写真集の「つくる人」にも「見る人」にも聞くエッセンス やればわかる!その楽しさ・面白さ 連載最終回 伝えるためのデザイン

前回は「編集」を考えましたが、今回のテーマは「デザイン」です。デザイナーは何をどう考えて写真集をつくっているのか、プロから学びましょう。ご自身の考え方や方法論を教えてくださったのは、デザイナーの武田厚志さんです。

武田厚志:グラフィックデザイナー、アートディレクター。スーヴェニアデザイン代表。星野道夫写真集『HOSHINO’SALASKA』などの書籍のほか写真雑誌や本会報誌など、写真にまつわる出版物のデザインを多く手がける。

印象をコントロールする

──写真集づくりにおけるデザイナーの仕事は、何から始まるのでしょうか。

武田:
編集者と打ち合わせながら、「どんな写真集にしたいか」を共有することから始まります。どんな素材を用いて何を伝えるのかをしっかり理解し、そのためにはどんなパッケージにしたらよいかを考えるのです。「パッケージ」とは表紙だけを指すのではなく、本の中も外も全部、ひとまとまりでどんな“物”にするかということです。つまり、写真や文字という素材を調理して、写真家や編集者のねらいに沿った美味しい料理に仕上げるのがデザイナーの仕事です。

──編集者から「子どもが好きそうな甘口で」とか「大人っぽく苦味を効かせた味付けで」、なんて提示されるわけですね。

武田:
そうです。ハードカバーだと大人っぽくなるけどとっつきにくい感じがするかなあ、とか、物としての印象をどうつくるか、大まかな外見を先に考えます。

──外側からできるんですか。

武田:
僕の場合はそうです。本の内容やねらいをよく理解した上で、完成したときの全体の印象をまずイメージするということです。デザイナーが本の中身(内容)に入り込み過ぎると、発想の転換ができなくなるおそれもありますし。それに写真集の場合、一番見せたいのは写真ですから、必要最低限のことしかしません。中面はできるだけ調理しないようにするんです。

──必要最低限の「調理」というのは?

武田:
写真を配するときに大きさや余白をコントロールすることや、表紙をつけることなどですね。もちろん、それによって写真がよく見えるとか、ストーリーが際立つ場合はあえて凝った調理をする(演出を加える)ことも、ときにはあります。調理方法は素材とコンセプト次第です。中面のレイアウトは、実際に数点の写真を置いてみて決めます。その写真集の「ここが一番の見せ場」という数ページをいろいろなパターンで実際に組んでみます。このとき大事なのは、レイアウトはパソコンの画面だけで決めないで、プリントして実際のサイズで確認することです。物として見るのとモニターで見るのとでは、その印象に大きな差がありますから。それで中面が「天地に5センチの余白を入れ、写真は横30センチで見せるのが一番効果的」とわかれば、判型(本の大きさ)は自然に詳細が決まってきます。

コンセプト と レイアウト

写真集のモチーフやテーマを仮に設けて、それにあった中面の見開きレイアウトをデザインしてもらいました。
どんな方法がどういうねらいで使われるのか、例から学びましょう。

レイアウト例 1 打ち寄せる波の表情を様々にとらえた写真集と想定

武田:
写真1点ごとのインパクトを重視しました。すべてのページを、断ち落としにした写真で見開き1点というレイアウトにし、本の判型もそれにぴったり合わせたものに。見る人に、大胆かつダイナミックな印象を与えながら、同時に“繰り返し”や“反復”を意識させたいというねらいです。1冊のボリュームの中でレイアウトパターンを変化させないパターンの例でもあります。

写真提供:山形赳之

レイアウト例 2 同じ場所で撮られた一連のポートレート写真集と想定

武田:
いろいろな人物が登場するポートレート写真集ですが、同一の場所やポーズで撮ったシリーズです。こうした写真群は「一見同じ絵柄に見えるけど、よく見ると違う」わけですから、並列させて同じ調子で見せたほうが面白くなります。でも一点ずつもしっかりと見せたい。ですから、写真は片ページに1点とし、余白を付けることで写真をニュートラルに見せるよう心がけました。定点観測的な写真などの場合も、このように見る人に発見を促すようなレイアウトが向いていると思います。

