クオーツウオッチの設計・製造技術

世界初のクオーツウオッチを
開発した技術

現在、世界で製造されている腕時計の約96%が、水晶の特長を活用したクオーツ式、クオーツウオッチと呼ばれるものです。このクオーツウオッチの開発に世界で初めて成功したのが、セイコーエプソン(株)(当時・諏訪精工舎 以下:エプソン)です。
今から50年以上前の1969年のことでした。当時培われた技術は、その後も進化を遂げ、現在エプソンが手がける水晶デバイスや半導体デバイスの礎となり、コンピューターをはじめとした、デジタル制御の家電・携帯電話・自動車・産業機器など、さまざまなシーンで活用されています。エプソンが世に生み出した、世界初のクオーツウオッチの技術を解説します。

※一般社団法人 日本時計協会 2017年 ウオッチ生産数量(推計値)より算出

クオーツウオッチとは

人工水晶

水晶は電圧を加えると、安定した周波数の電気信号を発する特長があります。この特長を活用した時計がクオーツウオッチであり、水晶時計、あるいは単にクオーツと呼ばれています。

水晶時計が登場したのは1900年代後半です。それまで主流であった、ひげぜんまいばねを振り子として使用した手巻きや自動巻きの機械式時計に変わり、現在では最もポピュラーな時計として広まっています。

水晶の特長を活用しているのは、時計に限りません。パソコン、スマートフォンといった家電、自動車などの工業製品など。時刻を正確にカウントしたり、速度や動きの変化を捉える水晶デバイスとして、幅広い分野で活用されています。

クオーツウオッチの構造

クオーツウオッチの作動メカニズムを簡単に解説します。

まず、②の発振部におさめられている水晶振動子は①の電池から送られる電気で毎秒32,768振動という非常に高い振動を発します。

この振動は、③の分周部のICによって1秒間に1回の信号に分割されます。

さらに、この信号は④の変換部のステップモータにより機械的な回転運動に切り替えられ、⑤の指示機構で1秒間に1目盛ずつ動く1秒運針を行い、さらに、分針、時針と伝達されます。

クオーツウオッチの構造 クオーツウオッチの構造

登場すると瞬く間に広まった水晶時計ですが、課題もありました。安定したリズムを発生するには、温度を一定に保つ必要があったからです。そのため当初は恒温機能を有していたため、大型かつ高消費電力の時計になっていました。

そこでエプソンは、小型かつ低消費電力でありながら、クオーツウオッチの特長である高精度を実現する技術の研究開発に着手します。まずはオフィスの大型ロッカーほどの大きさであったものから、真空管をトランジスターに変更し、恒温槽の併設をやめ、可変コンデンサー(サーモバリコン)を用いた温度特性装置を開発し、持ち運べるサイズの水晶時計の開発に注力。東京オリンピック用公式時計の開発とも重なり、開発スピードは加速。1963年に、ポータブル型水晶時計『セイコー クリスタルクロノメータ QC-951』の開発に成功します。開発スピードはさらに増し、3年後の1966年には、懐中型のクオーツウオッチを発表。そして1969年に、世界初となる腕時計型のクオーツウオッチ『クオーツアストロン 35SQ』を世に送り出します。

水晶時計 中部放送局

1959年
水晶時計 中部放送局

クリスタルクロノメーター 

1963年
クリスタルクロノメーター

クオーツアストロン

1969年
『クオーツアストロン』

小型化を実現した3つのキーテクノロジー

クオーツウオッチの小型化を実現させたのは、エプソンが培ってきた精密加工技術
ならびにエレクトロニクス技術であり、特にキーとなった技術は次の3つです。

3つの技術

1.音叉型水晶振動子(世界初)

電圧を加えると発振周波数が得られる水晶の特長は、水晶振動子というデバイスの開発につながります。従来の棒状の水晶振動子から音叉型にすることで小型化し、安定した振動を得ることができました。しかし、量産では人工水晶から音叉型に加工することが難しく、切削や研磨中のひび割れがあり、振動子の周囲をフッ酸で溶かすリソグラフイーによる製造技術の発明によって、難題をクリアーすることができました。衝撃に対しては、真空カプセル内に振動子を吊るす方式を考案し、量産を実現しました。その後、電子回路の省電力化が進み、発振周波数は8,192Hzから32,768Hzとなりました。今日、この周波数は、水晶振動子を利用した多くの機器の時間標準原として定着しています。

