写真集の「つくる人」にも「見る人」にも聞くエッセンス やればわかる!その楽しさ・面白さ 連載第2回 制作に必要な“1人4役”

前回は写真集をつくるにはいろいろな方法・手段があるということをお伝えしました。今回は、制作全体の作業の流れと各行程の意味について、見ていきましょう。作業行程とその大まかな流れは、このようになります。

  1. 1撮影
  2. 2写真を選ぶ
  3. 3写真の並びを考える(台割づくり)
  4. 4レイアウトや装丁・紙を決める
  5. 5印刷・製本

出版社などで制作する場合、これらの行程を、写真家、編集者、デザイナー、印刷業者が分業して行います。つまり、著者である写真家本人のほかに、少なくとも3人のプロが関わるのです。
本のつくりによっては、さらにコピーライターや文筆家が加わることもありますが、基本的にはこの全4役でできています。
自分で制作する場合、この4役を一人で行うことになります。言い換えるなら、このプロ4役の働きを知り、それを果たせば、いい写真集が出来上がる、ということなのです! では、この4役について、それぞれ見ていきましょう。

編集者の仕事

著者である写真家が、あるテーマで写真を撮ります。次に、たくさんの写真の中から掲載するカットを選んでいく(2)のですが、このセレクトの段階から編集者が加わります。  
編集者はすべてのカットを見て、絵柄の意味や質を客観的に判断します。テーマを伝えるためにはどれが必要か、インパクトのあるメインカットにはどれがふさわしいか、印刷できるクオリティーに達しているか、などなど。撮影者本人だと「苦労して撮ったカットだから入れよう」といった判断になりがちですが、第三者であれば目的に向かって冷静かつ客観的に写真を見ることができるのです。
大まかなセレクトが終わったら、写真の並びを考えます(3)。効果的な順番とカット数を探りながら実際にページだてて並べてみると、足りないカット、不要なカットが見えてきます。そうなるとまたセレクトし直したり、追加で撮影してもらうことになります。
このようにして、文字どおり“取っ替え引っ替え”を繰り返し、行程の1から3を何度も行き来することが大事で、これが写真集の本質を決めるといっても過言ではありません。 このあと45と作業工程は続いていきますが、撮ること以外のすべての部分に関わるのが編集者です。4役それぞれの意見をまとめ、制作全体をスムーズに進めることを担います。たとえるならオーケストラの指揮者のようなものですね。

[台割]

台割とは出版物の設計図のようなもので、編集者が作成します。雑誌や一般的な書籍の台割は、章立てや個々の企画を書き入れたものになりますが、写真集の場合は、どのカットがどのページに収まるか、白のページはどこか、などがわかるようにつくります。

デザイナーの仕事

全体のページ数とどのページに何を盛り込むかという“本の設計図のようなもの”を「台割(だいわり)」といいますが、これができたら次はデザイン作業になります。
ここからはデザイナーの仕事。デザイナーは編集者から写真集のテーマやねらいを聞き、そのためにはどんなつくりの本にしたらよいかを考え、実際のレイアウト作業を行います。本の大きさ、カットの順番と大きさ、余白、文字の入れ方、表紙のデザインなど、本という“物”として完成させるためのデザイン的な要素をすべて担います。
デザイナーの提案によって、行程の23(ときには1)に立ち返ることもあります。デザイナーと編集者と写真家は、常に意見を出し合い、最良の形を模索しながら制作を進めます。
写真集のタイトルは、このやりとりの中で決まっていくことが多いです。編集者(あるいは写真家)がねらいに即したタイトルを考え、「見る人の興味を喚起するか」「商品としてどうか」などの視点から言葉を練り、その言葉が視覚的に(字面(じづら)として)効果的かどうかをデザイナーに確認して最終決定される、というのがよくある流れです。

印刷業者の仕事

また、紙の選択をするのもこの行程の大きなポイントです。使用する紙によって、印刷された写真の見え方、手触りから与える印象、ものとしての雰囲気が大きく変わってくるからです。デザイナーは豊富な知識から紙を選択し、編集者に提案します。
ここで印刷業者の出番です。デザイナーと編集者が印刷のプロの判断を仰ぎます。選択した紙や印刷方法でねらいどおりの仕上がりになるのか、作業効率や費用の点ではどうかなどを印刷業者に相談します。ですから、印刷業者にも本のねらいを理解してもらうことが大事です。
さて、本の中も外もデザイン処理まで終わり印刷用のデータが完成したら、それを印刷業者に渡します。これを「入稿」と呼びます。印刷業者はそれを使って色校正を刷ります。
色校正とは、印刷の出方や色味がねらいどおりにできているかをチェックする行程です。普通の書籍や雑誌ではこれはデザイナーと編集者の仕事ですが、写真集の場合は著者本人が加わって、色を確認することもあります。これを経て印刷業者が色味などを修正し、本番の印刷を行い、製本して(5)、本が完成するのです。

テーマを見つけるには

こうしてみていくとわかるように、写真家、デザイナー、編集者、印刷業者がそれぞれ個別の役割を果たしながら、同じところを目指すことが重要なのです。「同じところ」とは、写真集で伝えたいメッセージやテーマです。
だからといって、最初からテーマが明確でなければ写真集はつくれないのかというと、そんなことはありません。写真を見ながら、「こんな“括り”で写真を集めてみたら面白いかもしれない」というくらいの、ぼんやりとしたイメージが浮かべばいいのです。
そうして写真を選び、並べているうちにだんだん方向性が定まってくる、というのはよくあること。ですから皆さんも自宅のパソコンに眠っている写真データを、あるいはしまいっぱなしのフィルムを、今一度見直してみてはいかがでしょうか。

4役の役割

  • 写真家:テーマと素材を提供する
  • デザイナー:テーマを本という形にするための視覚的な設計を担う
  • 印刷業者:データから本にする生産部分とその質的な管理を担う
  • 編集者:常に客観的な意見を提供し、ほかの3人のまとめ役として制作全体を管理する

監修・構成:井本千佳