写真提供:河野鉄平

レイアウト例 3 行事に参加する子どもたちのスナップ写真集と想定

武田:
こうした一つのお祭りとかイベントを追った写真群は、ほかの例よりも詳細な時間の流れや、それによる小さな変化をも見せたいわけです。ですので、見開きにカット数を多く入れました。自由で活発な雰囲気を活かすために、サイズや位置もランダムにしました。もちろん、「決めカット」になるような写真はもっと大きく見せればいいのですが、一冊のボリュームの中にこうしたイレギュラーなページを設けると、流れに変化を付けられます。

写真提供:河野鉄平

レイアウト例 4 モノクロの風景写真で荘厳さを見せたい写真集と想定

武田:
モノクロの写真の場合、余白を白にするか黒にするかで印象がかなり変わります。白にすると写真も明るく開放的に見え、黒にすると引き締まって落ち着いた印象になります。今回は屹立する山の険しさや厳しさを見せたいので、黒にしました。余黒には、見る人を写真に没入させる効果もあるので、夜景の写真などにも効果的です。

写真提供:長谷川太郎

キャプションや紙はどう考える?

──キャプションはどう考えたらよいでしょう。

武田:
本来、写真集に文字は不要ですよね。あくまで写真を見てもらうのですから、キャプションは目立たないけど読める、というくらいでいいと思います。

──紙はどうですか?

武田:
紙選びはとても重要です。その紙にすることで、写真がよりよく見えるか、また物としてねらいに沿った印象になるか、が基本的な基準になるでしょう。自然な光沢のある紙だと写真がしっかり見えますね。ですから隅々まで見せたい、写真を素材のまま見せたいというときに用いるといいでしょう。これは紙の印象を感じさせたくない場合、とも言い換えられます。光沢系がストレートなのに対し、紙の印象を感じさせることで“はずし”を演出するのがマット系の紙です。紙の風合いを感じさせることで、柔らかさや温かさを出す効果があります。今、光沢は紙の印象を感じさせないと言いましたが、光沢の強い紙は別です。もはや素材としての写真を飛び越え、強いギラギラ感を印象づけます。例えば、細かいきらめきを敷き詰めたような夜景の写真を大きくプリントして一冊にまとめるときなど、超光沢を使うと面白いかもしれませんね。何にせよ、紙選びはテストプリントで比較検討することをおすすめします。

表紙のつくり方

──写真集の表紙って、写真をどーんと大きく配して、タイトルをそこに載せたものが多い気がしますが、なぜでしょう?

武田:
物として考えたときに、それが写真で覆われているというのは、やはりインパクトがあるんですよ。存在感も出ます。写真を全面に使いたかった、だから文字を写真の上に載せることになった、ということだと思います。写真を見せることによって、まず目を引かせ、どんな写真集なのかを見る人に想像させやすくするというねらいがあるのです。そこに載せるタイトルの文字は、基本的には、絵柄の邪魔にならないこと、文字が認識されやすいことなどを考慮します。

──しかし、タイトル文字がすごく小さいとか、写真に大きな文字がかぶさってしまっている、なんて場合もありますよね。

武田:
それは、今言ったような正攻法の逆をいく、あえて外すことによって、興味を喚起させているんです。写真の大事な部分が隠れていたり、一部分しか見えなかったりすると、かえってよく見たくなりますよね。また、不思議な印象を与える写真が表紙になっていると、見る人はどういう写真なのかタイトルから探ろうとする。そういうときに文字が小さく配してあると、見る人をぐっと引き込む効果があるわけです。

──つまり、「こんな本です」というのをわかりやすくする場合と、あえてわかりにくくする場合とがあるわけですね。

武田:
そうです。どういう方法を採るかは、どんな読者を想定しているかとか、物としてどんな印象を与えたいか、によると思います。だから写真だけの表紙があってもいいし、タイトルの文字だけの表紙があってもいいんです。

