epSITE



展覧会情報

展覧会連動企画レポート

Go Itami Gallery talk 2014年2月9日(土)、伊丹豪写真展「study」の開催に合わせギャラリートークが開催されました。当日東京はあいにくの大雪となりましたが、熱心な方々にお集まりいただき、伊丹さん、小林さんと一緒にギャラリー内を歩きながら作品と展示構成の解説を聞くギャラリーツアー形式のトークショーをお楽しみいただきました。
トークゲスト: 伊丹豪(写真家)
進行: 小林美香(写真研究者)
会場の様子
小林:
今回の展覧会は、会場の中に作品を吊るすという構成になりましたので、ギャラリートークは、ギャラリーの中を皆さんと一緒に歩いて作品を見ながら進めたいと思います。
まず展覧会の成り立ちから少しお話ししておきましょう。展覧会のタイトル「study」は、伊丹さんが2013年からさまざま場所で開催されてきた展覧会や、出版された写真集のタイトルでもあります。「study」は、勉強とか、探索、習作、調査という意味を持つ言葉ですが、今回の展覧会は、このような「study」という行為のプロセスそのものを形にしていくということを、展覧会を企画する当初から念頭に置いていました。
ですから、完成した形を差し出すということよりも、プロセスそのものを提示することが展示によってできれば、面白いだろうな、と思っていたのです。
私と柿島さんがエプサイトで展覧会を企画させて頂くのは、今回で3回目です。これまでの企画展でも作家の作品とエプサイトという展示空間をどのように結びつけていくか、ということを意識していました。今回の企画では、作家を選ぶ前に私と柿島さんの間で共通して持っていたアイデアが、「空間の中に写真をちりばめるような感じ」でした。この構想段階で偶然Facebookで私と伊丹さんの共通の友人である写真研究者、ライターのダン・アビーさんがAmerican Photoというサイトに伊丹さんの作品を紹介するGeometric Visions of Tokyo という記事を書いたというポストを見たんです。
そのポストに添付されていた写真が、展覧会の中心に吊るしてある、缶コーヒーのジョージアの写真で、それを見た時に「これだ!この写真はタダモノではない!」と閃いたんです。それまで伊丹さんとは面識はなかったのですが、早速連絡を差しあげて、一緒に展覧会を構想していくことになりました。
ところで伊丹さんは、写真を専門に勉強されて来た訳ではないんですよね。
伊丹:
元々は文化服装学院というところで洋服の勉強をしていたので、洋服のメーカーのプレスや雑誌の編集の仕事をすると思っていました。写真の授業が週一回あって、それが面白かったんですね。マリオ・ソレンティの写真とか好きで、ファッション写真の真似事みたいなことをしていたのですが、ファッション写真のスタイリングみたいなことを面白いとは感じられなくなったんですね。
ちょうどその頃、佐内正史さんの『生きている』を書店で見て、どうしようもなく惹きつけられていって、そこから日本の写真家の流れ、荒木さんや森山さんの作品を知って日本の写真家の作品を遡って見たり、ワークショップに参加したりするようになりました。僕の活動は、既存の写真家の活動の枠組みからは外れているかもしれませんね。デジタル・カメラとインターネットが、活動を続けて広げて行く上で重要だったと思います。
僕は2010年からデジタル・カメラを使って作品を作っています。それまではフィルムのカメラ、PENTAXの6x7を三脚に乗せていて、絞りを全部絞り切って縦位置で撮っていました。今とやっていることはそんなに変わらないですが、フィルムを使って撮っていて、それが自分の見たい写真とは少しズレがあるなと感じていました。フィルムで写真を撮り続けるのが金銭的に難しくなって来たのと、デジタル・カメラの性能がもの凄く上がってきた時期が重なって、ニコンのD3Sというデジタル・カメラを買いました。そしたら、三脚がなくても、どこでも手持ちで撮れるようになったんですよね。出来上がった写真を見たら、フィルムの時では撮れなかったシャープな画面が得られたんです。
作品が溜まって発表したくなったんですが、なかなか展覧会や書籍などの作品発表につながるような人とのコネクションが得られなかったんですよね。それで、自費出版の本を作っていた後輩に「本を作らないんですか?」と言われて、やってみようかなと思って一緒に「MAZIME」という写真集を自分で作り始めたら、作った本が売れたんですね。
「MAZIME」っていうのは文字通り「真面目」っていう意味です。その当時「真面目くさってる」って人から言われることが多かったんで、自嘲気味に「真面目だよ」っていう意味を込めたのと、最初から外国の人に売りたかったので、海外の人から見て「「MAZIME」ってどういう意味?」って関心を持って欲しかったということがあります。自分で本を作ったり、本を本屋に持って行って営業をすることを繰り返して行くことによって、「紙で本を作るってこういうことなんだ。」というのが実感としてわかるようになりました。それから、海外の出版社や編集者の人たちに対しても、自分が作った本を送ったり、コンタクトをとって売り込んで行くようにもなりましたし、tumblrやFacebookを通して海外から反応を得られるようにもなってきました。そういうことを続けて行くうちに、海外の人とのネットワークもできてきたんですよね。
