世界初の6桁液晶表示デジタル腕時計

世界初6桁液晶表示デジタル腕時計を
実現した技術

デジタルウオッチ、スマートフォン、テレビなど、現在では多くの製品で、液晶が使われています。セイコーエプソン(株)(当時:諏訪精工舎、以下:エプソン)はこの液晶を、技術が世に出始めた今から50年近く前にいち早く着目し、研究開発をスタートします。そして独自開発したField Effect方式液晶(以下:FE液晶)を搭載した、世界初となる6桁液晶表示デジタル腕時計を世に送り出します。6桁液晶表示デジタル腕時計を実現した、エプソンの技術を解説します。

デジタルウオッチの
開発気運が高まった1960年代

セイコー クオーツLC V.F.A. 06LC

エプソンは1969年、世界初となるアナログ式クオーツウオッチの開発に成功します。針で時を刻むアナログウオッチが支持される一方、数字(デジタル)で表示を行うデジタルウオッチに、世の中のトレンドはシフトしていきました。そのためデジタルウオッチの研究開発気運は、世界的に高まっていました。エプソンもそのような潮流に乗り、クオーツウオッチの開発と並行しながら、全電子型のデジタルウオッチの開発をスタートさせます。

アナログ式ウオッチと全電子型デジタルウオッチの違いは、機械的に動く駆動機構の有無です。時を刻む核となる水晶振動子の振動ならびに、発せられた波を整形するIC(電子回路)までの構造は同じです。ただ全電子型デジタルウオッチではIC機構の先、アナログ式クオーツウオッチでは搭載されているステッピングモータがありません。その代わりに電気信号をダイレクトに液晶表示パネルに送り、時刻を表示する構造となっています。

液晶表示電子回路

セイコー クオーツLC V.F.A. 06LC

世界初のデジタル時計は、アメリカの会社が1970年に発表しました。しかし同社のウオッチはLEDを採用していたため、視認性や消費電力に改善の余地がありました。そこでエプソンは、他の方式でのデジタルウオッチの開発に乗り出します。

写真は06LCの内部構造

お客様のことを第一に考え
独自開発のFE液晶を選定

独自開発のFE液晶

エプソンが着目したのは、当時、電子的制御が可能な表示素子として着目され始めていた液晶でした。当初はD.S.M方式液晶なども候補に上がりましたが、お客様のことを第一に考えた結果、低消費電力で高い視認性を実現するFE液晶が最適だと判断し、1968年に研究開発をスタート。液晶の合成および封入方法、電極構造、作動温度範囲、パネル表示コントラスト条件、量産化といった技術課題の解決に挑んでいきます。

LCD(液晶ディスプレイ)は、偏光フィルターならびに電極が備わったガラス基板に液晶分子を封入(液晶層)し、電圧のオン・オフや偏光フィルターを通過する光の透過量などをコントロールすることで、文字や画像として表示する技術です。FE液晶では、この液晶層内に一定方向の溝を刻んだ板(配向膜)を配置します。液晶分子は溝に沿って並び方を変える性質があるため、溝の向きを90度変えた配光膜で液晶をはさむと、液晶分子は90度ねじれた状態で配列されます。光は液晶分子に沿って進む性質がありますから、この状態で光を通せば光は90度ねじれて進み、配向膜と同じく90度交差させた偏光フィルターの隙間を通過します(イラスト左側)。また液晶分子は、電圧をかけると配列を変える性質も持っているため、電圧をかけた状態では液晶分子は垂直に配列され、その液晶分子に沿って光が進むため、光はねじれることなくそのまま進み、偏光フィルターを通過しません(イラスト右側)

エプソンはこのようなFE液晶の特長を活用し、デジタルウオッチに最適な液晶の独自開発を進めていきました。開発の糧となったのは、それまで機械式ウオッチの製造開発で培ってきた精密加工技術・電子回路の小型化・量産化技術といった、エプソンの「省・小・精の技術」でした。

世界初の快挙、
6桁液晶表示デジタル腕時計
『セイコー クオーツLC V.F.A. 06LC」

1973年10月、文字盤と針に変わり、独自開発したFE液晶で時刻を表示する全電子型のデジタルウオッチ『セイコー クオーツLC V.F.A. 06LC」を、エプソン(当時・諏訪精工舎)は世に送り出します。液晶に刻まれた数字(時刻)は、時、分、秒それぞれ2桁ずつの合計6桁。6桁の液晶ディスプレイ表示は、当時、世界初の快挙でした。

見た目はデジタルに変わりましたが、時を刻む振動の源は、先述したとおりクオーツウオッチと同じく水晶振動子です。そのためエプソン(当時・諏訪精工舎)がそれまで築いてきた高精度も維持。開発課題のひとつであった消費電力もクリアし、約2年という長寿命を実現したことで、常時時刻を確認することも可能にしました。また時刻を合わせる際は、時・分それぞれ個別に、ボタンのプッシュで簡便に調整できる使い勝手の良さも実現しました。

プロジェクターやスマートグラスなど
他の液晶製品に派生

独自開発した液晶に加え、「06LC」は照明ランプも搭載しています。そのためお客様からは、「コントラストがはっきりとしている」「文字がクリアで見やすい」など、国内問わず海外からも含め、高い注目と評価を集めました。その結果06LC以降に開発されるデジタルウオッチの液晶は、LCD(液晶パネルに)が主流となりました。

一方、エプソンでは新たなデジタルウオッチの開発・製造に取り組んでいくのと平行して、ウオッチ以外の用途での開発にも着手していきます。テレビウオッチ(1982年)や携帯電話向け液晶モジュール(1993年)、液晶ポケットカラーテレビ(1984年)といった製品を経て、現在でも開発されている3LCDプロジェクター、スマートグラスなどのさまざまな製品で使われる液晶の開発につながっていきました。

エプソンが独自開発したFE液晶は、現在では「ねじれネマティック液晶(Twisted Nematic Liquid Crystal)」、通称TN液晶として広まり、エプソンに限らず、液晶ディスプレイをはじめとするさまざまな製品のコア技術として、活用・発展しています。

2019年には、世界初となる6桁液晶表示デジタル腕時計の開発に関する技術や、その後現在に至るまでの功績が認められ、国立科学博物館から「重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)」に登録・認定されました。