セミナーレポート

NEW PHOTO FORUM 2011 セミナーレポート

吉田繋セミナー

「コンセプトから考える、写真の追い込み方」 ~和紙や光沢紙などに合わせた加工術~

プロ写真家といってもいろんなジャンルがあります。
僕は今、53歳です。大学卒業後に写真の世界に入り、30歳過ぎから自然に興味を持つようになりました。そして、50歳を過ぎた頃にニューヨークで個展を開催しました。そこで海外のギャラリーやアート市場に接したのですが、かなり日本と違うことに気づきました。日本では特にコンセプトがないままに写真を撮っている方も多いのですが、海外に行くとコンセプトを問われる機会が非常に多いのです。
そこで、コンセプトとは一体何なのか?どうやって写真を組み立てるのか、また、コンセプトを生かした用紙選びや補正のテクニックなどをご紹介したいと思っています。

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1. よい写真って、何だろう

「評価の高い写真とは?」 欧米アートフォト市場で求められるもの

「いい写真」とは何なんでしょうか?
僕は以前、写真コンテストの審査員をやりました。ある写真について好き嫌いを言うことは簡単です。でも、「風景、飛行機、ポートレートの写真のどれがいい写真ですか?」と問われても、答えようがありません。僕の個人的な印象ですが、こういう状態がまさに今の日本の写真界を映し出しているように思えるのです。
そこで、「評価の高い写真の基準」について、海外のアートフェアの世界を例にとって紹介したいと思います。

海外のフォトフェスティバルではアジア、アフリカ、ヨーロッパ、南米といろんな人種の人が集まってきます。異なる文化や価値観を持っている人たちが集まると、やはりさきほどの日本のコンテストと同じ状況が起こるんです。例えば、「アフリカ部族のダンス」と「アメリカの飛行機レース」の写真を横に並べて、どちらがいいかなんて分からないですよね?その時に重要とされてくるのが「コンセプト」です。

一方、日本はというと「コンセプト」より「被写体」優先なんですね。風景、人物、鉄道など何にしろ、評価軸が決まっていることが多いんです。これは非常に日本的です。なぜかというと自分が持っている価値観と、写真を見る人が持っている価値観が同じだからです。例を挙げると、日本人だと虫の声が風流だ、という感覚や共通認識がありますが、外国人には雑音にしか聞こえない場合が多い。つまり、海外ではまったく違う価値観の人に写真を見せるのが大前提にあるのです。

そこで3つのポイントが大切になります。

コンセプト「こういう思想で」 テーマ「何を表現したくて」 モチーフ「何を撮影するか」

撮影の前段階に「こういう思想がある」「愛情を表現したい」という意図があり、それを表現するためにどんな被写体を撮影するか、ということにつながるわけです。日本ではまずモチーフ(被写体)があって、そこにどんな思想があるかは必要ないことが多い。
「自分はそうじゃない」という人もいらっしゃるかもしれないのですが、思想性を感じさせたり、意図が明確になった写真は意外に少ないように思っています。

僕はこの3つのポイントを意識することで、写真自体のバランスを形作っていきたいんです。

コンセプトを明確にした作品作りの過程

それでは今年作った僕の作品を通して、具体的に説明していきましょう。

東日本大震災発生後、大勢の海外ギャラリストに会うたびに「2万人もの人が命を落としたのに、お前は何もやっていないのか?」と聞かれました。別にボランティアをしているかどうかではなく、「あなたの写真活動にどう影響し、何が変わったのか」ということを随分問われました。

僕は特に何も変わっていなかった。でも震災を機に自分なりのコンセプトでやれることはないかと考えました。そこで、震災などの人間がどうすることもできないものを描きたいと思いました。人間の世界と神の世界の境界を見せれば、日本人が大事にしてきたことが伝えられるのではないかと思ったんです。

例えば津波で甚大な被害を受けた地域があります。海外の人は、日本人は海を恨んでいるんじゃないかと思っているようです。でも、被害に遭った人はたぶん、これからも海とともに生きようと思っていらっしゃる方が多いんじゃないかと思うんです。これはすごいことだな、と。そこで人が造り上げたものを手前に、奥には神々しい世界を見せることで、こういう感覚を描きたいと考えました。

そこで僕は、神と人間の境界線を撮るために海に行きました。その日は台風が来ていました。手前に人間が造ったものとしてテトラポットを入れ、その向こう側の領域に何が見えるか、神様の領域を強く描きたくて試行錯誤しました。

このようにして撮影を行ないました。次に写真をカラーにするか、モノクロにするかを考えます。この時もコンセプトとテーマが頭をよぎります。試しにカラーでプリントしてみたのですが、神々しいものを見せたい割には説明臭い。もっとこの写真を見た人が感じ取ってほしい。そこでカラーをやめてモノクロにしました。かなり印象が違ったと思いませんか?絵柄は同じでも、そこに込められた主張というのは、見る人間がある程度想像しないとわき上がってこないものなんです。

その次は用紙を選びます。神々しい雰囲気と人間臭さという微妙なものをどう表現するか。自分のコンセプトに合う紙を選ぶところから始めたくて、いろんな紙を用意しました。

まずは紙自体の色。モノクロの場合、一番白い部分はインクが乗らないので、ハイライト部分は紙の影響を大きく受けます。黄色っぽい紙だと暖色系になり、青っぽい紙を選ぶと寒色系になります。続いて紙の質感。表面のごつごつ感です。写真データでは分かりませんが、プリントを持った時に神々しさが感じられる手触り感が欲しかった。紙のコシにもこだわりました。あまりペラペラだとありがたみがありません。

どちらがいい、悪いということではありません。今回の自分の意図に合うのがどんなものなのか、それらを表現するために何を選んだかという妥当性がなければ意味がないのです。

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2. 和紙における画像修正の実例

用紙について具体的に説明していきましょう。光沢紙、写真用紙、マット紙、半光沢紙、アート紙、和紙などさまざまな種類の紙があります。さきほどの僕の作品では和紙を使いましたが、和紙は紙自体に色味があるため、画像補正が必要になってきます。

僕はいつもこういうパターンを出力しています。Lab値を見ると分かるのですが、これは一番黒いL=0から紙白のL=100まで10段階に刻んだパッチです。これを和紙に出力してみて、カラーモンキーで測定してグラフ化します。
一般的な用紙は階調バランスがいいのですが、和紙の場合はそうはいきません。一番暗いところはL=0のはずなのにL=30だったり、明るいところがL=100ではなくてL=89のような濃度域であるのが分かります。普通の紙と違って、うんと色濃度が狭いんです。用紙の色濃度を見極めた上で、その用紙に合った画像補正をしていきます。

例えばこの森の写真。シャドウ部は一見つぶれて見えるかもしれませんが、ヒストグラムを確認するとシャドウ部の階調が残っていますし、ハイライト部もデータは飛んでいません。光沢紙でプリントする時は問題ありませんが、和紙だとそうはいきません。

一つは中間部のコントラストをちょっとだけあげてやります。次にシャドウ部の黒くなっている部分を起こしてやらないとつぶれた印象になってしまいます。こういう場合は覆い焼きで対応しましょう。

まず、新規レイヤーを作ります。描画モードは「ソフトライト」、「ソフトライトの中性色で塗りつぶす(50%グレー)」にチェックを入れてください。ブラシツールの不透明度を10~20%にして、色は白を選択します。この状態で明るくしたい部分をなぞると、シャドウ部の黒い部分を明るくすることができます。逆に黒を選択してなぞれば、明るい部分を落とすことができます。このテクニックは便利なのでぜひ覚えてほしいと思います。

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