三好和義スペシャルインタビュー SC-PX5VIIで実現する、一歩先のプリント術

三好和義スペシャルインタビュー SC-PX5VIIで実現する、一歩先のプリント術

モルディブやタヒチなど世界の「楽園」を撮影してきた楽園写真家・三好和義さん。その土地の空気感や息づかいまでもを写し出すために、とりわけ「黒」の表現には試行錯誤を続けてきたと言います。作品に奥行きを与えるためのプリントのこだわりとは――。2014年11月に発売された新機種「SC-PX5VII」を実際に使っていただき、使用感や魅力について伺いました。

格段にアップした「黒」の表現力

SC-PX5VIIを使って和紙にプリントした時、最初に感じたのは嬉しい驚きでした。今までは、たとえば和紙のような表面にテクスチャーのある紙にプリントすると、暗部のディティールが表現しにくく苦労していましたが、それが格段にきれいに出るようになっているんです。写真をプリントするうえで、ハイライトももちろん大切ですが、シャドウの階調表現は重要な要素の1つです。特に銀塩でプリントするときなどは、黒でつぶさずにいかに表情を出すかに気を配っていましたから。

たとえば堂内の仏像のように暗い場所で撮影する被写体は、黒の中の調子をいかに描写するかが大きなポイントです。今まではそうした暗い場所でも明るく撮ろうとしていましたが、こんなに質感のある黒が出るなら「ドンと重厚で格調高い感じにしてみよう」といったチャレンジもできます。

もう1つ魅力的だと感じたのは、空などの表現でトーンジャンプがなくなりグラデーションがきれいに出るようになったことです。それだけカメラの性能を十分に引き出せることができ、感動しましたね。

確かにプリントした作品を見ると、マット系の紙の表面にインクが乗っている感じが分かります。以前はハイライトとシャドウ部分のインクの浮きが気になりましたが、それも目立たなくなりました。おかげで、これまで「マット系の紙には向かないな」と思って避けていた写真も、思い通りに表現できるようになって嬉しいですね。大きく変わったのは黒のインクと聞きましたが、そのほかの色の表現力もぐっと良く感じられ、黒の持つ影響力が大きいことに改めて気づかされました。

「Epson Print Layout」でシミュレーションが可能に

今回、「Epson Print Layout」というプリントプラグインを使用しましたが、ディスプレイ上でプリントのイメージを確認できると、やはり安心できます。マット系の紙を使うとコントラストが若干弱めに出力されがちですが、「簡易ソフトプルーフ」(ICCプロファイルによるプリント)によって確認できるので、先回ってコントラストを強めにしておくという調整が可能です。これまでは目分量だった部分をシミュレーションできるようになったのは大変便利です。

また、「カスタムメディア登録」によって、紙ごとにプリント設定を登録できるので、紙を変えるたびに設定をやり直す手間が省けます。たとえばマット紙用と光沢紙用に2つデータを作っておき、プリント時に各データを細かく調整ということもできますね。作品を制作する際は、基本的に大きくプリントすることが多いですし、中には非常に高価な紙もあります。うっかり、前の設定のままプリントして紙を無駄にするといった失敗が減り、コストパフォーマンスも上がりました。

プリントが左右する作品の価値

私は写真コンテストの審査員も務める機会が多く、さまざまな写真を目にします。そこで感じるのは「表現レベルの向上」です。つまり撮影だけではなくプリント技術も重要で、プリントの出来映えによって作品の価値が大きく変わります。実際、審査の最終段階まで残っていても、討議の中で「プリントがいまひとつ」と残念ながら選に漏れた作品もあります。逆に、「紙のチョイスも素晴らしく、プリントの完成度も非常に高い」という評価で最優秀作品に選ばれた作品もあります。それほどに、プリントの技術、紙の選び方は作品の価値を左右する大きな要因になっているのです。

私は写真に合わせて、いろいろな種類の用紙を試しています。ナチュラル系の生成(きな)りのような色の紙を使うと、落ち着いた格調高い表現ができます。たとえば仏像の写真では、重厚な雰囲気を出しつつ黄金の輝きを表現できる用紙を選択します。

富士山の写真展では、阿波和紙のびざんや日本の特殊技術である手漉きの大きな和紙も用いたほか、写真を掛け軸にするために、繊維の強い二層和紙にもプリントしてみました。この時は最初から和紙にプリントしたいと考えていたので、その紙を使うことを前提に、ライティングや場所を計算して撮影しました。写真の美しさはもちろんですが、紙の選択も含めてコンセプトの1つとして楽しめる展示であれば、よりいろいろな人たちに楽しんでもらえるのではないかと考えています。「こういう紙に、この大きさで」と想像して仕上がりをイメージできると撮影が今まで以上に楽しくなります。写真はやはり紙に出力して楽しむものですから、撮影する時にどれだけ作品の仕上がりをイメージできるかが重要です。

豊かな表現力のSC-PX5VIIで「らしさ」を形に

SC-PX5VIIは黒の表現力が格段にアップしたので、風景写真も奥行きのある描写が楽しめます。「こんな種類や大きさの紙を使ってみよう」とか、「会場のライティングはこうすると効果的かもしれない」というアイデアが湧いてきて、とてもワクワクしています。

写真展の準備に向けて40年前のプリントを見る機会がありましたが、最初は、昔の銀塩プリントを見て「やはり黒の締まりが違う」と感じました。でも今では、SC-PX5VIIではよりきれいな階調が出せるかもしれないと期待しています。今までは難しかった表現にも挑戦することができるSC-PX5VIIは、作家にとって非常に刺激的なプリンターですね。

目に見えない被写体を魅せるSC-PX5VIIの力

最近のデジタルカメラは大きな進化を遂げています。たとえば天の川のように目ではほとんど見えないものでも撮影できるようになりました。もはや撮れないものはないのかもしれません。ただ、そうした写真はパソコンでは確認できても、きちんとプリントできるのか不安でした。でも、SC-PX5VIIなら奥行きのある黒の描写や繊細なグラデーションなど一歩先のプリントができるため、撮影する時も「このくらいの精度でプリントできるならこういう写真を撮ろう」と、レベルアップを目指せます。極端に言えば“闇夜のカラス”や、黒い猫の毛の質感まで表現できると言えるでしょう。

私は、作品に奥行きを与えるのは自分の気持ちやその場の空気感など、「目に見えないもの」の表現ではないかと思います。そうした「目に見えないもの」までを形にする豊かな表現力をSC-PX5VIIは持っています。ぜひ皆さまも、SC-PX5VIIで作品表現の幅を広げ、今以上に写真やプリントを楽しんでいただきたいです。

プロフィール

1958年徳島県生まれ。中学時代より本格的に写真を始める。14歳の時に撮った牛の写真が徳島新聞に掲載される。高校2年生の時に、銀座ニコンサロンで『沖縄・先島』を当時最年少で開催。大学時代には、日本広告写真協会、日本写真家協会で入賞。 27歳、初写真集『RAKUEN』はベストセラーに。その写真集で木村伊兵衛賞を当時最年少での受賞。その後、「楽園」をテーマにタヒチ、モルディブ、ハワイ、セイシェルなど南の島を撮影。海外だけでなく国内でも「屋久島」「富士山」などを撮影、写真集を発表。