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開発者が語る 新K3インクの進化、その秘密に迫る。

プロセレクション最新機種 SC-PX5VIIは、インクが格段の進化を遂げている。前機種PX-5Vから定評のあった、黒インクの「黒さ」がさらに向上し、カラー全体の階調性もアップした。何がその「黒さ」や「発色の豊かさ」を生み出しているのか? 今回、新インクの開発を担当した、セイコーエプソン IJ要素開発部主任の奥山智幸に「Epson UltraChrome K3インク」についての解説と、その開発秘話を聞いた。

黒の濃度を上げつつ、きれいにインクを打つ、そのマッチングが難しいところでした。

セイコーエプソン株式会社 IJ要素開発部
主任/工学博士 奥山智幸

黒の濃度を上げつつ、きれいにインクを打つ、そのマッチングが難しいところでした。

SC-PX5VIIの一番大きな改良点といえば、インクですよね。どのようにインクが変わったのかをお伺いしたいと思います。まず大前提として、そもそもなぜ作品画質のプリンターは顔料インクなんでしょうか?

奥山
顔料がいい理由は、大きく4つあります。1つには耐久性です。顔料は分子の塊で大きな粒として存在しています。ですから劣化が遅く、色を長く保持できます。2つ目は、乾燥が速いということです。プリントしてから色が落ち着くまでの時間が短いので、すぐに印刷結果を確認できます。そして3つ目に、ドットがシャープに描けるということです。顔料インクというのは、色材(色をつくる成分)が水に溶けているのではなく、色材がまんべんなく混ざっている状態です。ノズルから吐出された顔料インクは、水分などは紙に染み込み、色材が紙の表面に残ります。紙に染み込んで広がっていく染料に比べると、顔料は広がらずに紙の上にとどまりますので、ドット一つ一つがシャープなんです。ですから顔料インクだと微細な表現ができるのです。4つ目として、対応する用紙を豊富にできることです。紙表面に顔料が残るため、用紙種類が変わっても、発色や濃度が落ちにくいという特性があるからです。

だから暗部の再現も顔料インクの方が得意なんですね。新インクは、黒の濃度にこだわったそうですね?

奥山
そうです。光沢紙用の「フォトブラックインク」は色材を従来のK3インクに比べ約1.5倍に増やしました。前機種のPX-5Vでも黒濃度には高評価をいただいていましたが、さらに黒く表現できるようになりました。一方マット紙用の「マットブラックインク」は、色材の量はそのままに、樹脂などに工夫をして紙の表面に色材がたくさんとどまるようにし、より黒く表現できるようにしました。

マットブラックインクも、単純に色材を増やすだけではダメだったのですか?

奥山
マット紙光沢紙よりもインクを吸ってしまうので、色材が沈んで黒にボリュームが出にくかったわけですが、単純に色材を増やすとそれを保持している水や樹脂などとのバランスを欠いてしまうんです。色材とそれ以外のものがよくなじんでいないと、インクとして安定したものにならないのです。ですので、樹脂のバランスや顔料の加工を変えるなどの調整で、紙の奥まで顔料が染み込むのを防ぎ、濃い黒を実現しました。

そうやってインクの組成を変えてしまうと、今度は小さなノズルから吐出させるのが難しくなるのではありませんか?

奥山
当初はノズルにインクが詰まってしまい、単純に印刷させるのも大変でした。ですが、色材の粒の大きさを変えたり、樹脂コーティングの技術を工夫したりして、少しずつ問題を解消していきました。黒の濃度を上げることができて、しかも、きれいに吐出させられる、そのマッチングをとるのが、この開発で一番苦労したところです。