「MAZIME」の3、4冊目を作っているときに、自分がネットでtumblrを使って画像を投稿していたんですね。tumblrには自分が良いと思う写真だけではなくて、つまらないと思う写真も投稿して、僕のtumblrをチェックしている人が何に反応をして、何を良いと思ってくれるのかを探ろうとしたんです。こういうふうに写真を投稿して、それに対して見る人の反応を得るということが、「習作」に近いなと思って「study」という言葉が出てきたんです。後に、写真集を作る時にデザイナーの方にも出版社の人、「「study」っていうのはいいよね」と言われて、タイトルに決めたんです。基本的に僕は自分で何かを決定するっていうのはしたくないんですよ。決めることを放棄したいっていうのではなく、自分の決定ですべてが決まるよりも、ほかの要素が入っていて決まっていく方が物事は面白くなっていくだろうと思っているところがあります。ジョージアの缶の写真も、そういうところがあってできたもので、元々お遊びみたいなものだったんですよ。
小林:
この写真は、ジョージアの缶が水の中に浮かんでいるんですよね。
伊丹:
元々僕は、ジョージアのエメラルド・マウンテンの缶のデザインがもの凄く好きで写真を撮ってみたいと思っていたんですが、どう撮っても缶コーヒーの缶を撮った写真にしかならなかったんですよ。当然ながら。
どうやったら、自分のモノにできるんだろうと考えた時に、友達の絵描きの女の子に、「この缶コーヒーに絵の具乗っけて、別のものに変えてしまって」って頼んだんですね。しばらく経ってから、彼女から「描けたよ」っていう連絡があって写真を撮りに行ったんですが、全然思っていたのとは違うものになっていて、「これは違うなぁ」と言ったら、その場で洗面器に水を張って、その上から絵の具をポタポタ垂らしだしたので、そこで写真を撮ったんですね。
自分ではそんなに良いと思い入れていたわけではなかったのですが、この写真をtumblrに投稿したら、いろんな人の反応があったんです。こういう見る人の反応というのは、自分でコントロールできるものではないですね。作品を発表する時には、要所要所で自分が決定を下さなければならないですが、最初から最後まで自分で全部コントロールするのではなくて、派生したことに乗っかっていくほうがきっと面白いだろう、と思うんです。ですから、まさかこの写真が展覧会のきっかけになって、こんなことになるとは思いもしませんでした。
小林:
展覧会の構想段階から、壁面に写真を散らすように展示するというアイデアはあり、ミーティングの最初の方の段階では、ジョージアの缶の写真を大きなサイズでプリントして会場奥の壁面に架ける、というプランだったのですが、ミーティングを重ねる中で「壁面に架けるのではなく、空間の中に吊るしたい」という伊丹さんからの提案を受けて、この写真だけを吊るすのではなく、周囲の他の写真も吊るして会場を回遊できるような構成にしよう、というアイデアがでてきました。
写真を吊るすということが決まった後に、壁面に架ける写真や位置を決めることになりましたね。これまで企画展を構想するときは、写真の形や大きさはある程度決まった上で会場構成を考えて調整していたのですが、今回の伊丹さんの展覧会では、おおよその空間構成はお互いに頭の中で思い描いていたものの、最終的に作品を空間の中に吊るして壁に架けるまで、どういう空間として仕上がって、写真がどのように立ち上がってくるかわからなかったところもありますね。企画者としても作家としてもできあがった展示空間の中にいて、「こんな空間になっちゃったね!」という感慨が強いですね。
伊丹:
展示のプランを考える中でやりたかったのは、「写真が紙であるということを見せたい」ということなのです。今って、PCのモニタや携帯端末の透過光で写真を見ることが圧倒的に多いですよね。でも、最終的に出力するものは紙というものなんですよね。昨年から何回か展示をしてきたのですが、最終的な作品としてのアウトプットは紙なんですね。展示をするときに、ある程度の大きさに出力することで初めて見えてくるものがあるんです。撮った写真をモニタで見ている時って、自分が撮る時に反応したものを見ているんです。それがプリントして見ると、モニタでは見えなかったものが見えてくるようになるんです。
今回の展覧会では、今までは試したことがなかった、1.5メートル幅の紙に出力することで、それまで見えなかったディテールが見えるようになったり、空間を紙で分節して、紙そのものの存在感を空間の中で見せることができたりしたと思いますね。
小林:
展示のプランの過程やミーティングで、伊丹さんがプリントのディテールを指しながら、何度も「こんなものが写っているんですよ、凄いでしょう!」とまるで小さな子どもが目に見えるものに驚くような反応をしていたのが印象に残っています。
