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展覧会情報

展覧会連動企画レポート

ICHIGO SUGAWARA artist talk 2011年7月、菅原一剛写真展「あたらしいみち DUST MY BROOM PROJECT」に合わせて、トークショーが催されました。その模様をお伝えします。 左から、本尾さん、菅原さん、安東さん、久保さん
トークゲスト: 菅原一剛(写真家)、安東元吉(青南商事代表)、
久保元幸(プリンター)
進行: 本尾久子(キュレーター)

人の気持ちを動かす写真

写真集『DUST MY BROOM』よりきれいに圧縮されまとめられた
ゴミの写真。

 このトークショーのテーマは、大きく分けて2つ。1つは、写真展とそのタイトルにもなっている「DUST MY BROOM PROJECT」について、もう1つは菅原さんの作品制作についてでした。
 DUST MY BROOM PROJECTは、菅原さんと、青森県弘前市に本社を置くリサイクル会社・青南商事と、東北大学大学院国際文化研究科が共同で行っているプロジェクト。
菅原さんと青南商事との関わりは、青南商事が会社案内を制作するにあたって、菅原さんが撮影を担うことになったことから。菅原さんは当時のことを思い出し、次のように語ります。
「工場を訪れて、ゴミがきれいだと感じました。そこで働く彼らはゴミをとても丁寧に扱うんですね。その姿を見て僕はかっこいいと思いました」
菅原さんが撮った写真は工場の床のシミなど決してきれいとはいえないものも多く、一般的には “見せたくないところ”の写真。それを会社案内に掲載することに、社長の安東さんは当初戸惑いを感じていたそう。しかし、それらの写真で構成した会社案内は“やっぱりかっこいい”と採用され、今では社内報やホームページなど青南商事のあらゆる広報関係の写真を菅原さんが撮影。社内にもたくさんのプリントが飾られているそうです。

 菅原さんの写真によって、会社のムードが変化したと安東さんは語ります。
「菅原さんの写真は、表面的でないし気取ってないんですよね。本当のことを切り取って、それでいてかっこいいんだよって伝えてくれる。そういう写真を見ることで社員の意識が、自分たちは汚い物を扱っているというのではなく、かっこいい有意義な仕事をしているというものに変わりました」

ゴミのリサイクルと被災地の再生

 青南商事が東北大学の劉准教授と共同研究を行おうとしていたとき、東日本大震災が発生。菅原さんを含めた三者は、被災地に対して共に何かできないかと、動き出します。「DUST MY BROOM」とはブルースの名曲のタイトルでもあり“やり直す”という意味があるそう。「リサイクルとは再生することで、それによって新しい道が生まれます。これは被災地も同じなんですね」と、菅原さん。
 実際に青南商事は被災地に駆けつけ、がれきの処理を最前線で行っています。菅原さんは彼らの意気に打たれて現場を訪れ、過酷な環境の中で作業し続ける社員たちを撮影しました。社員たちはその写真の力に励まされたと安東さんは語ります。
「菅原さんの写真を見たり、劉さんと話していると、自分たちの仕事の社会的意味を考えるし、プライドを感じながら仕事にあたれます」
 写真が縁をつくり影響を及ぼしているという安東さんの言葉に、菅原さんは微笑みながら「照れますね」とひとこと。
 このプロジェクトが考える震災からの復興とは、街を再生していくことであり、それを長期的に追い続けることだと、菅原さんは説明します。またこうした活動は、菅原さんにとって、新しい写真との関わり合い方なのだそう。
「僕は写真が好きですし、この先もずっと写真家としてやっていきたいと思っています。でも若い時みたいに競争の世界にいるのではなく、“これが彼らの思いでもあり僕の思いでもある”という感じで思いを共有できる仕事をしていきたいと思っています」

“写真はプリント”という思い

 菅原さんは「僕がいまだになぜ写真を好きかというと、素晴らしいプリントに出会ってきたから。僕にとっての写真とはやっぱりプリントなんです」と語ります。最高のプリントを模索し続ける菅原さんの作品づくりを語るうえで欠くことができないのが、プリンターの久保さんの存在。久保さんは長きにわたって銀塩のあらゆる技法に取り組んでいる人であり、デジタルの技法もどんどん取り入れる達人です。2人のタッグはもう長く、「ケミカルブラザーズと言っています(笑)」とのこと。菅原さんは、久保さんと湿板写真の仕事をしてから“1人では決してできないことが2人ではできる”と実感したのだそう。
 久保さんは菅原さんの姿勢について「世の中には“ただその手法でやりました”というのが多いけれど、菅原さんは“この手法でないとできない表現”という考え方をしているのが、いい」と言います。

写真展会場の様子

 2人はプラチナプリントも取り組んでいます。久保さんによると、プラチナプリントは140年前からある技法で、プリントが精細で立体的に仕上がるので今再び脚光を浴びているとのこと。「大事なのは、生の光をつかまえること。菅原さんの作品に、工場の床に光が落ちている写真がありますが、プラチナプリントではこういう部分がきれいに見えます」。そうした表現ではデジタル写真よりアナログの力がまだ勝るかもしれないというのが正直な意見としながらも、「でもインクジェットプリントも技術力がどんどん上がってきていますし、可能性は非常にあります。デジタルはアナログを追いかけるのではなく、デジタルでなければできないことを目指すべきだと思いますし、またそういう時期に入ってきていると思います」と語りました。
 写真展に展示された写真はインクジェットプリントですが、撮影に使用した機材はデジタル、フィルム、8×10を使用した湿版写真などさまざま。菅原さんは「こうした写真が一堂に会した場合、トーンがばらばらになるものなんですが、デジタルを通過することによって全部の質感がそろう」と出来映えと可能性を評しました。

これからの活動

 菅原さんは「いい写真を撮ろうとは思っていないし、そのために嘘をつきたくない」と言います。撮影以外のものごとに向き合うスタンスにも、そんな姿勢が見られます。日本写真学院を友人と一緒に立ち上げ、アーカイブと発信の場という新しいコンセプトの学校を目指しています。また、自分たちが捨てたゴミがその後どうなるかを綴った絵本をつくりたいとも語りました。
「大きな意味で知られていかなきゃいけないことが、いっぱいあると思うんです」
 菅原さんの語り口は穏やかながら強い意志を感じさせ、多くの人を魅了します。トークイベントに来場した人々からは、「写真の影響力について、たいへん勉強になりました」「自分も光を見つけて、まっさらな気持ちで写真におさめてみたい」といった前向きな声が多く寄せられました。