──文字のデザインって難しいポイントでもあると思うんですが……。

武田:
使う書体・大きさで、与える印象がかなり変わります。例えば、明朝系の書体を使うとかっちりで、ゴシック系だとモダンな印書になったりします。基本的には、このタイトルの言葉を“どういう声で伝えたいのか”と考えるといいでしょう。囁くような声で伝えたいのか、大きく叫ぶような声で伝えたいのか。そう考えると、どんな書体でどう配置したらよいかが見えてくるのではないでしょうか。

写真の明るさと余白の色

白い余白を付けた場合

黒い余白(余黒)を付けた場合

余白に何色を持ってくるかでも、写真の見え方は変わる。写真の周囲が白など明るい色だと、明るい写真はより明るく見える。逆に、周囲を黒など暗い色に囲まれると、暗い写真はより暗く見える。この傾向は、余白(余黒)が大きければ大きいほど進む。また写真の明るさと周囲の明るさに差があればあるほど、コントラストによって絵柄がしまって見える。それぞれの効果を有効に活用しよう。

書体・大きさでかわる印象

A

B

多くの書体があるが、主な日本語の書体は大きく分けると、明朝系とゴシック系に分けられる。新聞などでおなじみの横線が細く縦線が太い明朝系の書体は、Aのように流麗できれいできちんとした雰囲気になる。線の太さが一定で肉太なゴシック系の書体は、Bのようにモダンで率直、ニュートラルな印象にもなる。
また文字の大きさでも与える印象が変わる。小さな文字にすればつぶやきや囁きのようになるし、大きな文字にすれば叫びや訴えのような強さが出る。書体と大きさの組み合わせだけでも、いろいろな見せ方ができるということ。

絶対の正解も間違いもない

──最後に、写真集づくりに挑戦する皆さんに、アドバイスをお願いします。

武田:
いろいろ手を加えることがデザインだと思われがちですが、そう思っていると純粋に写真を見るのに支障になることをしてしまいます。凝ったことをするよりも、シンプルに考えましょう。しかしそうは言っても、いろいろな方法があります。ですからたくさん写真集を見てください。そしてつくってみてください。一度でもつくってみると写真集の見方が変わり、自然に「なんでこうしたんだろう」と考えるはずです。一人で何役もこなすのは大変ですが、絶対の正解も間違いもありませんから、どんどん自由な発想でやってみてください。

終わりに

第2回で写真集づくりには、写真家、編集者、デザイナー、印刷業者の4役が関わるとお話しました。そしてその4役すべてのプロたちが口をそろえて言うこと、それは「写真集づくりにどんどん挑戦してみましょう」「たくさん写真集を見ましょう」ということです。
写真集をつくると、平面だった自分の写真が形をもって生まれ変わり、それによって他の人に届くことの楽しさを実感します。またテーマや題材を見つけることがうまくなり、被写体を見る視点や撮り方までも変わっていきます。そうして培われる力量は、プレゼンテーション用のポートフォリオ(ブック)をつくるときや、コンテストに応募するときにも必ず役立ちます。
また、一度つくれば、他の人がつくった写真集の見方が変わります。書店に並ぶたくさんの写真集、これ以上の教材はありません。この本のテーマは何だろう、なぜこのような写真の並びにしたのだろう、なぜこのタイトルにしたのだろう、そういう考察はあなたの“写真力”をどんどん高めていきます。
さあ、最初の一冊にトライしてみましょう!あなたのフォトライフがますます充実したものになりますよ。

デザイン作業のポイント

  • 写真集のテーマやねらいをよく理解する(客観的に確認する)
  • 中と外、全部合わせての「印象」を考える
  • 写真の配し方や余白などは実寸でプリントアウトして確認する
  • 必要最低限のデザイン処理で写真をきちんと見せる
  • 中コンセプトに合った紙を使う
  • たくさんの写真集を見て学ぶ

監修・構成:井本千佳