年1回開催となり、応募作品のレベルがさらに上がったネイチャー部門とヒューマンライフ部門。その最高位に輝いたのは、的確なカメラワークで捉えた野生動物たちを一冊の本として見事にまとめた「最後の楽園」の蛭海啓行さんと、カレンダーというユニークなアイデアで家族写真を魅力的に提示した「ファミリーカレンダー」の長吉秀さん。ここでは受賞作品の制作秘話やデジタルプリントのこだわりなど、お二人の作品づくりの背景に迫ります。
今までいろいろなコンテストに応募したことがありますが、グランプリをとったのは初めてで本当にうれしいです。応募のきっかけは、前回のエプソンフォトグランプリで佳作に入選したことです。その作品も南アフリカで撮影したものだったのですが、それが励みになって今回の「最後の楽園」という作品づくりに挑戦しました。南アフリカ・ボツワナのオカバンゴ・デルタという場所で、野生と人類の共存の難しさを感じながら写した作品です。
−動物写真を撮るようになったきっかけは何だったのですか?
仕事の関係で18年間、ケニアのナイロビに住んでいたことがあり、そこで作品づくりをはじめました。当時ナイロビには約500世帯の日本人が住んでいて、日本人会というグループがありました。そこで写真好きの仲間に声をかけて「ナイロビ写真同好会」を発足したのがきっかけです。それまでカメラは持っていましたが、記念写真や知り合いの結婚式を撮影する程度。アフリカで写真をはじめたということもあって、比較的身近な被写体であった野生動物を写すようになりました。


−作品づくりのプロセスについてお聞かせください
今回は10日間という短い撮影期間でしたが、地上だけでなくカヌーやヘリコプターからも撮影をして、実際に撮った写真の数は数千にもおよびました。作業の工程としては、最初はすべての写真から気に入ったものをおおまかに選びました。そして残った写真を一枚一枚丁寧に見て、動物の目にピントが合っているかを確認していきました。どんなに構図や狙いがよくても、ピントが甘いものは外します。その上で構図がしっかりしていて、何か訴えてくるものがある写真に絞り込みました。ここまではモニター上で行った作業です。そして、ここで残った写真を2L判にプリントします。そこからまた半分くらいに絞り込んで、次はA4 にプリント。これをさらに絞り込み、作品として仕上げてもいいかなと思ったものをA3またはA3ノビにプリントしていきました。
−今回の作品を作る上でこだわった点は何ですか?
今回に限ったことではありませんが、私の考える「いい動物写真」とは、動物図鑑のようなきれいな写真ではなく、動物が訴えてくるものをしっかり捉えているものです。そのための最低限の条件は、目がしっかりと写っていること。したがって、目が何を訴えているかということが重要なポイントになります。私はいつも動物たちの目が訴えてくるものをカメラで捉えたいと思っています。
−今回は本という形でまとめていますよね
そうですね。最後の絞り込みをする段階で40枚ほどの写真が残りましたが、ここで最終的なプレゼンテーションの形態を考えはじめました。本にまとめようと思ったのは、見る人にスムーズに見てもらえると考えたからです。また、バラで見てもらうより作品のこだわりや特徴が、よりはっきりと伝わるだろうと思いました。しかし、本にまとめていくという作業が、実は一番苦労したところでしたね。私が気をつけているのは3点。「起承転結があって流れが単調にならないこと」、「はじめと終わりに締まりがあること」、「ページをめくる時に、次は何が出てくるのかなという期待感を持たせること」。この3つのポイントを念頭に、流れが止まって退屈するようなことのない構成を考えました。同時に、本全体のバランスも視野に入れる必要があったので、ページレイアウト全体を1枚の A3ノビの紙にプリントして、試行錯誤を繰り返しました。プリンタはPX-G5000を、もう3年近く使っています。A3ノビまでプリントできるのが選んだ理由ですが、色もイメージ通りに出て使い勝手がいいですね。私はMacを使っていますが、モニターとのカラーマッチングにも満足しています。
−今後はどんな作品をつくっていきたいですか?
私は主に動物写真を撮ってきましたが、ネイチャー写真といっても様々な被写体や表現があるので、これからはより多くのものに目を向けて、作品づくりの幅を広げていきたいと思っています。特に、日本国内の四季の移り変わりの美しさなどを写していきたいと思います。パノラマ写真にも挑戦したいですね。私が住んでいるところは眺めが良く景色も美しいので、それをパノラマ写真にして四季を表現するというのもいいですね。
−最後に、これからデジタルプリントを始める方にメッセージをお願いします
私は仕事上たまたまパソコンやPhotoshopを使う機会が多かったので、それほど抵抗なくデジタルフォトを楽しむことができました。もしこれからはじめようという人がいたら、本を読んで覚えるだけではなく、デジタルに詳しい知り合いをつくって教えてもらうとか、仲間と一緒にやっていくと楽しみながら覚えられると思います。
制作現場を見せてもらいました

壁には額装されたご自身の作品、デスク上には愛用のMacintosh G5、PX-G5000、フィルムスキャナがある。「PX-G5000は音が静かなので助かります。」夜中にプリント作業をすることも多い蛭海さん。音の気にならないプリンタのおかげで、奥様の安眠を妨げる事なく安心して制作に没頭出来る。

