エプサイト企画展「プリント解体新書」開催レポート —写真をプリントで作品にするということ—  2018年6月22日~7月19日にかけて、エプソンイメージングギャラリー エプサイトで「プリント解体新書 —写真力を高めるプリントの秘密 —」が開催された。会場内では、写真家の作品を元にプリント作品や写真展を完成させるまでのワークフローが分解して紹介され、制作意図が具現化されていく過程をノウハウとして体感できる展示となった。ここでは、会場の様子をレポートとしてご紹介。これから写真展・フォトコンテストを目指すという方は、ぜひチェックしてみてほしい。

「プリント解体新書」で紹介された、写真の作品発表で重要な5つのポイント

会場内は5つのゾーンに分けられ、個展・グループ展などの写真展開催やフォトコンテストへの応募など、
プリントで写真作品を発表するときに知っておきたい情報が、実際のプリント作品とともに紹介された。

「写真セレクト」

1 「写真をプリントで作品にする」ためのワークフロー

写真をプリント作品として制作・発表する場合は、プリントを出力する瞬間だけでなく、その制作過程を通じて「思い」や「イメージ」を具現化する作業を行う。 例えば、写真家・岡嶋和幸さんの作品制作ワークフローは「テーマの決定」に始まり、「写真セレクト」「コンセプトをまとめる」「用紙選び」など全8行程におよぶ。高い作品クオリティの実現には、プリント前後の過程を含めた入念な検討や準備が重要になるということだ。
また、会場内では作品づくりを支えるプリンターとして、エプソンプロセレクションSC-PX5VIIと、Colorio V-edition EP-10VAが展示紹介された。

<展示協力:岡嶋和幸>

写真家・須田誠さんが制作時に実際に赤入れを施したプリント

2 プリントワーク

作品制作を目的としたプリント作業では、本番出力前に複数の用紙やサイズでテストプリントを行い、イメージと合致しているか・意図通りの見え方をしているかを確認する。テスト結果がイメージと異なるようであれば、写真編集ソフトなどを使用して画像調整やレタッチを行う。
また、レタッチが必要な場合も、やみくもに作業を始めるのではなく、ノンレタッチの「ストレートプリント」と比較して調整目標を立てておくことが大切。会場内では、写真家・須田誠さんが制作時に実際に赤入れを施したプリントが公開された。

<展示協力:須田誠>

制作のヒント

インクジェットプリント制作の流れ

https://www.epson.jp/katsuyou/photo/manabu/kiwameru/theme1/p1.htm

ストレートプリントの使い方、写真編集ソフトを使った調整例

https://www.epson.jp/katsuyou/photo/manabu/kiwameru/theme2/p1.htm

用紙による表現の違い

3 用紙

プリントに使用する「紙」は、その手触りや艶、厚み、白さなどの要素が写真と融合して表現要素として機能する。そのため、素材の特徴と紙の「白」に着目して、表現に合うものを選択することが望ましい。
また、顔料インク搭載プリンターのうち、エプソンプロセレクションのSC-PX3VSC-PX5VIIなどは、多彩な用紙に対応できるようあらかじめ設計されている。

<展示協力:鈴木雄二(「PHaT PHOTO写真教室」講師)、吉田藍(「Have a nice PHOTO!写真教室」講師>

制作のヒント

素材別のプリント特徴

https://www.epson.jp/katsuyou/photo/manabu/colorio/theme5/

特徴の異なるさまざまな用紙にプリントする際の注意点

https://www.epson.jp/katsuyou/photo/manabu/howto/tashayoushi.htm

作品をまとめた「ポートフォリオ」

4 まとめて見せる

表現意図によっては、組写真やブック形式などに写真をまとめることがある。そうすることによって作品の主題が明確になるうえ、構成にもこだわれば、ストーリーや時間の流れを伝えることもできる。
また、作家活動を行ったり、フォトグラファーとして自身のプレゼンテーションを行う際には、作品をまとめた「ポートフォリオ」とよばれるファイル形式やボックス形式のツールを制作する。

<展示協力:池上諭、佐々木啓太、箱入り息子、エプソンフォトグランプリ受賞者、meet up! selection受賞者>

額装に用いるフレーム・マットが及ぼす印象の違い

5 展示

写真を発表する手段のなかでも、出会いや刺激にあふれているのが「写真展」だ。その準備段階では、写真の内容以外にも展示環境・来場者導線を意識して、「用紙」や「サイズ感」、「仕立て方」「並べ方」までを十分に検討しながら作業を進める。
「プリント解体新書」会場内では、額装に用いるフレーム・マットが及ぼす印象の違いや、用紙の特性・サイズ感を効果的に表現に取り入れたエプサイトでの展示例、会場模型を使った展示構成のシミュレーション例が紹介された。

<展示協力:池上諭、香川美穂、久保誠、清水哲朗、帆刈一哉、株式会社フレームマン>

——写真家が実践する“プリントワーク”とは?——

須田 誠 スペシャルインタビュー / 「プリント解体新書」の展示にご協力いただいた写真家の須田誠さんに、作品制作を行う際の心構えやポイント、展示作品ができるまでの制作秘話を伺った。

写真家 須田誠さん

須田誠さんの制作アプローチ

――須田さんが作品を制作する際、心がけているポイントはどういったものでしょうか?