伊丹:
プリントのサイズが可変であることも、写真的なことであると思っていて、プリントを大きくすることで、インパクトが増すということだけでなく、異物化されるということもありますね。プリントのサイズ、見せる空間によって、いろいろと実験をしていきたいと思っています。
小林:
会場の中を皆さんと一緒に歩きながら見ていきます。ものがクローズアップで撮られた写真が大きく引き伸ばされていたり、違うサイズの写真が視界の中に入ってきたりするので、写真を見ているとスケール感覚が揺らぐというか、自分の身体が大きくなったり、小さくなったりする/ような、目眩がするような体感もあるかもしれません。
また、会場が吊るされた写真で分節されて、照明もコントロールされているので、見て行くうちにだんだん空間が薄暗くなっていって、会場の奥へ奥へと誘われていくような感じになります。エプサイトの空間は、箱というよりも通路に近いような縦長の形をしているので、ギャラリーの奥の両側の角に、写真に写っている角が結びつくような配置ができればよいな、と構想段階から考えていました。 展示作品のいくつかについてお話していきましょうか。正面の壁の隅に、私たちが「粉かけザンダー」と呼んでいる作品があります。これは、ドイツのアウグスト・ザンダーが撮影したポートレート写真の作品に小麦粉をかけて撮影したものだそうですね。
伊丹:
ザンダーの写真集の表紙に掲載されている写真に小麦粉をかけているんです。僕はこの写真が好きで、自分のものにしたいという気持ちがあったんですけど、ただその写真を被写体に撮るとなると単なる複写になってしまうので、どうやったら自分のものになるか、と考えた時に「レイヤーをかませばいいんだ」と思って小麦粉をかけたんです(笑)。
小林:
この写真はプリントのサイズや、カットライトを使ったライティングも相まって、そこだけがザラザラとした表面の壁になっているかのように見えますね。
伊丹:
画面の鮮鋭さとプリントのクオリティの相乗効果で、肉眼で見えるよりもシャープに見えるというか、なぜこんなにシャープな画面を自分が欲しているのかもわからない、という気持ちにもなります。「見る」とか「写る」っていうことがどういうことなのか、展示をしながら考え込んでしまいました。
小林:
画面のシャープさということで言うと、建物のメタリックなタイルをとらえた写真も、大きなプリントでタイルの一つ一つがくっきりと再現されていますね。
伊丹:
この作品は、展覧会の打ち合わせの時に選ばれて、大きくプリントしてから「化けた」作品ですね。メタリックなタイルに寄って見ると、抽象的な絵のように見えるんですよね。抽象と具象が一つの画面に合体しているというか。
小林:
伊丹さんの作品は、単体としても集合としても、写真が写真としてどのように立ち上がるのか、ということを見せることを目的としているところがありますね。写真の集積によって物語を語るとか、写されていることの背景や事情が理解できるようにするということといったことではなくて。
伊丹:
そうですね。意味やコンセプトにとらわれてしまうと、身動きが取れなくなってしまうんですよね。そうじゃなくて写真の構造から揺さぶってみたいと。もの凄く単純に言ってしまうと、写真はシャッタースピードと絞りと構図ですべて決まってしまうわけです。対象が何であれ、やっていることは一緒なんです。カメラの画素が上がっていったり、プリントの精度が上がっていったりするという技術の進化があるわけで、その技術の力によって自分の見る、撮るということがどう変わっていくのかを積み重ねながら追求していきたいです。
小林:
今回の展示では、グレーの壁面のギャラリー空間と、ギャラリーの外の白い壁面は、対照的な方法で構成したい、というアイデアがありました。そのために、白い壁では3段の棚を設けて、32点の小さな写真を並べて、展覧会を見に来られた方が写真を選んで隣の短い棚に並べて編集することができるようにしました。通常展覧会では、展示されている作品に触れるということはありませんが、作品に能動的に関わり合うことで、作品の味わい方が変わってくると思います。
並べた写真を撮影して、Facebookのイベントページに投稿してもらう、ということも参加型プロジェクトとして行っています。32点の写真の中には、ギャラリーの中に展示されている写真と同じものも含まれています。同じサイズで写真が棚の上に並ぶことで、伊丹さんの撮影のスタイルや画面の分割の仕方、構図の特徴が浮かび上がってきますね。
伊丹:
そうですね。見に来られた方が自分の作品を選んで並べているのを見ると「こう来たか」と思いますし、色々と発見があります。

トーク終了後は、白い壁に並んだ伊丹さんの32点の作品から、写真を選んで配置するコーナーを体験される方も多くいらっしゃいました。
体験した方からは「面白い!」「ハマる!!」といった声も多く聞かれ、伊丹さんが今回エプサイトで作り上げた「参加型写真展」を存分にお楽しみいただきました。