2021年・第1期(第24回公募選考会)選考委員評

選考の様子

選考会の様子

選考委員
上田 義彦氏
(写真家 多摩美術大学グラフィックデザイン学科教授)
速水 惟広氏
(T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO(東京国際写真祭)ファウンダー)

2021年11月~2022年3月までの期間にエプサイトギャラリーにて写真展を開催する作品を選出する公募展選考会を行い、5組の出展者を決定しました。選出された作品と選考委員のコメントは以下のとおりです。
また、今後応募を希望される方へ選考委員からのアドバイスを掲載していますので、こちらもご覧ください。

選出作品(50音順)

齊藤 小弥太「Physis」

齊藤 小弥太「Physis」

産業廃棄物や違法残土からなる小山があった。その小山の斜面には長い年月の間に草木が生い茂り、緑豊かな様相をみせていた。
しかし近年、小山一帯は再開発地域に指定され、緑の覆われた斜面は更地となっていった。
ある日ふと思い立ち、更地となった地面の上に過去の光景を投影した。
暗闇に淡く浮かび上がるその姿は、また遠い未来に生成されるであろう自然の姿を感じさせた。目には見えずともそこに在り続ける生成の力「Physis」を表現しようと考えた。

【プロフィール】
齊藤 小弥太 Koyata Saito
神奈川県横須賀市出身
日本写真芸術専門学校海外フィールドワーク科卒業
2013年「永遠の園」新宿/ 大阪ニコンサロン
2019年「サンディマンディラム -終の家-」キヤノンギャラリー銀座 / 大阪
他、展覧会多数
https://www.global-image.photography

【上田氏 評】
開発によって更地になって行く地面に、かつて同じ場所で撮影した森の風景を重ね合わせたコンセプチャルな作品。遠い未来には、同じような森にかえって行くだろうという暗示を含んでいるのがユニークだ。それだけに、この作品を大きくプリントしたときにどういった印象になるか興味深い。ただ、手法が斬新なだけに、未知数の部分も大きいが、そうしたチャレンジに対する期待も込めて選出した。点数を絞りつつ、できる限り大きくプリントして没入感のある展示にするなど、作者の独自の世界観が実感できるような工夫がされた展示になればと思う。
【速水氏 評】
デジタルならではといえる表現手法で、多少、飛び道具的な印象はあるものの、作者の意図が明確に読み取れる作品になっている。その意図するところも、開発に対して過度に感傷的になるのではなく、いずれは、また森にかえって行くはずだという、循環の視点で捉えられているのも良いと思う。問題は、上田先生も指摘しているように、どのように展示するかだと思うが、写真点数を欲張らずに、制作意図が明確になる方向で構成すれば、見応えのある展示になると思う。今回の展示だけでなく、今後の展開にも期待している。

ナガタダイスケ「view from the desktop」

ナガタダイスケ「view from the desktop」

写真を見返していると、妙な角度の車の存在に気がついた。
気になって拡大してみると、見た事のない写真になった。これは面白いと感じ、もっと写真から遠くしてみようと試みると、奇妙な写真が出来上がった。
この絵みたいな写真は、描くことが苦手な自分を画家のような気分にさせた。屋上へ行って撮影し、デスクトップ上で拡大していく。
写真が有している記録性を削ぎ落としてもなお、この絵はまだ写真であると思わされる。
この制御しきれなさが、僕が写真に惹かれる理由の一つだと考える。

【プロフィール】
ナガタダイスケ Daisuke Nagata
1994年 静岡県生まれ
2017年 東京造形大学写真専攻卒業
https://nagatadaisuke.com
https://www.instagram.com/_nagatadaisuke/

【上田氏 評】
新鮮さが感じられる作風で、今後の展開にも期待したい1人。今回の展示が上手く行ったなら、独特の手法としても長く続けられるものではないかと思う。普通に撮っただけなら、何ということのない日常の都市風景を、拡大処理することで印象的に仕上げている。本来、選ばれない(あるいは、選べない)瞬間やシーンを、後処理を加えることで選んでいる面白さがある。展示に関しては、ある程度大きくプリントすることで、初めて本作の面白さが見えてくると思う。どこまで破綻なく大きくプリントできるのか、といった点でも展示が楽しみな作品だ。
【速水氏 評】
写真としては、これまでに見たことのない作風だ。デジタルカメラで撮影の後、極端に大きくトリミングし、ノイズ処理を過度に適用することで画面全体を意図的にぼやかすという手法は、超高画素なデジタルカメラの時代にあって、デジタルで何ができるかを作者なりに突き詰めた結果なのだと思う。拡大することで平面的、あるいは絵画的な方向に寄せつつも、写真としてギリギリ成立している画の持つ面白さは魅力的だ。展示では、その写真としてギリギリ成立しているカットを慎重に選び出し、できるだけ大きくプリントして、その面白さを際立たせてほしい。