須田 武道では「心技体」が大切だといいますが、私は写真を会得するのに大切なのは「心道技」だと考えています。心は「心」、道は「道具」、技は「技術」です。写真は、気合いや優れた道具も大切ですが、それを具現化する技術も大切。この3つが整って初めて“名作”が完成すると考えています。
また、「良い目を持つこと」も重要。「よく見て、感じて、想像すること」の3つが大事で、その経験がテーマの選定やプリント、レタッチなどにも影響します。技術は多くの経験を経て、復習を積み重ねればよいのですが、「良い目を持つ」には、良い映画を見たり、良い本を読んだりなど、写真以外の日常生活も大切だと感じています。

膨大な量のプリント
拡大プリントと須田誠さん

――普段のプリントワークとしては、どういった工程でセレクト・出力作業をされていますか。

須田 プリント制作の手順は、まず一覧プリント(コンタクトシート)を作ってセレクトし、次にA4の普通紙でプリントして作品の絞り込みを行います。さらに絹目調のペーパーにプリントし、展示などを行う作品については、バライタ紙で仕上げるといった流れになります。そのため、プリントの枚数としては膨大な量になるのですが、それだけ精査して作品に仕上げているのです。

――「プリント解体新書」では、キューバで撮影された作品『We are Cubano!』を展示されていました。作品の撮影動機や背景を教えていただけますか。

須田 キューバには、2年間世界を放浪していた途中で立ち寄ったのが初めてで、その後は2002年と2003年に、さらに米国との国交が正常化した2015年と2016年に激動のキューバを撮ろうと2週間滞在しています。
今回展示した『We are Cubano!』は2015年、2016年に撮ったもので、「キューバ人の誇り」をテーマにしています。35㎜レンズを使用。その歴史的時代背景と空気感をしっかりと写し込むために絞りをF8にして被写界深度を深くしています。理論的なボケがどうのというよりも私の哲学を具現化するために絞り値を決定しました。背景には最新の車と1950年代の車が一緒に並んで写っていたり、スペイン統治時代の建物が写っていたりしており、2015年という歴史的な時代を象徴した作品でもあります。この一連の作品は、ストリートで若者に声をかけ、道路の中央に立ってもらい、一切ポージングの指示をせずに撮影しました。

作品と並ぶ須田誠さん

展示作品『We are Cubano!』から読み解くプリント制作の意図

――「プリント解体新書」では、キューバで撮影された作品『We are Cubano!』を展示されていました。作品の撮影動機や背景を教えていただけますか。

須田 まず、どちらも「プリントサイズ」が重要でした。カラー作品では、当初A4サイズも検討しましたが展示用としては小さかったので、A3ノビとしました。モノクロは大判プリンターを使った特大サイズに仕上げましたが、大きく引き伸ばすことで背景に写り込んでいる人などの細部までが見える、つまり情報量を増やすことを意図しています。 また、「レタッチ」作業において、カラーのプリント時には全体を少し茶色っぽく仕上げています。キューバの街中は少し埃っぽいので、それを表現するためです。モノクロプリントのほうは、雨上がりのアスファルトの反射が美しかったので、その質感がよりはっきりと再現できるよう、画面の周辺部などを少し焼き込んだ状態に仕上げました。

作品を拡大表示

キューバからの帰国後、撮影時の身体感覚がまだ抜けきらないうちに制作されたのがこちらのカラー作品。逆光の中、被写体の強い意思を感じさせる「表情」を重視し、顔を明るく補正。カット毎のトーンも整えた。額装では、強く生きる人々の「誇り」を感じられる仕上がりを目指し、被写体と呼応するようなヨーロッパの絵画調の金と銀の額を使用。マットは写真展示では見かけないスエード調のものを敢えて用いている。

作品を拡大表示

「プリント解体新書」の展示にあわせ、新たにモノクロ作品が制作された。
須田さんはシリーズ毎にモノクロ/カラーを分けず、この作品の場合は、現場の光の印象を再現するため、カラー画像を元にモノクロプリントが制作された。
鑑賞者が体全体で被写体と対峙できるような大きさのプリントを求めて、制作には大判プリンターが導入されているエプサイト・プライベートラボを使用。展示の際にはあえて額装を施さず、ストリート感を表現した。用紙は、紙そのものの重量感を重視してハーネミューレ社の「フォトラグバライタ」が選択された。