、ユニフォームの色の再現において非常に高い精度が求められます。(プロスポーツ選手の着ているユニフォームと同じ色のユニフォームをファンの方は着たいですよね。)ただ、同市場では伝統的にベテランの目で、目的の色を再現できたかどうかを確認する文化が定着しており、印刷業者は何度も色調整を繰り返し、色の再現に多くの手間と時間をかけることを強いられていました また、調整結果はそのプリンター固有の調整値になっているため、一度決めた色を再現するためにその製品が生産停止となった後もASP(アフターサービスパーツ)を大量に確保し、古い機器を使い続けることが常態化していました。

カラーコントロールテクノロジーの進化により、色調整にかかる時間・手間は大幅に削減されました。また、メーカー・機種を問わず、“同じ色”を再現できるため、旧モデルを使い続けなければならないという昇華転写式印刷市場におけるお客様の課題解決も進みました。

布川新たにプリンターを購入いただいても、お客様が前に使用されていたプリンターの情報や印刷特性を把握し、その日のうちに色を再現することもエプソンの技術であれば可能です。実際に効果を目の当たりにして、エプソン製品を導入していただく例も増えているようですね。

進化を続ける
カラーコントロールテクノロジー

エプソンのプリンター技術において
カラーコントロールテクノロジーはどのように位置づけられますか?

松坂 健治

松坂高精度かつ簡単で安定した印刷を実現するための重要な技術のひとつです。極めて小さいドットで美しい色合いやグラデーションを表現するマイクロピエゾ方式のプリンターだからこそ、カラーコントロールテクノロジーの威力も十分に発揮されます。お客様の印刷に関する希望を叶える要素のひとつとして、カラーコントロールテクノロジーも機能しています。

カラーコントロールテクノロジーの開発は、ソフトウェア技術開発部だけでなく、アプリケーションを企画するソフトウェア企画部門や技術の評価をするCS部門を始めとした多くの部門の協力を得て進められました。エプソンの技術力の源泉となっている「省・小・精の技術」に向けた取り組みが、実を結んだ結果です。

カラーコントロールテクノロジーの今後の展望について教えてください。

布川 博一

布川今まで以上に、お客様の要望をかなえられる画像処理を追求したいです。例えば、サイネージにラミネートを施すことで、色の見え方はさらに変わることになります。その変化さえも想定した色の表現をエプソンのカラーコントロールテクノロジーは目指しています。難しい蛍光色の表現にも挑戦していきたいですね。

お客様の再現したいメディアの完成イメージに合わせたトータルソリューションを提供するのがエプソンの役割です。そのために、最先端技術も積極的に取り入れつつ、カラーコントロールテクノロジーはさらに進化していきます。