水晶振動子

音叉型水晶振動子

クオーツアストロン搭載の吊り式の音叉水晶振動子
吊り型水晶振動子
標準腕時計用の音叉型水晶振動子
32,768Hzの水晶振動子

2.クオーツ式腕時計用CMOS IC

腕時計用IC

水晶振動子で発せられた電気信号は、機械的な回転運動に変換する前に、分周や駆動波形の成形をする必要があります。この工程を実現したのが、エプソンが独自開発した世界初となるクオーツ式腕時計用ハイブリッドICです。卓越した技術力を持つ人材が、セラミック基板上に手作業でトランジスター76個、抵抗84個、コンデンサー29個を合わせて189個もの素子をハンダ付けすることで実現したものでした。

開発はさらに進みます。今後、腕時計の拡大・安定化を実現するためには「CMOS IC」の安定供給が欠かせないと考えたのです。そこでICメーカーに製作を打診します。しかし「超省電力のため需要もなくできない」との回答が返ってきます。それならば自分たちで作ってしまおうと、CMOS ICの自社開発・製造に挑みます。その結果、1971年に超省電力時計用CMOS ICの開発・量産にも成功します。

エプソンが開発した腕時計用CMOS ICは、当時の一般的なICに比べ1/3から1/4の電力で動く特長を持つことから、時計のみならず、家電製品・コンピューター、携帯電話などの電子機器をはじめ、自動車など広く産業を支えるデバイスへと発展していきました。

クオーツアストロン搭載の
ハイブリットIC(1969年製)
ハイブリットIC
クオーツ式腕時計用CMOC IC(1971年製)
CMOS IC

3.超小型オープン型ステップモータ(世界初)

ICで正確に1秒1回のリズムに整われた電気信号は、最終的に私たちが目にする文字盤上の秒針・分針・時針に、各種歯車を通して伝わります。いわゆるモータです。しかし、従来の筒状型のモータではサイズが大きく、腕時計への搭載が難しいとの課題がありました。そこでモータの各機構を分割・分散配置する、新たなオープンタイプモータの開発に挑みます。こうして開発されたのが、コイル、ステータ、ローターを分離した、3体分離型の超小型ステップモータです。

新たに開発された超小型ステップモータは、機構の変更だけでなく、極細線コイル、高磁力ローター磁石、モータ駆動の最適制御方式なども採用。その結果、低消費電力化も実現しました。

超小型オープン型ステップモータ 超小型オープン型ステップモータ

世界で大反響。
時計史に革命をもたらした

セイコー クオーツアストロン 35SQ

『クオーツアストロン 35SQ』は、国内に限らず世界中で大反響となりました。機械式腕時計では、それまで高精度な製品であっても日に20秒ほどの誤差が生じていたのに対し、およそ100分の1、日差0.2秒(月差±5秒)という精度を、腕時計サイズで実現したからです。反響は、海を渡ったアメリカのニューヨークタイムズ紙でも記事が掲載されるほどでした。時計史に新たな革命をもたらした製品、「ア・レボリューション(1つの革命)」との称賛記事を紹介した外国メディアもありました。

また『クオーツアストロン 35SQ』は技術だけでなく、電池交換が簡便に行える電池蓋形式を採用したり、ムーブメントを丸型にすることで格調高い外観を実現するなど、従来の腕時計にはない斬新なアイデアやデザインであったことも、世界で高い評価ならびにインパクトを与えた要因でした。

技術を公開し社会に貢献

その後エプソンは、クオーツウオッチに関する技術特許を公開します。その結果、アナログクオーツウオッチは全世界に普及。現在、世界で製造されている腕時計の約96%が、クオーツ式となりました。つまりエプソンの技術が、世界各地で多くの人々が正確な時を手にすることのできる社会を実現したと言えるのです。

このような技術ならびに特許公開などの業績が評価され、エプソンのクオーツウオッチは数多くの賞を獲得するなど、名実ともに日本を代表する技術として、誕生から半世紀以上経った現在でも、高い評価を得続けています。

  • 革新企業賞:米国電気電子技術者協会(IEEE)/2002年
  • マイルストーン賞:米国電気電子技術者協会(IEEE)/2004年
  • 機械遺産登録:日本機械学会/2014年
  • 重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産):国立科学博物館/2018年

3つのキーテクノロジーはその後もさらに研究開発が進み、さらなる小型化・省電力化と高性能化を実現。現在のエプソンの水晶デバイス事業、半導体事業へと発展していきました。また開発のキーワードであった小型化・省電力化は、現在も続くエプソンのDNA「省・小・精の技術」として、連綿と受け継がれています。

※一般社団法人 日本時計協会 2017年 ウオッチ生産数量(推計値)より算出