セミナーレポート

NEW PHOTO FORUM 2012 セミナーレポート

戸澤裕司セミナー

人物・ドキュメンタリー写真を仕上げる

第2回:人間の生と死を最後の最後まで見ることでできた命を紡ぐ物語「カジマヤー」

写真家戸澤裕司氏による「人物・ドキュメンタリー写真を仕上げる」。
今回は写真展「カジマヤー(風車祝い)~島人をめぐる断章~」を撮ったいきさつと展示作品制作の舞台裏についてです。

人物のドキュメンタリーは「フォトストーリー」という言葉でよく表現されますが、これはユージン・スミスという写真家が「Country Doctor」というシリーズを発表した時に編み出した手法でした。
ひとりの具象に対して、ある一定の時間をかけると一体何が見えてくるのか、物語をどうやって紡ぐのか、という手法です。
それが現在週刊誌などでもグラビアページで一般的に使用されています。

この手法をそのまま利用してまとめた私の作品が、エプソンのギャラリーepSITEでやらせていただいた写真展「カジマヤー(風車祝い)~島人をめぐる断章~」です。

カジマヤーは沖縄の言葉で、風車のことです。数えで97歳の誕生日を迎えると、沖縄では長寿のお祝いとして、カジマヤーという盛大なお祝いを行います。
これが、沖縄では人生で一番大事なことなんですね。
たまたま雑誌の沖縄取材の際に知り合い、それ以降も仲良くさせて頂いて、撮り続けることになった仲里さんという親子がいたのですが、そのお母様がカジマヤーを行なうところから写真展はスタートします。
カジマヤーのお祝いにお母様のふるさとである沖縄の離島、粟国島へ何十年振りに連れて帰るというプレゼントをしたのです。
写真展のDMの写真は仲里親子が粟国島に凱旋している時のシーンです。

ところが、2005年に100歳を目前にしてお母様が亡くなられます。那覇でお通夜と告別式を行い、その後棺に入れたお母様をお墓のある粟国島へ連れて帰ります。
島では離島の特例で洞窟のようなお墓がありまして、その中に棺ごと安置して火葬をせずにお墓に埋める風習が続いていました。
それから7年経ちますと「洗骨式」という、棺を再び開けて、お骨を綺麗に洗って納骨するという儀式があります。
ここまで来てはじめて喪が明けるそうなのですが、この写真展ではひとりの人間の生と死を記録したドキュメンタリーとなっています。
たまたま知り合った親子ですが、図らずも最後の最後まで見ることで命を紡ぐような物語が出来上がったというものです。
写真展はepSITEで終わった後、一部を抽出して東京築地の聖路加看護大学で展示しました。

展示作品の制作の話に戻します。 この展示をする時に苦労したのは、長い時間を掛けて撮ってきたという点でした。
一番始めに撮りはじめたのは1990年代の末ぐらいからでしたので、フィルムカメラでした。
しかし時間が経ちお通夜から洗骨のシーンを撮っている時はデジタルカメラです。
フィルムとデジタルで撮ったものをひとつの写真展というパッケージにする時に、プリントを一定のトーンに合わせる作業をしないとどうしてもまとまりがつかないのです。
フィルムカメラで撮ったプリント、デジタルカメラで撮ったプリントとはっきり分かってしまうと、どうしてもそっちの方に意識が行ってしまい写真の中に入り込めないのですね。

ですから、全体の統一感っていうのをもたせる為にフィルムをスキャンし、ベルベットファインアートペーパーという紙でプリントしました。
表面にざらっとしたテクスチャーの光沢の無い紙なんですが、立体感がものすごく出るんですね。

そうすると、空気感や質感なんかがうまく表現でき、かつフィルムとデジタルという媒体の違いも乗り越えてくれる仕上がりになりました。

しかしフィルムを仕上げるのは本当に大変でした。 何せ展示するフィルムを十何年後にきちんとスキャンしてデータ化しようとした時に、目に見えないような小さなカビのようなものが邪魔をしてきちんとスキャンできない部分ができたり、退色も既に始まっていました。 それをもう一度元に戻す作業に、かなりの時間を費やす必要がありました。