セミナーレポート

NEW PHOTO FORUM 2012 セミナーレポート

戸澤裕司セミナー

人物・ドキュメンタリー写真を仕上げる

第3回:物語の発見と相手との距離感、プリントの大切さを自覚することが作品につながる。

写真家戸澤裕司氏「人物・ドキュメンタリー写真を仕上げる」最終回。 写真展「カジマヤー(風車祝い)~島人をめぐる断章~」の展示構成から作品づくりの上で大切な心構えをレクチャーしていただきました。

写真を全てプリントしたらいよいよ構成です。
写真は1枚だけですと伝えられるものが限られています。何故それを撮ろうと思ったのか、その写真で何が言いたいのかっていうことが、なかなか伝わりにくいのです。
写真は何枚かを組で見せてはじめて豊かなストーリーを作り上げます。ですので人に見せる場合の並べ方はおのずと重要になっていきます。
僕の写真展「カジマヤー」ではひとつの壁に粟国島へ凱旋した時の写真だけをまとめています。

で、その後お母様が亡くなられてからの写真が出てきて、一番最後の洗骨のシーンは9枚でひとつの写真にしました。

ここではひとりの死というものが特別なものではなく、全部実質的なものだということを表現したのです。
そして最後は海の写真ですが、島から帰るフェリーの甲板から撮った逆光に輝く海でしめました。
この時波の向こうにこちら側の世界と向こうの世界の両方が垣間見えるような気がしたんですね。

この思いを最後に展示しました。
このように写真は撮ってる時に物語をどうやって見つけ、それをどうやって紡ぐかっていう話になると思うんですが、展示はそれをどのように見せるかが大事です。
どうやって見せるかを工夫することで、そこには作者の思いが乗り移るのです。

少し脇道に反れながら解説して来ましたが、最後は少しまとめていきます。
ドキュメンタリー写真の撮り方のポイントは「物語の発見」と「相手との距離感」の2つです。
自分が撮りたいと思ったものの中にどういう物語があるのかを発見する。それはどんなに小さいことでも何でもいいんです。
とにかく自分が納得して撮っているかどうかが大切です。そうして、撮らせてもらうものとの距離感です。
それがちゃんと見る側に伝わるように撮っているかどうか。そこがもう一つ大きなポイントだろうと思います。
表現者としての写真の力っていうのはこの2つがあって、そこから始まることだと思います。

そして、最後の最後でもう一つ言いたいことは、「自覚する」です。
2011年の三陸地震の現場には僕をはじめ他にもたくさんの表現者達が入ったり、入らなくても自分のいる場所で震災以降目覚めたっていう方が非常に多くいらっしゃいます。
写真というメディアでの僕の自覚は「プリント」でした。
震災の現場に行くと、どの避難所にも入口にカゴがあって、その中にみんなが拾い集めたアルバムや写真がごっそり入っていました。

で、それを避難所の人たちは一日中ずっと自分の写っている写真がないか、自分の知り合いが写っている写真はないかと探していたのです。
それは写真を生業にしている僕ですら「プリントってこんな大事なものだったんだ」と痛烈に自覚させられた体験でした。
今はデジタルカメラで撮るようになってハードディスクやメモリーカードの中に保存していることが多いと思います。
でももし今何かがあったら、一瞬で失われて消えちゃうんです。
やはり、小さいサイズでも失敗でもいいからプリントにして残していかないときっと残らないんです。
現在被災地では汚れた写真を洗浄し持ち主に返すボランティアが活動していますが、作業をしている方に聞くとエプソンのインクジェットプリンターで印刷したものが、洗浄した時に一番痛みにくいそうです。
銀塩フィルムから作ったプリントの方が長持ちして頑丈かなって思うじゃないですか?でも銀塩プリントはバクテリアにやられて弱いそうなんです。
皆さんはご家庭にそういった何かあった時にも残すことのできるプリンターを持っています。
映像もひとつの財産です。ちょっとでも気になった写真っていうのは一回プリントして、それで手元に残しておいてほしいと思います。
こうした写真の力や大切さを自覚することがドキュメンタリー写真、ひいては写真作品をつくる上でのポイントになってくるんじゃないかと思います。