平岡 尚子「Matters」

平岡 尚子「Matters」

私にとって写真を撮ることは、目の前に起こる現象と対話すること。
光と物質によって見えてくる現象と時間を、自らの感情と共に拾い上げていく。
Mattersは、2016年から2021年の間に私の身の周りで起きた出来事を集めたものである。
日々を編み込んだ先に、どんな存在の輪郭が立ち上がってくるのか、
その世界を見たくて、今日もファインダーを覗く。

【プロフィール】
平岡 尚子 Shoko Hiraoka
1988年生まれ 多摩美術大学環境デザイン学科卒業。
大学在学中、ドキュメンタリー映像撮影をきっかけに「記録」に興味を持ち、
写真・映像撮影を始める。2011年に同大学を卒業後、撮影スタジオなど数社を経て
2016年より上田義彦に師事、2020年独立。
https://hiraokashoko.tumblr.com/

【上田氏 評】
応募作品はスティルライフや日常風景とポートレートの組み合わせになっているが、特にポートレート作品に強く惹かれた。自分の見ている距離感そのままに写真が撮られていて、被写体との親近感が感じられ、作者が好ましく思っている人たちを素直に撮っている様子がストレートに伝わってきた。具体的には、家族や身近な人が撮られているなど、大切な瞬間、瞬間が丁寧に撮られていて、作者がうれしさに溢れながら撮っているその場の経験を共有できているかのように感じる。惹かれているものに直感でカメラを向けていることで、写真を見ている人も作者と同じ経験をしてしまうのだと思う。
【速水氏 評】
作者は、作品のテーマを問わず、どんな写真でも撮れるタイプの方だと思う。1点1点の写真のクオリティーが非常に高く、提出されたプリントがとても美しかったのも目を引いた。少なくとも写真を作品化する力においては、今回応募いただいた数多くの作品の中でも、トップクラスだと思う。応募作品では、ポートレートにせよ、スティルライフにせよ、写真家としての強さが感じられ、高い次元で写真の均質さが保たれている。全体のトーンも統一されているなど、作品づくりの丁寧さにも真摯さが感じられ好印象であった。

森田 剛史「H21.09.09- 紀ノ川」

森田 剛史「H21.09.09- 紀ノ川」

「故郷と家族のことを知りたい」。その気持ちで作者と祖父母が小旅行を続けてきた10年間の軌跡。
静かに、頑なに立つ祖父の佇まいと作者の関係性が「紀ノ川」を通じてひとつになる。

【プロフィール】
森田 剛史 Takeshi Morita
1990年生まれ 和歌山県和歌山市出身 神奈川県横浜市在住
2013年 個展「肖像Ⅰ/planar」(中野J3gallery )
2014年 個展「キノクニ」(新宿ニコンサロン、大阪ニコンサロン)
2016年 個展「続 きのくに」(新宿ニコンサロン、大阪ニコンサロン)
2016年 三木淳賞奨励賞受賞
https://takeshi-morita.photo

【上田氏 評】
タイトルにもあるように長年撮影を続けることで見えてくる、作者と祖父や祖母(被写体)の関係性が感じられ、見る人がそれを追体験できる作品だ。作品の被写体である祖父母と作者は、17年間の時を経て作者が初めて会ったという経緯を経ているが故の、独特の距離感を保って写されていて、それが、本作の持つ不思議さにつながっている。特に祖父の写真は、祖父の記憶のある場所で撮られていて、作者は、それらと対峙するかのように撮影を続けている。お互いにあえて踏み込まない、距離感や関係性がそのまま写真に表れているのが特徴的で、本作の魅力の1つになっている。
【速水氏 評】
物語としてのインパクトがあり、作者にしか撮れない作品になっている。おそらく、作者は長年1つのテーマに絞って撮っていると思われ、だからこその強さが際立っている。ただ、応募作品には情緒的な写真も多数含まれ、それが作品の魅力を削いでしまっているようにも思う。展示では、被写体との距離が一定のものを選ぶなど、少しコンセプチャルな視点で写真を整理することを提案したい。もし変化が必要なら、被写体に近寄った写真を入れるなど、最低限の変化に留めることで、作者自身もこれまでとは少し違った視点で作品を捉えられのではないかと思う。

