小野麻早 [グランプリ 写真部門]
─ むちゃくちゃ面白い。
この作品はプリンターありきだったんです。みんなもっとずっと早くに出会っていると思うんですが、僕の場合は去年初めてプリンターに出会った。世の中の出版社もデジタルでないと経費がかかってしかたないからということで、買ってこいと言われてデジタルカメラを手に入れて。プリントするために、いろいろなものをデジタルにしてみたのです。
すべて自分に関係があるものばかりです。自分に関係のないことはひとつもなくて、1枚1枚、自分なりに構成していった。メインにおいたのは自分のことと母親のことです。
プリンターがあると昔撮った写真を蘇らせることができるので、非常に楽しかった。プリンターにお任せしたんです。
─ 若い女性の写真も見られますが。
写真家として仕事をしていたときに撮った写真です。ここに載せてもいいなと思える写真を選び、印刷物をデジカメで再撮影し複写して、それからプリントアウトしました。
─ 応募要項は自前でしたね。
(所定の用紙を)失くしてしまったんです。ときどき行くギャラリーに応募のチラシが置いてあったのでそれを持ち帰ったところ、「賞金200万」って書いてある。これはいいなぁと思って。応募作品はずっと作っていていろいろな人に見せていたのですが、面白いと言う人もいればやりすぎだと言う人もいれば、子どもの遊びじゃないかと言う人もいた。いろいろなので、もっとみんなに見てもらいたいなという気持ちもありました。
自分でも完璧に計算して編集して作ったたわけではないので、次のページはこの写真でいいなとかそういう感じ。完全を狙ったわけじゃなくて。常に余韻を残すというほどでもないけど、一つひとつ見れば全部不完全と言えそうな写真ばかりで、そういうものをわざわざブックにしたかったというのもあります。
─ これを制作した動機はどういったことだったのですか?
それはもうプリンターありきです。以前は印画紙に自分でプリントしなければならなかったわけですが、カラープリントはすごくお金がかかりますよね。プリンターだとやはり安くできる。それも自分の目の前ですぐ判断できちゃう。その点が自分にとってはすごくやりやすかったです。
─ あなたの作品はかなりパーソナルである。ということは、何らかの作る理由がどこかにあると思うのです。理由に対して、無意識の場合もあるし、意識して作る場合もある。
半分半分です。自分の事情とか家庭の事情とか、すべてが絡み合っているからです。今、母がグループホームみたいなところでお世話になっているので、月に大体10日ぐらい田舎に帰っているんです。その間におふくろの写真を撮ったりまわりの景色を撮ったり。東京に戻ってきたときにそれらを整理したりプリントしたりする。基本的に暇が多かったもので、つい制作に熱中してしまったというところです。
自分の履歴というような感じもあります。自分が生まれてからの家族との関係と、自分がやってきたこと。大人になってからは写真の仕事をやってきたのですが、それに対しての証明書みたいな部分もあると思います。
─ タイトルが「生存料金についてのお知らせ」。すごく面白いんだけど。ちょっとイっちゃってるのか、と……。
イっちゃってないですよ。(笑)
─ イっちゃってる人っていうのは、自分でそうとは思っていないことが多い。本当にイっちゃってるのか演技をしているのか、よくわからない。それで実はあなたのことをネットで検索したら、「小野麻早」という名前で結構な件数がヒットした。
グラビアアイドルの仕事などをしていた時期があるのです。
─ それらの写真を見ると、ちゃんとアングルを心得て撮っている。プロの写真作法を知っている人であるならば、常識人といえるだろうが、それでは、この作品とのギャップは何なのか、と。たまたま、僕の知りあいの編集者から「小野さんは最近ほとんど仕事では撮っていなくて、どこかのアパートで超・貧乏暮らし、自分の作品をしこしこと作っています」という話を聞いて、あなたの作品があなたの存在とぴったり合致したのです(笑)。
仕事を始めて今まで、仕事のうえで、自分自身を表現できたことがほとんどないんです。フラストレーションが溜まりに溜まっていました。
─ 職業写真家は、掛け値なしの自分の本質を無意識で撮るというわけにはいかないからね。
これからもこういう作品を作りつづけていくのですか?
この作品のバリエーションと言うだけではなくて、自分の頭の中には、たくさんのバリエーションがあるのです。同じ写真を使って違う形にしたりとか、複数のバリエーションを同時に作っています。
最近は全く仕事がないですからね。ここ2カ月仕事していなくて。いろいろな事情がありまして。今はおふくろがとにかく一番大事なんです。そのために今は生きているという感じです。だから今は仕事をやらなくてもしかたないなと思って。そのかわり作品のほうに精を出していこうと思っています。
これからも作品を作りますよ。自分で楽しみながら。あとは人に見てもらうこと……それが一番の楽しみです。