写真集の「つくる人」にも「見る人」にも聞くエッセンス やればわかる!その楽しさ・面白さ 連載第3回 写真を「編む」とは

一冊の流れを考える

──見開きという部分を見るズームの視点と、大きな流れを見るワイドの視点の両方が必要ということですね。その“流れ”をつくるための方法として、写真の組み合わせ方以外に大事なこととはなんでしょうか。

島本:
大きな流れの見せ方、それを僕は写真集の「リズム」と言います。『おきて』と『地球の楽園』では異なるリズムを持っています。『おきて』はたくさんの写真が途切れることなく続くのに対し、変化する自然や連鎖する生命のドラマがあって、それをどんどん見せています。

──展開が早いですよね。反対に『地球の楽園』は見開きに入る点数を抑えて、大きな余白があるページが多くなっていますね。

島本:
『地球の楽園』のほうは、ゆったりしたリズムにしたんです。ストーリーや展開で見せる『おきて』と違って、読者は写真一点ずつをじっくり見て、ゆっくりページを繰るだろうと想像したんです。それに、独特の色彩を見せたかった。目に飛び込んでくるような鮮やかな色を。だから写真も見開きでどーんと使ったり、余白をたっぷりとったりしました。本全体から「言葉にならない楽園の空気感」みたいなものを感じてもらおうと思ったわけです。

タイトルについて

──写真集における写真以外の大事な要素に、「言葉」がありますね。タイトルやキャプションといった文字の情報は、どのように考えればいいでしょうか。

島本:
写真集の場合には、タイトルはものすごくその本を「規定」していきますよね。主題も浮かび上がるし、何を伝えたいのか、どう伝えたいのかもタイトルに表れます。例えば漠然とした「photographs NO.1」でもいいし自分の名前でもいいわけだけど、自分の名前を付けたら親類や友人しか見ませんよね。つまり、見る人と伝える人の間に置かれるものだということをきちんと考えないといけない。僕の場合、写真を見始めたときからタイトルを気にはしているわけですけど、具体的に見えてくるのは、写真をセレクションして並べていくようになってから。『おきて』のときも、最初は「決まり」とか「ルール」などが頭に浮かんできたんですが、あるとき「おきて」って思いついた。写真家やデザイナーに「『おきて』って思いついたんですけど」って言ったら、「いいね!」ってことになった。でも漢字にするとなんかガラが悪いし、カタカナにしてフェイントをかける必要もない。それで自ずとひらがなに決まったわけです。

キャプションで伝えるべきこととは

──『おきて』ではページの下部に短いキャプションが添えられていますね。ライオンの横顔のアップには「野生のライオンは、顎が発達して、顔が長く見えます」といったように。どんなキャプションが、いいキャプションなんでしょうか。

島本:
キャプションには、見る者の理解を誘導する機能があります。でもすべての写真に必要なわけではないですし、ときには説明しないことによって伝わる場合もあるわけです。それはケースバイケース。でも基本的に、写ったもの・見てわかることを説明する必要はない。写っていないことで、なおかつその情報によって伝えたいことがはっきりしてくる、それがキャプションですね。『おきて』の場合でいえば、動物の専門家じゃないと写真を見ただけではわからないことがあるわけです。その状況は説明しました。

キャプションを入れないという方法

──『おきて』と対照的に、『地球の楽園』にはキャプションが付いていませんね。撮影した場所の情報、写っている花や魚については、巻末の数ページにまとめられています。なぜ、このような見せ方になったのでしょう。

島本:
『おきて』ではつながりを理解してもらうために、ある程度説明しなければいけなかったんですが、三好さんの楽園の写真にはその必要がありませんでした。物語として見せるというより、南の島の空気感を匂い立たせることが大事だったんです。見る人が自由に解釈してくれて問題ない、そういう写真群でしたし、そういう本にしたかったんですね。この島のこと、この魚のことなど、もっと詳しく知りたいという人だけ、巻末の解説を見てくれればと、こんなスタイルにしました。

最後に、つくる人へ

──実際に作業をしていると行き詰まったり考えがまとまらなかったりしますが、島本さんはどうしていますか。

島本:
第三者に見てもらうことは必要ですね。編集作業に入り込んでいる人では気づかないことがあるんですよ。あばたがえくぼになったり、えくぼがあばたに見えたりしますからね。読者の皆さんなら、その本を届けたい人に近い人に見せたらいいと思う。奥さんとか子どもとか。それから、僕は「目を洗う」と言うんだけど、ときどき写真から離れることも大事。散歩したり音楽を聴いて気分をリセットすると、写真の見え方がまた変わってきますから。いい写真集にするために一番大事なことは、「写真家がきちんと届けようとする」ってことだと思うんです。「おれのうまさを見せてやる」ってことじゃない。写真がうまいというのは前提で、大事なのはそれをどう並べてどうテーマを込めるか。アマチュアの人たちにとってもそれは同じで、自分たちがいかにいい旅をしたか、自分のペットがいかにかわいいか、愛する人をなくしていかに悲しかったか、ということがちゃんと誰かに伝われば、ハッピーなことですよね。

編集作業の流れとポイント

1:写真を仕分けてテーマを見つける
2:テーマを伝える相手と方法を考える
3:1と2を念頭に写真を並べていく
→見開きをつくってつなぎ合わせることから
→掲載のサイズや余白を工夫する
→写真集全体の流れ(リズム)を演出する
→テーマに沿ったタイトルを考える
→必要なキャプションを入れる
→作業中は気分転換や第三者に感想を聞くことも必要

監修・構成:井本千佳