新しいフォトブラックインクは、色材が従来に比べ約1.5倍増えている。

新しいフォトブラックインクは、色材が従来に比べ約1.5倍増えている。

新しいマットブラックインクは、より紙の表面に色材がとどまるように改良された。

新しいマットブラックインクは、より紙の表面に色材がとどまるように改良された。

実際に、驚くほど黒がしっかり黒くなりましたよね。

奥山
そう言っていただけると、苦労のかいがあります。社内でも「黒が違うのが一目でわかる」と大変好評です。最近はインクから見るとなかなか手強いテクスチャーの用紙などもありますが、純正紙でも他社の紙でも、黒濃度が上がっています。実際、どれだけの濃度があるのかプリントを測って数値を出してみるのですが、今までのプリンターよりも、高い数値が出ています。黒が黒くなることで、モノクロがより多くの階調で描けるようになるのはもちろんですが、黒が締まったことでカラー部分もよりきれいに表現できるようになりました。こうした画質の向上は、店頭やエプサイトなどでプリントを見て頂ければ、すぐにご納得いただけると思います。

新しい課題が出てくると、眠れない日もあります。そういうときは24時間、顔料インクのことばかり考えています。

K3インクの魅力は展示環境への対応にもあると思います。今回はそれがさらに進んだそうですが。

奥山
これまでのK3インクには、カラーインコンスタンシー(注1)を低減させるという特長がありましたが、今回はそれに加えて「ブロンジング」への対策を行いました。ブロンジングとは、照明の光とは異なる色の反射が、プリントの表面に現れることです。プリントの紙の上には顔料と樹脂がのっているわけですが、そこに当たった光は、ある波長は吸収され、ある波長は反射します。この特定の波長の反射がブロンジングにつながります。ブロンジングは光沢紙の場合に起きやすい現象で、写真の絵柄を邪魔して、見る人に違和感を感じさせる原因となることがあります。例えばモノクロプリントでブロンジングが起きると、プリントにない色が見えてしまって、かなり不自然なことになります。
(注1) カラーインコンスタンシー:光源依存性。環境光の違いによって、色の見え方が違ってしまうこと。

展示会場で写真家を悩ませる「ブロンジング」を低減することに成功。

展示会場で写真家を悩ませる「ブロンジング」を低減することに成功。

どうやってブロンジングを抑えているのですか?

奥山
一言で言うと、樹脂の量や種類を調整しました。その「特定の波長の反射」が、どのくらいの樹脂や色材の厚さで起きるのかを調べて、次に、その反射を抑えられる樹脂の量や種類をいろいろと探っていったんです。プリントして、いろいろな光源で確認して、樹脂の量や種類を変えて、またプリントして、の繰り返しです。ブロンジングの出方は色によってまちまちですから、インクごとにその調整を行いました。どんな光の下であってもユーザーの皆さんが望む色で見えるようにする、それが私たちの仕事だと思っていますので。

9色分すべてですか。気が遠くなるようなお話しですね。

奥山
そうですね。でも、いつも地道な作業の繰り返しなんですよ。「開発」と言えばかっこいいですが、実際は、たくさんのプリンターがずらっと並んだラボと自室のパソコンの前を白衣姿で行ったり来たりしながら検証を続ける日々です。何か課題が目の前にあると、夜も眠れなくなりますし、会社を離れても顔料インクのことばかり考えています。

日常生活でプリントを見るときも、やはり気になりますか?

奥山
印刷物を見ると、何で印刷したのか、精細さはどうか、発色はどうかが気になります。駅に貼ってあるポスターなども、内容よりも印刷技法を見ます。目前まで近寄っていって、じっと凝視してしまうので、周りに「近い」と苦笑されます。あと、写真年賀状は大いに気になりますね。これはエプソンのプリンターだな、とか(笑)。ギャラリーに行けば、どんな照明を使ってどんな風に当てているか、色に影響していないか、とても気になります。技術的なことだけでなく、飾り方のトレンドなども大事な情報ですから。

最後に、ユーザーの皆さんに、何かお伝えしたいことはありますか?

奥山
今回の改良は特にそうなんですが、インクの部分にたくさんの技術革新が詰まっていますので、その能力をぜひ最大限にご活用いただきたい。プリンターを自由に使って、存分に楽しんでいただければと思います。それが私たちの喜びになります。ただ、そのためには、ぜひ純正インクを使っていただきたいですね。

新開発Epson UltraChrome K3インクについてはこちら

開発者が語る プロセレクション・テクノロジー、その想い。詳しく見る>

SC-PX5VIIスペック
Epson UltraChrome K3インク/8色顔料インク/
L判~A3ノビ/解像度5760dpi×1440dpi

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