セミナーレポート

NEW PHOTO FORUM 2012 セミナーレポート

岡嶋和幸×松平光弘セミナー

写真家が語る 写真展までの作品制作

第3回:光を感じ、何を表現するかを突き詰めることはプリントだけではなく作品制作活動全てに関わってくる

写真家岡嶋和幸氏、プリンティングディレクター松平光弘氏による「写真展までの作品制作」の最終回。
今回は松平氏による「画像調整」です。
岡嶋氏と撮影時の光を共有してきた松平氏がそれを具体的に作品仕上げの作業に落とし込みます。

■松平
では具体的なプロセスをご紹介します。
この写真は「岡嶋和幸 九十九里」展に実際に展示した写真ですが、まずはRAWデータを現像し、そのあとに全体を調整。
最後に部分的な調整をするという流れで行ないました。これは女性がお化粧をする時の流れと一緒です。
RAWデータの現像ですが、これは岡嶋さんとのやり取りの中で『「デーライトフィルム」を使っている感覚で撮った』と言っておりましたので、おおよそ5000kくらいに設定しました。
よくプロのプリンターはすごいテクニックを使っていると思われがちですけど、実際はそんなことはありません。
ごく簡単な作業です。現像の時にいじっているのは「黒レベル」と「レンズ補正」です。
少し全体が緩い感じがしましたので「黒レベル」で黒をしめ、「レンズ補正」でレンズの歪みをとり、周辺露光の補正をしたくらいです。

■岡嶋
ごくシンプルですよね。画面に写真を表示して、そこに自分が求めている光が写っていれば特にいじることないんです。
これだけたくさんの機能がありますので、ついつい何か操作しないといけないんじゃないかと思われる方も多いのですが、何もしないというのもひとつの大事な判断です。

■松平
そうですね。僕はプリンターという仕事をしていますので、よくPhotoshop®でたくさんのレイヤーを使って作業をしていると思われることが多いのですが、やっている操作はきわめてシンプルです。 岡嶋さんの場合、作業をする前の打ち合わせで目的を共有しましたので、最小限の作業で仕上げることができました。
現像が終わりましたら、次にPhotoshop®上で調整をしていくわけですが、まずは全体調整です。

何をしたかというと、調整レイヤーでトーンカーブを選択し、画面の下の部分を暗くしました。
先ほど「黒レベル」で落とした部分ですが、さらに落としたわけです。これは波の立体感をより出したかったからです。
そして画面全体の彩度を下げました。
これも岡嶋さんとのやり取りの中で『写真は撮った時点で過去のものになる。しかし見ている人によって現在だったり未来だったりと時節が変化していく』と言っていた言葉を思い出し、その辺の雰囲気を出す為に彩度を落としました。 もとの写真も彩度は低めなのですが、もう少し下げることで普遍的なものというイメージを出しています。 これで全体的な調整は終わりです。

ここから部分的な調整に移っていきます。まず画面の真ん中の波をより強調したいということで、写真の下部分をさらに暗くしました。 こうして見るとかなり画面中央に目がいくようになりますよね?でもちょっと全体を見ると画面左に比べて画面右上と右下の方が少し明るめに写っていることに気がつきました。
これはおかしいことではなく、撮影時光が右から射していたわけです。
そのままでもいいのですが、ここは写真全体がよりしまって見えるようしたいと思いまして、右上および右下を若干暗くしました。
これで完成です。調整前の写真と比べるとこのような違いがあります。波にぐっと目がいくようになったかと思います。

■岡嶋
今回松平さんとプリントを仕上げる中で気がついたことは、大きくプリントする際に、晴れの時に撮った写真と曇りの時の写真とではプリントした時の変化の仕方が異なる感じがするということでした。
大きくプリントするということは、高い倍率で拡大するということになりますので、当然データの密度が低くなります。
結果見た目の印象が少し明るい印象に仕上がったりします。

■松平
そうですね。同じデータでもプリントサイズによって明るさや色の雰囲気は変化しますね。

■岡嶋
曇りに撮った写真は大きくプリントしても撮影時の雰囲気を比較的踏襲してくれましたが、晴れた日の写真は実際の陽射しの強さがちょっと弱まって出てくるように感じたのです。
そのあたりをプリントで補うためにレタッチで調整しました。

■岡嶋
今松平さんがやってくれた作業は目的やゴールがあって、それに向かっていくための作業でした。 これはフィルムの暗室作業とまったく一緒です。大切なのは完成のイメージを明確に持つことです。 どういった写真に仕上げたいのか、どういった光を再現したいのかといった思いがそれにあたります。 しかしこれは何も撮影後の仕上げ作業の話だけではありません。どういう光を表現したいかを明確にすることで例えば撮影する時間帯や天候は決まってきます。 また同じ時間帯や天候でも順光で撮るか逆光で撮るかでコントラストなども変わっていきます。 ようするに完成のイメージを持つということは撮影から仕上げまでの全体に関わってくることになるのです。 よく曇りの日に撮った写真をRAW現像で様々なテクニックを駆使して晴れた日のように加工する人もいますが、結局それもどこか不自然なところが出てきてしまいます。 撮影時の露出も然りです。あとで補正が出来るからといって撮影時に適当にやっておきますと結局完成のイメージに到達できません。

■松平
光を感じ、何を表現するかを言葉で突き詰めていくことはプリントだけではなく撮影、すなわちに常に「光」でつながっているわけですね。

■岡嶋
最近のデジタルカメラのテクノロジーはどんな光でも、ある程度綺麗に撮れるようになりました。
しかしその反面撮り手の光に対する感度のようなものは落ちていってしまっていると思います。
モニターですとTVを見ている感覚と同じで光を意識することは難しいです。そのためプリントすることで光を再認識する。
そしてプリントから再び撮影にいくということが大切なんじゃないかと思います。
光はプリントにすることではじめて意識することができるのです。