セミナーレポート

NEW PHOTO FORUM 2013 セミナーレポート

根本タケシセミナー

記録メディアから、想いを解き放とう!根本流プリントテクニック

第1章:作品づくりはコミュニケーションで上達する

デジタルプリントは誰もが同じものをつくれるわけではありません。自分の好みや主張を持つことで、自分だけにしかできないプリントをつくりあげることが出来ます。本セミナーは写真家 根本タケシ氏にオリジナルのプリントをつくるための作品づくりから、プリンターの使いこなし術を紹介していただきます。

根本さんは早稲田大学を中退し、東京写真専門学院を卒業後、広告写真家として活躍され、20年ほど前からデジタルワークフローを構築し、デジタルでの原稿入稿やプリントを実行する傍らデジタルプリントのセミナーなども積極的に行っていらっしゃいます。また、学校法人日本写真芸術専門学校の主任講師として若手写真家の育成にも力をそそいでいます。

はじめまして根本と申します。今回は「記録メディアから、想いを解き放とう!根本流プリントテクニック」ということで、お話をしたいと思います。はじめに、私の略歴からお話しさせていただきます。私は写真の世界に入ってしばらくは広告を中心とした仕事をしていました。当初は自分の作品も撮っていましたが、仕事が忙しくなるにつれ作品づくりから少し離れてしまいました。ですが2005年頃、話のいきがかり上ということもあって「深川散歩」という写真展をやりまして、そこから再び本腰を入れて作品づくりをやるようになりました。また、現在は日本写真芸術専門学校で学生にスタジオワークなども教えています。

さて、当今は空前と行っていいほど写真が盛んな時代です。誰もがいつでもカメラ(携帯電話、スマホのカメラを含む)を持ち、気になったものにカメラを向けパチリとシャッターを押す、メディアが安価で手軽になったせいもあるのでしょうが<シャッターを切ること>が特別な行為では無くなっています。しかも、これがけっこう綺麗に撮れているのです。カメラが手の届きにくいほど高価で、仮に、持っていてもなかなか思うように写らなかった時代からは想像もできません。しかし、毎日沢山の写真を撮るようになったにも関わらず、プリントで残している人はあまり多くありません。
何故なのでしょう?
渋谷の街角で、スマホを構える女子高生に「そんなに沢山撮ってメモリーがいっぱいになったらどうするの?」と聞いたら、「いっぱいになったら古いのから消していく」「いっぱいになったら新しいメディアを買う」という答えが返ってきたそうです。驚いた事にシャッターを切ったときにモニターを確認するだけで「保存した画像データをあとで確認する事はほとんどない」そうです。これは、私の教えている写真専門学校の学生でも似たようなものです。

デジタル時代になって写真のレベルが落ちたと嘆く人がいます。その人に<写真が上手になるコツ>を尋ねると<写真を沢山撮る事>と言う答えが返ってきます。
これって結構矛盾した意見にみえます。
デジタル時代が進化して、機材もメディアも手に入りやすくなりましたので、記録すること自体は容易にできるようになりました。毎日大量のシャッターが切られ写真データが蓄積されています。しかし、デジタルフォトのワークフローでは、シャッターを切っただけでは写真を撮ったことになりません。あくまでもデータを収集しただけです。
そもそも、写真は人に見せることで初めて成立します。これは、アナログであれ、デジタルであれ同じ事です。特に、デジタルフォトで自分が見たもの、感じたものを人に見せていくには、プリントが不可欠です。これからは是非、「自分の撮ったデータから、自分の想いを引き出すプリントをして人に見せる」という意識をお持ちになっていただきたいと思います。

写真が上手くなるには、テーマづくりや撮影テクニックを身につける必要があります。ですが、これは机の上で勉強するだけが方法ではありません。きっかけは身の回りに沢山あります。

たとえば表現テクニックを身につけるきっかけということでお話をしてみます。
僕の場合は、撮らせてもらった写真を出来るだけ早い時期にプリントして被写体になった方に差し上げているのですが、はじめの頃は「ありがとうございます」といいながら、プリントを持って帰るのを忘れてしまう方も多かったのです(笑)。しばらくして相手との関係が良好になると、写真が少し生き生きしたものに変わり、ちゃんと持って帰ってくれるようになりました。さらに続けて思いを込めた撮影をしていくと「この写真をください」と言ってくれるように、さらには「売ってください」なんて言われるようになりました。

プリントをして人に見せていくことで、「自分の写真の内容がステップアップしているな」と肌で感じることができるのです。また、撮影テーマについても、僕は東京の深川という街を作品づくりのひとつの拠点にしていますが、スナップショットは昨今、肖像権など色々面倒な問題もあり、なかなか撮り難いとされています。しかし、そこにいる人と写真を通して関係を持つことで、自分がこれまで見られなかったお祭りの準備風景を見ることができたり、そこから新しいテーマの発見につながったり、というきっかけを得ることができます。当然撮影の許可を貰いながら、相手との信頼関係を築きながら撮影していくことで、肖像権の問題もクリアすることができます。このように、写真作品のテーマやテクニックを身につけるきっかけは、全て撮影の現場にあるのです。そして、大切なのはコミュニケーション。写真は出来上がったものを見せてコミュニケーションをとるだけではありません。声をかけながら撮影していく過程でつくり上げるコミュニケーションも重要ですし、写真の楽しみのひとつと言っていいでしょう。単純な方法に見えるかもしれませんが、コミュニケーションこそテーマやテクニックをステップアップさせる大事な要素なのです。