技術者インタビュー

ドライファイバーテクノロジーで
実現した
世界初※1
乾式オフィス製紙機『PaperLab』

PL事業推進部 課長 五味 克仁

PL事業推進部 課長 五味

繊維状の廃棄物を用途に合わせ繊維化し、結合、成形を行い素材の高機能化を実現したエプソン独自の技術、それが『ドライファイバーテクノロジー』です。この技術のポイントは水を使わない※2こと。オフィスから出る使用済みの紙をオフィス内でリサイクルする世界初の乾式オフィス製紙機『PaperLab』(ペーパーラボ)が実現できたのも、ドライファイバーテクノロジーが水を使わずに紙を繊維に戻すことができるからです。繊維のリサイクルがどのような価値を高めるサイクルを生み出すのか、開発チームのエンジニアがお話します。

プリンターをつくる会社としての
思いから開発がスタート

ドライファイバーテクノロジーの開発がスタートした経緯を教えてください

五味社内にインクジェットプリンターで印刷した機密文書が大量にあふれていたんですね。機密文書は処理が面倒で、お金がかかるんです。処分を外部に頼むためにどうしても社内に溜まってしまう。その紙の山を見た当時の社長から、「この紙はどうにかならんのか?使い道はないのか?」という話が、新規事業の開発を担当していた当時の本部長にあったんです。プリンターの会社として、お客様には環境を気にせず気兼ねなく紙を使ってほしい、そのような思いから研究がスタートしました。

まず初めに、紙から紙をつくるとはどういうことか、根本的なところから考えました。紙は繊維からできているので紙を繊維に戻して、その繊維から紙をつくることはできないか、と考えました。

一般的な紙のリサイクルは、工場のような大きな装置を使い大量の水を使いますが、『PaperLab』は水をほとんど使いません。どうやって水を使わない紙のリサイクルが可能になったのでしょうか?

インタビューに答える 五味 克仁

五味紙のリサイクルを行おうとすると、給水と排水設備が必要でした。オフィスのバックヤードなどで、特別な設備工事をせずに紙を再生できないか、水を使わない手段がないか、考えました。それには、まず紙を知ることが必要でした。

和紙だとわかりやすいのですが、紙はゴソゴソ触っていると繊維が出てきますよね。だから水で紙を溶かすのではなく、紙をほぐすという考え方で繊維に戻せるんじゃないかと思いました。さまざまな方法をトライし、失敗しながら、最終的に機械的な衝撃を加えて、紙をほぐす技術に行きつきました。

ひと言で紙と言っても、お客様が使う紙は、実はさまざまな種類があります。帯電しやすく、繊維にするとベタベタと周りに貼り付いてしまう紙や、添加物が多すぎて繊維が弱く紙にした時に強度が出ない紙など、何十種類も紙を試して、それぞれの紙に合った加工プロセスを確立しました。

繊維を紙に戻すにはその前に印刷物の⾊材を取り除く必要があります。通常の紙のリサイクルでは薬品を使って溶けた紙を洗い、⾊材を落とします。水をほとんど使わない※2『PaperLab』は、機械的な衝撃を与え繊維化し、⾊材が付着した部分と分離させます。分離したところで⾊材の付いた繊維をふるい落としてきれいな繊維だけを残します。

繊維から紙を再びつくる工程も『PaperLab』1台でやってしまうのですか?

PaperLab

五味そうです。結合剤を繊維と混ぜて繊維同⼠を結合します。普通の紙は⽔素結合という電⼦的な結合で繊維が結び付くので、『PaperLab』とは結合の原理が違います。

製紙会社の方も『PaperLab』の見学に来社されますが、水をほとんど使わずに再生紙をつくるというのは初めてご覧になるそうで大変驚いていました。水を大量に使って繊維に戻し、乾燥し結合させるというのが当たり前だったので、『PaperLab』が第1回エコプロアワードで経済産業大臣賞を受賞した時も、製紙会社やいろいろな業界の方から大反響をいただきました。

廃棄物に価値を与え、環境負荷を減らすものづくり

『PaperLab』に使われたドライファイバーテクノロジーは画期的な発明ですが、紙以外の取り組みを教えてください。

プリンターのインク吸収材

五味社内で回収された使用済みの紙を、ドライファイバーテクノロジー搭載の装置へ投入し、繊維化、結合素材の添加、加圧裁断して、プリンターのインク吸収材に使用しています。この方法によるインク吸収材の生産は、エプソンの海外製造工場に展開されています。

また、紙をドライファイバーテクノロジーで再生すると多孔質で音を吸音する特性を持った素材ができます。その特性を生かし、機械のなかに吸音材として使用しています。あとは、厚みや硬さを調整することで、エプソン製品の緩衝材として活用することができます。私たちは、こうしたドライファイバーテクノロジーを使って廃棄物として処理していたものに価値を与え環境負荷を減らすものづくりを「スマートサイクル」と名付け、取り組みを進めています。

吸音材や吸収剤などですでに取り組みが進んでいる「スマートサイクル」ですが、今後の取り組みを教えてください。

五味ドライファイバーテクノロジーは、原理的には、繊維でできているもの、例えば木材や竹などから繊維を取り出すことも可能です。これからは、パートナーのニーズを聞きながら、さまざまな廃棄物を価値あるものに変えていく、そんな取り組みを進めます。

最近では、ドライファイバーテクノロジーを応用し、新型コロナウイルス感染症への対応として、機能繊維を加工し、マスクの中間層フィルターを通常では考えられない早さで生産を実現しました。

今後は、『PaperLab』のサイズをより小さくして、プリンターのように当たり前にオフィスに1台は『PaperLab』が設置されている、そんな未来を目指しています。オフィス⽤紙を再⽣するために活⽤したドライファイバーテクノロジーが、紙以外の多様な繊維素材に応⽤されて、「環境負荷を減らすものづくり」スマートサイクルを実現できたらうれしいですね。ドライファイバーテクノロジーの更なる進化に⼒をいれて、社会課題の解決に取り組んでいきます。

五味 克仁

※1 2016年11月時点、乾式のオフィス製紙機において世界初(エプソン調べ)

※2 機器内の湿度を保つために少量の水は使用します。