蛭海さんがこれまでに作った作品集。南アフリカの本とともに、日本国内を撮った作品集も見せていただいた。表紙には「紅葉探索紀行」「飛騨路逍遥」など、それぞれ工夫を凝らしたタイトルが。写真のレイアウトだけではなく、タイトルの付け方、フォントや色の選び方、装丁の仕方など、本を制作する楽しみは尽きない。
私は15歳頃から写真をやっていますので、写真歴はかれこれ40年以上ということになります。普段撮影する場所は家の近くで、花や風景を撮ることが多く、作品のほとんどがネイチャー写真です。福岡はちょっと車で移動をすれば海も山もあり、被写体に困ることはありません。そういうわけで、今回受賞した「ファミリーカレンダー」という作品は、初めからこのようなテーマで作品をつくろうと思って出来上がったものではないんです。これらの写真は、普段私が花や風景を撮影している時に声をかけてきた人たちを主に撮影したものです。カメラを持って歩いていますと、「すみませんが一枚このカメラで撮ってもらえませんか?」という具合に、記念写真のシャッターを頼まれることがありますよね。写真をやっている方でしたら一度はそういう経験があると思いますが、そうした偶然の出会いがきっかけで「せっかくなら私のカメラでも撮らせてもらっておこう」と思ったのがはじまりです。かれこれ20年くらい前から撮りはじめたんですよね。
−それを作品としてまとめるきっかけはなんだったのですか?
偶然の出会いで撮っていた家族写真も、20年という月日の間に少しずつ数が増えていきました。それを整理している時、これを一つにまとめたら何か面白いものができるんじゃないか、と思いついたのです。このひらめきがこの作品をつくったきっかけです。最終的な形になるまで何度か試行錯誤をしました。ただ並べても面白くありませんので、初めは季節ごとに合計4枚でまとめてみました。すると数が少なすぎて逆に面白味がなくなってしまいました。そこで、12ヵ月分のカレンダーに見立てることにしたんです。写真を撮影した月ごとにまとめて、そこから全体のバランスを考えながら1枚ずつセレクトしていきました。
ここに登場している家族の中には、撮影をきっかけに今でも交流のある人たちがいます。撮らせていただいた家族には、毎回写真をプリントし、後日お送りしています。それがきっかけで交流ができるんです。今回このコンテストでグランプリを受賞したことを早く報告したいですね。
−フィルムカメラをお使いということですが
そうですね。写真を初めて以来、ずっとフィルムカメラを使っています。今でこそ35mmと6×7判カメラを使っていますが、昔は6×6判カメラも持っていました。作品づくりにはモノクロフィルムとカラーリバーサルフィルムを使用しています。まだデジタルカメラは一台も持っていないんですよ。
−作品の仕上げはどのようにしているのですか?
モノクロ写真はいまだに暗室でプリントしています。カラー写真はスキャナでフィルムを取り込んでプリントしています。自分でカラー写真をデジタルプリントするようになったのは、2年前くらいからですね。それまでは、写真店に出したり、友人にプリントしてもらっていました。しかし、他の人にやってもらっても、自分が要求する色がなかなか出ないんです。私がプリントで求めることは、原板に忠実であるということなのですが、どうしてもそれがうまくいきません。ちょっと赤みが強かったり、明るさが違ったり。「これは自分でやるしかないな」ということで、自宅でデジタルプリントをするようになりました。デジタルでの作業は、1日2~3時間程度。作業ペースとしては、今日はフィルムスキャンをする日、明日はレタッチをする日、そして明後日はプリントをする日、というようにある程度のカット数の写真をまとめて、一行程ずつ進めていきます。暗室でモノクロプリントを仕上げる作業と少し似ているかもしれませんね。


−現在はどのような活動をしているのでしょうか?
写真コンテストに応募することがすべてですね。写真展といった活動もあるとは思いますが、東京に比べると、福岡は展覧会をする場所があまりありませんので、今は特に考えていません。
コンテストの魅力は、なんといっても入賞すると、多くの人に見てもらうことができる点です。そういう意味でも、今回のグランプリ受賞はうれしい限りです。私にとってコンテストへの応募は、作品づくりのための原動力になっている気がします。応募した時点でそれまでの作品はおしまいにして、次の作品に向かうことができます。結果はどうであれ、応募するということが一つの区切りになるのです。ですから、次回のこのコンテストにも必ず応募します。次の作品はまだ考案中ですが、モノクロの写真を出してみようと考えています。まだ経験の少ないデジタルによるモノクロプリントに挑戦していきたいですね。
−最後に、これからデジタルプリントを始める方にメッセージをお願いします
私自身が実践していることは、指導を受ける機会があったら、まずは人の意見を素直に聞き、従ってみるということです。場合によっては自分の考えていることから外れていることもあるかもしれません。でも、自分の主張を貫く前に、一度その意見を取り入れて、その上で自分の色なら色、スタイルならスタイルを追求していくと上達が早いと思います。
制作現場を見せてもらいました

作業スペースのデスク上にはパソコン、プリンタ、スキャナ、フィルムスキャナが各1台ずつ。机の横の乾燥棚は長さんの手作りでA3サイズマでのプリントが収納可能。インクが完全に乾くまでの間、プリントはここにおいておく。限られたスペースの中で作業効率のいい「デジタル暗室」を作っている。
普段はPM-4000PXを使用しているが、今回の受賞作品にはエプソンの染料プリンタPM-3700Cを使用。「原板に非常に忠実な色を出してくれますね」と長さん。デジタルプリントを始めて、自分で思い通りのイメージに仕上げられるようになり、作品が完成するまでの時間がずいぶん短くなったそうだ。