写真集の「つくる人」にも「見る人」にも聞くエッセンス やればわかる!その楽しさ・面白さ 連載第3回 写真を「編む」とは

今回のテーマは、写真集づくりで一番大切な作業「写真を選ぶ・並べる」について考えます。言い換えるなら、写真を“編んでいく”作業です。この編集作業の大まかな流れは、まず写真を仕分けてテーマを見つけ、次にテーマを伝える相手と方法を決めます。それを決めた上で、細かい作業に入っていきます。
こうした一連の作業を、具体例とともにプロの編集者に学びましょう。
ご意見をうかがったのは島本脩二さんです。島本さんはたくさんのヒット写真集を手がけられた名編集者。島本さんが携わった写真集の中から、岩合光昭さんの『おきて』と三好和義さんの『地球の楽園』を例に見ていきましょう。

今回のお手本写真集

岩合光昭著
『おきて アフリカ・セレンゲティに見る地球のやくそく』

1982年から1年半をかけて岩合氏が撮影した8万3千カットの中からセレクトされた、東アフリカの動物たちと自然のドラマ。総ページ数328の大ボリューム。一般の人にも大変な人気となって写真の世界に新風を吹き込んだ一冊。

デザイン:三村 淳

三好和義著
『RAKUEN ON EARTH 地球の楽園』

老若男女問わず人気の高い三好和義の楽園シリーズ。木村伊兵衛賞を受賞した『RAKUEN』の続編的な一冊で、1991年に刊行。セイシェル、モルディブ、ハワイなどでとらえられた色鮮やかな南の島の風景が展開する。

デザイン:佐村憲一

編集した人 島本脩二さん

しまもと・しゅうじ。小学館で『GORO』『写楽』などの編集に携わった後、『TOUCH』『SAPIO』などの編集長を歴任。同時に『日本国憲法』『LOVE』『PEACE』などビジュアル表現を使った単行本や、三好和義氏や岩合光昭氏などの写真集も手がける。

大テーマと小テーマを見つける

──目の前に写真の山があるとします。これらから写真を選んで一冊の写真集にまとめようと思うとき、まず何から始めたらいいでしょうか。

島本:
その山を数個のグループに分けていく、というのが一般的な手始めの作業です。動物を撮ったものなら、動物ごとに、あるいは季節ごとに、などというように。何かが共通する塊をつくっていく。すると、見えてくるものがあります。あるテーマに基づいて撮られた写真群であっても、その中に細分化できるテーマ、小さなテーマがあります。仕分けをしながら写真家と話をして、大きなテーマと小さなテーマを探っていくわけです。これは分類によって「軸を立てる」とも言い換えられます。分類は無数にできますから、軸は何本も立つわけです。たくさんある軸を糸で結わえていくこと、これが「写真を編む」ということなんですね。『おきて』の場合ならその糸とは、命のつながりであり、自然界のおきてであり、乾期から雨期になってまた乾期になるという循環、それから主役はヌーだということ(季節の移り変わりを一番ダイナミックに見せるのはヌーの移動なので)、助演はライオンやチーターということです。まあ、これはやっていくうちにだんだんとはっきりしいくことなので、最初から明確である必要はありません。

大事な3要素「何を、誰に、どうやって」

──仕分けによって「何を伝えたいか」がはっきりしたら、次に考えるべきはそれを伝える方法ですよね?

島本:
そうです。「何を」「誰に」「どうやって」、この3つが写真集づくりに大事な要素で、これらは切り離して考えられないものです。次はそのテーマを誰にどうやって伝えるか、を考えましょう。『おきて』の大きなテーマは、岩合さんが言った「命がつながっていること」でした。これをお母さんと子どもに伝えたいと思いました。「何を」「誰に」が決まったわけです。すると「どうやって」のアイデアが見えてきますよね。判型(本の大きさ)は、母と子が並んで見ることができて、横位置の写真が断ち落とし(※1)にできるのがいいとか、たくさんの生命のつながりを見せるにはボリュームのある本になるとか、文字情報は少し必要だろう、といったことが大まかに決まってくるわけです。どうやって伝える、という方法もいろいろあって、難解で硬質でも考えをそのままに伝えるほうがいい場合や、噛み砕いてソフトに伝えるほうがいい場合など、いろいろです。『おきて』では、主な読者を親子と想定したので、わかりやすくしようということになりました。
  1. ※1 縁を付けずにページいっぱいの大きさに写真をレイアウトすること

スタートは見開きをつくることから

──さて、ここから具体的にページをつくっていく作業になりますね。どんな風にしてページに写真を置いていけばいいでしょうか。

島本:
まずたくさんの見開きをつくっていくことから始めるといいでしょう。それをつなぎ合わせて大きな流れをつくります。

──見開きで「小テーマ」を示して、それをつなぎ合わせて「大テーマ」を感じさせるようにする、ということですか?

島本:
そうです。もちろん、小テーマを示すのに見開きでは完結しない場合もあります。しかし基本的な単位として「見開き」をうまく見せることがとても大事なんです。巻物は連続しているけど、本はページをめくる。左右のページ両方が目に入ってくるわけです。これが見る人の印象に強く作用します。例えば、隣にどの写真を持ってくるかでその写真自体の見え方が変わってきます。『おきて』の例で言うなら、白骨化したヌーの写真の隣に、分厚い霧がかかった空を大きく捉えた写真を並べました。これは「力強く見えたヌーの生命も、大自然の前でははかなさを見せる」と伝えたいからです。

──なるほど。もし組み合わせたのが霧の空ではなく口を血まみれにしたライオンの写真だったら、ヌーの骨はまた違った見え方になりますもんね。

島本:
それから、隣は白にする(写真を入れない)方法もありますし、サイズや余白によっても見え方は変わります。単にわかりやすくではなく、何をわかりやすくしたいのかが大事です。逆に言えば、こうした操作をしなければ、こういうふうに見てほしいという作り手の気持ちは伝わらない。見開きという「部分」をつくり、部分(小テーマ)で大きな流れ(大テーマ)をどう支えるか、それを行ったり来たりしながら写真を置いていきます。