山口 梓沙「I KNOW IT'S REAL, I CAN FEEL IT.」

山口 梓沙「I KNOW IT'S REAL, I CAN FEEL IT.」

いつも何度も見ているものを新しく見つめ直す為に、
生活圏内にある身近なモチーフを撮影しています。

簡単なモチーフでも、隣り合う組み合わせや、前後の配置、反復など、意図的な編集を行うことで、写真がお互いに共振しあい、複雑なイメージが立ち現れます。
1枚の写真が持つイメージをどこまで拡張出来るのか、その可能性を探ります。

【プロフィール】
山口 梓沙 Azusa Yamaguchi
-受賞
2017年 キヤノン写真新世紀 優秀賞 清水穣 選
-主な展示
2021年 ディスディスプレイ -CALM&PUNK GALLERY(東京)
2020年 夏日离別 -明写館(中国)
2019年 showcase #8 共振体−Resonators -eN arts(京都)
https://azusayamaguchi.com

【上田氏 評】
被写体が感覚的に捉えられ、肌触りなどを実感しながら、それを表現すべく撮影していると感じられる作品。作者は、いわば「触覚」で写真を撮っているのではないかと思う。内容的には、作者が好ましいと感じている、お爺ちゃんという存在と私という存在を同調させようとする願望を表現したいのだと思う。そして、作者の友人なども含め、人との関係性が生きるためのエネルギーになっているのだと感じられる。加えて、何か特別な意味を持っているわけではないが、日常の何気ない時間の中で無性に惹かれてしまう事物や瞬間を作者が絶妙に捉えている点に奥深い力を感じた。
【速水氏 評】
写真が良いのはもちろんだが、展示プランも完成されていて、作者の写真を編集する力の強さが、本作に惹かれた最大の理由になっている。瞬間の切り取り方が個性的で独特な作品なのだが、縦位置の写真を上手く使うことで、写真をつないで編集する上での行間のような効果を生み出しているのは秀逸。これにより、リズム感や流れができている点も良い。提出された展示プランでは、応募作品から写真をさらに削ぎ落して点数を大胆に絞っているのだが、内容的に重複や無駄がなく、配置も含めて、ほぼこのまま展示できる完成度に仕上がっている。

選考委員総評

  • 上田氏
    選考前は、数多く応募された作品の中から5作品のみを選ぶのは難しいと感じていた。しかし、選び終えてみると実力のある作家や個性的な作家の作品が揃い、かなり面白い展示になるのではないかと期待する気持ちで選考できた。選ばれたのは、個性的なストーリーや思索が感じられる作品ばかりなので、展示を見ながら、それらを読み解くのも面白いと思う。選外になった作品もレベルの高いものが多く、今後また挑戦してほしいと思うが、最終的に残った作品で注目してほしいのは、見た目の面白さを狙い過ぎたものや表現のための表現になってしまったものが残っていない点。これは、作者の思いや考えが、被写体との関係性などから素直に伝わってくる作品のほうが、魅力的に感じた結果だ。
  • 速水氏
    結果的に、比較的若い作家も多く、実力派から新しいチャレンジをしているものまで、バランスよく幅広い作品が揃ったことで、見ごたえのある展示になるのではと思う。個々の作品ごとに見ても面白いが、今回の5つの作品は全体をとおして見ても、作者のスタンスの違いや狙いの違いなどが見えてきて面白いはずだ。展示に関しては、展示プランがしっかりと練られている山口さんを除いて、どのようなものになるか、審査段階では未確定要素が多くなっていると感じる。今一度、セレクトをしっかりと行って、作品の大きさなども入念に検討し、表現したいことのベクトルを明確にすることで、さらに見ごたえのあるものに仕上げてほしいと期待している。

選考委員からのアドバイス

  • 上田氏
    この公募では、応募時の写真点数を30点程度と目安にしていますが、重要なのは写真点数ではなく、伝えたい内容と写真、展示方法などが合っているかだと思います。伝えたい内容と写真については、コレクション的に形式を追い求めたり、不用意な画像加工を行ったりすることで、表層的な表現にならないように注意することが重要です。展示方法は、無理に点数を増やしたものよりも、セレクトや構成を十分に練って、シンプルかつ大胆な展示にしたほうが、比較的好ましい結果につながりやすいと感じます。
  • 速水氏
    応募作品のレベルが徐々に高くなってきており、作品ジャンルも多岐に渡ることから、選考の難易度も上昇してきています。そうした中で差が付くのは、作品内容はもちろんですが、展示プランの綿密さが重要だと感じます。もちろん、作品内容が圧倒的に優れていれば、その作品が選ばれる可能性が高いと思いますが、差が少ない中で選ぶ場合などには、提出いただいた展示プランも参考にすることになります。必要な写真点数やセレクト、プリントサイズなどの目安にもなると思いますので、応募の際は展示プランも十分に練っていただけたらと思います。